第3話 眠たかったので、攻略対象を犬に例えてみました
「あとは、ホームルームだよなー?」
気だるげな入学式を終えて、アディは伸びをしながら廊下を歩く。隣にはケレルが居た。
「そうそう。アディは、サークルなんか入る? あとで一緒に見学行かねぇ?」
「サークルなぁ……」
頭の中でゲーム知識を思い起こそうとして、アディは唸る。
攻略対象たちとのストーリーか育成に関わってそうな分野たが……。
――サークル、要するに部活動のことだったよな。二つまでは、兼部も可能だったっけ?
アディはゲーマーとして多様なゲームをしてきたから、細かいところまではいちいち覚えてない。
そもそも最低でも十四年も前の話だ。記憶として古すぎる。
――ダメだ。やっぱり覚えてねぇ!
隠しキャラとか居ても、分からないし。
けれど育成、攻略系の王道としては、攻略対象がバラけてサークルに所属していたり、逆に、一つのサークルに集まっている場合が定番だ。
「俺はしばらく保留かな。ケレルは好きに見て回れよ」
ただのチュートリアルのサポートキャラでも、何かに巻き込まれてしまう可能性はあり得る。その後が悲惨になる可能性を捨てきれない。
――モブが活躍する小説とかあったよな。奇想天外な人生とか、メンタル食うやつとか嫌なんだけど。
なぜならここはゲームとそっくりなだけで、アディにとってはまず間違いなく現実のはずで。
アディウートル・クストスとしての歩んだ今までの記憶と人生がある。
――覚えてるのは、攻略対象の名前と外見。だいたいの世界観、ざっくりしたストーリーとかそんなんだもんなぁ。
ヒロインが編入した時、ケレルは何かのサークルに入ってたはずだ。それさえアディは覚えてない。
前世でよく似たゲームを見ていて、ただそれを重ねているだけとも言える。
大変おぼろげで、頼りない記憶の状況だった。
それにもう一つ懸念があった。アディがサークルに入って、うっかり前世チートを無自覚に披露してしまう可能性。
また、幼少期のように注目を浴びてしまう。それはそれでダメだろう。
――侯爵家の気ままな三男ポジは、手放したくない。
家族仲は今、とても良いのだ。後継者争いとか、政略結婚とか何かに発展したくはない。アディの密かな願いだった。
後ろから教室に入り、ケレルと分かれた。
ケレルはこれから、他の生徒にサークル見学の誘いをするらしい。羨ましいほどにフットワークがとても軽い。
そのケレルの後ろ姿は、ご機嫌のあまり尻尾が振ってるのでは? と思ったほどだ。
アディは教室を見渡して、空いた中列の席に一人、腰を下ろした。
暗黙の了解で、前列が王族、高位貴族。後列が平民などの身分もしくは成績順だからだ。
――眠い。
窓からのポカポカとした陽気にあてられて、アディはあくびを噛みしめる。このまま寝てしまえそうだ。
セレーヌスの祝辞以外、入学式の内容は前世と似たり寄ったりで、右から左だったのも大きい。なぜ、あんなにも学長の話は長いのだ。
――あ、あれ残る攻略対象たちじゃねぇ?
ふと教室の前方に、ただならない存在感の美形軍団を見つけた。
入学初日から、グループが幾つか出来ている。その多くは、親同士の繋がりや幼少期からの前期入学組だろう。
――そういえば残りの攻略対象は皆、高位貴族で、前期入学組の同じ学年だっけ。
アディは前期を通わずに、ずっと領地で過ごしていた。
そのため、同じ年の友達はさっきのケレルが初めてだった。
ちなみにケレルはアディと同じ侯爵令息で、後期入学組である。
そのまま前方の四人を眺めながら、前世の記憶と照らし合わせ始めた。
眠気対策の、アディにとっては単なる暇潰しのつもりだった。
カリス・ファティウム。
王子で柔らかいふんわりとした金髪に碧眼。乙女ゲームの王道、王子様然とした佇まい。
人当たりの良さそうな感じだが、実は腹黒王子の執着系枠。
――例えるならゴールデンレトリバーだな。
フィデス・アルドール。
父は騎士団長の公爵令息。赤茶の髪に赤のつり目、がっしりとした体躯だが、眺めている分には、とてもキツい印象は受けない。
それどころか、人懐っこい感じで三人と話している。
王太子の護衛を兼ねているのだろう、帯剣していた。脳筋の体育会系枠。
――見た目も相まって、アイリッシュ・セター辺りだろう。
ウェルム・レクティトゥード。
父が宰相の公爵令息。紺の長髪を下の方で三つ編みにして纏めている。金の瞳。
四人の中では、一番冷静な目をしているように感じる。確か万年学年首席だ。
知性キャラ枠。
――よし、ボーダー・コリーにしよう。
ルナ・ヴェネラティオ。
父が王宮魔法師団長の公爵令息。癖のないスッキリとした黒髪に藍の瞳。
将来騎士団入りが決まっている有能株の魔法剣士。こちらも帯剣していた。
ツンデレ系可愛い枠。
――四人の中で一番背が低いから、ミニチュア・ピンシャーかな。
などと、俺はAクラス上級貴族の四人を、見事に犬に例えていた。
犬の性格は、ゲーム知識のイメージで補完だ。暇なのだから、心の内に秘めれば許されるはず。
そしてこのうち二人は、カリスと学年を合わせるために、実際の年齢は上だったり下だったりするはずだ。なんという根回し、権力の無駄遣いだろう。
――誰が何歳か、とか覚えてねぇ……。
「……!」
じっとアディが四人を見ていたら、王子のカリスが、こちらに気づいてにこやかに手を振ってきた。
それに釣られて三人も、一斉にアディを見てきた。
フィデスは笑い、ウェルムは微笑を浮かべ、ルナはなぜか不機嫌に睨んでくる。
――やべ、露骨に見すぎた。
ペコリと座ったままアディが頭を下げれば、カリスがこちらへと歩いてきた。
アディが慌てたところで、もう遅い。せめて、不敬とか言われませんようにと、冷や汗をかきながら心の中で祈った。




