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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
一章 学園入学編。 攻略対象キャラたちに、俺、囲われ始めたんだけど!?

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第4話 王子殿下の距離感がおかしい。初対面ですよ?

 三人に何かを告げたかと思えば、王子であるカリスが、アディの席の方へと歩いてきた。


 ――あー、おいおい。マジか。


「やぁ。アディウートル君、であってるかな?」


 爽やかな雰囲気のカリスとは対照的に、アディは内心でげんなりしていた。極力関わりたくないという平和思考が勝る。


「王子殿下にご挨拶申し上げます。アディウートル・クストスです」


 アディは椅子から立ち上がり臣下の礼を取って、カリスに挨拶をした。


「校内だから、楽にしてくれて良いよ。カリスと呼んでくれ。

 これは、前期組の時から皆にそうしてもらってるからね、気兼ねは要らないよ」


「ご配慮ありがとうございます。カリス様。私のこともアディと呼んでください」


「……呼び捨てで構わないと言ったのだけど、ガードが固いね?

 そうそう、アディはすごいよ。後期入学組で、学年三位とは恐れ入った。

 僕たち四人の順位が変動したのは久々で、さすが神童だと話していたんだ」


 あくまでも一線を保つアディに、カリスは気を害した風もなく笑っている。

 けれど、碧の瞳は品定めするように冷えていた。


 四人と言った時には、前席にいる三人にチラリとカリスが視線を送っていた。

 アディが見れば、三人ともこちらを観察していたようだ。フィデスもウェルムも一見、好意的な雰囲気をしていた。

 唯一ルナだけが、警戒心剥き出しの子犬のように見える。


 ――気まずい。


 対するアディは、内心が穏やかではない。前世で簡単に感じた分野は手を抜いたはずの試験だった。その結果は、見ていなかった。

 まさか学年三位だったとは、道理でセレーヌスが式辞を惜しそうに言うわけだ。

 アディはてっきり、Aクラスに引っ掛かる程度の成績だろうと思っていたのだ。


 ――セレ兄さん知ってたな。あれ、もしかしなくても、ケレルのさっきの反応も……?


 気づいた可能性を全力で、心のゴミ箱にアディはぶちこんだ。

 過ぎたことをいつまでも気にしては、埒が明かないというものだ。次に気をつければいい。


「過分な評価です。私には兄がいますので、試験のコツを教わって、たまたま山が当たっただけです」


 当たり障りなく答え、アディは愛想笑いを浮かべる。目立たないようにと思ってたのに、無自覚は怖い。


 ――切り替えが大事だ、うん。


 教師が教室に入って来たタイミングで、カリスは不意に、アディにぐっと近寄ってきた。突然のことにアディは反応できず、ビクッと音を立てて身を固くした。


「なら、今回はそういうことにしておこう。

 ……過ぎた謙遜はやっかみを生む、気をつけなさい」


「っ!?」


 カリスは笑みを浮かべたまま、アディの耳元に唇を寄せると、最後にそう忠告してきた。

 かかる吐息に、ぞわりと鳥肌が立った。ふわりとベルガモットの清涼な香りがし、それが彼からだとアディは遅れて気がついた。

 

「次の試験を楽しみにしているよ」


 そういって、カリスは振り返ることなく自分の席へと帰っていった。


 ――あぁ、しまった。て言うかやべぇ。


 対するアディは、頭を抱えて項垂れた。

 まさか不動だった順位を、アディが動かしてしまっていたとは思わないだろう。

 それに、カリスの口が耳に触れるかと思った。距離が近すぎないか、あの王子様。


「……あつい」


 アディはそっと手で耳を触る。声変わり前の少年特有のカリスの高音が耳に残って、じんじんする。

 熱さを感じ、顔も耳も真っ赤になっているはずだ。


 ――乙女ゲームの破壊力め!


 その後のホームルームでは、担任からの連絡事項などアディの頭に全く入ってこなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「どうだったー?」


「可愛いね。後期入学組だから、人にも慣れてないんだろう。社交慣れしていなかったよ」


 赤茶の髪を揺らして背もたれに寄りかかったフィデスが問えば、カリスは笑顔で面白そうに答えた。

 その碧の目が全く笑っておらず値踏みしてきたのは、三人には丸分かりだったようだ。


「ふん、ただのお子様か」


「ルナ、僅差で負けてたもんなぁ。まだ根に持ってるのか?」


 つまらなさげに、ルナが吐き捨てた。

 そのルナの頬を横からつついて、フィデスがちょっかいをかける。


「お前は、その、さらに下だろうが!」


「はいはい。あまり大きな声を出さないでくださいよ。はしたないですから」


 フィデスとルナが揉め始めたため、ウェルムが優しく仲裁をする。

 彼らを横目に、カリスがウェルムの隣の席へとついた。

 チラリと一度視線を後ろへ向ければ、アディが頭を抱えていた。

 その顔が赤く、アディの表情の取り繕え無さに、カリスは再び笑いを噛み殺した。


「……兄がいて、山が当たって、たまたまらしいよ?」


「それはそれは、さすが神童。侯爵家の出自だから虐めはないでしょうが、不穏ですね」


 カリスが筆記学年一位のウェルムへと、アディの主張を聞いたまま伝えた。

 ウェルムは口許に笑みを浮かべ、目を細めて答える。


「忠告はしてきたよ。初日から問題を起こされても私が困る。明日からの実技が楽しみだ」


 前期入学組からすれば、教師の話はおさらいどころではなく、ただ退屈なだけだった。

 カリスが先ほど見た、冴えない眼鏡の男子生徒。明日の実技へとその思いを巡らせた。


 後期入学組は少人数。

 実技試験は個別対応だったから、試験管以外誰も、アディウートル・クストスの実力をまだ知らないのだ。


 ――神童のお手並み拝見といこう。

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