第6話 寝不足の時にはやる気も出ない。ご褒美があると頑張れるよね
学園生活二日目。
あれから晩餐での衝撃事実が抜けきらず、アディはやや寝不足気味だった。
自然とあくびも出るのも仕方ないだろう。
入学式が終わったからと言い訳して、アディはさっそく制服の襟元を緩めていた。眠いからではない、断じて。
「おはよう、アディ」
「……はよ、ケレル」
丸眼鏡をかけたまま器用に目を擦り、アディは返事をした。
廊下でケレルに話しかけられ、そのまま一緒に教室に向かう。
――あー。切実に、クールの目薬がほしい。
あのシャキッと感があれば、目が覚めるのに。眠気覚ましに都合の良いものなど、ここにはなかった。
「寝不足?」
「いや、大丈夫……一徹くらい。
というか、うん。ちゃんと寝たぞ、三時間くらい」
「は? 今日実技があるけど……その、大丈夫か?」
アディの受け答えに不安を感じたのか、ぎょっとしたケレルがそう問い返してくる。
――社畜なら、余裕の所業だろ。何驚いてんの?
「今日の実技は、なんだっけ」
「昨日説明されただろ。一学期の実技のペア決め。
能力と相性見て決めるって、午前が魔法実技。午後が体術と剣術」
――ああ、カリスのせいで全く覚えてない昨日のホームルームか。
「そうだった、そうだった。じゃあ、着替えないとな」
「……着替えは午後だよ。午前は的に、魔法当てるだけだからな」
「そうか。ケレルは頭が良いな」
可哀想な目でみるのをやめてほしい。呆れつつも説明してくれるケレルには、ありがたいのだが、居たたまれなくなってくる。
「はぁ、君は神童だろ?」
「だからいつの話だよ。俺は今、凡人だっての」
ケレルとの軽いやり取りに、アディはようやく頭が冴えてきた。
――持つべきものは、安心で優秀な友だよな。距離感バグの格上キャラじゃないって。
「ケレルは、昼ご飯どうするの?」
「食堂が気になってる。アディは?」
「あ、俺も食堂行きたい。一緒に行こうぜ」
後期入学組でAクラス在籍なのは、アディとケレルの二人だけだった。
家の格も同じ、入学時期も同じと来れば、不思議と親近感も出来る。
「どうせならデザート賭けようぜ。結果で」
「別に良いけど。俺、筆記より自信あるぞ。アディは勝つ自信あるのか?」
筆記で上位に上がったアディと、セレーヌス曰く実技で上位に上がったケレル。
というのは、晩餐から逃げるように自室に戻り、寝れないために読み漁った学園の資料を見て気づいた。
――実技は心配いらないよな?
アディは本来、初期強化で消費される名前のないサポートキャラ。
筆記で目立ってしまったのは、これから要改善していけば良いだけのはずで。
「いや、全く。ただ楽しみたいだけ。面白そうだろ?」
ケレルの忖度のない素直さは、アディにはとても好感が持てる。
アディは昼食の楽しみを作り、魔法実技に挑むことにした。
◇◆◇◆◇◆◇
「ルールは簡単。これらの的の中から当てられる物を各々選んで、得意魔法を十回放つこと」
Aクラスの十人が集まって、女性教師が説明をする。
スタート地点にはラインが引かれており、そこから的の遠近、大小さまざまな物が配置されていた。
的には魔法耐性が付与されており、当たった場合、その威力で的の色が変わるらしい。
己の自己認識、魔法技術を測るのにもってこいの方法だろう。
ゲームでは学園の授業は全て、何かしらのミニゲームになっていたはずだ。
魔法技能に関しては、タイミングよくボタンをタップするだけのものだったはず。
なるほど、実際はこうなのか。そして……。
――乙女ゲームなのに、女性教師なのか。
ちなみにアディは、そんなことを考えていた。
ミニゲームには、教師キャラはいちいち出てこなかったから知らなかった。
「高得点は、一番遠くて小さいヤツかな」
「だろうな。逆に低いのは最も近くて大きい的。でもペア決めは、的の色でも点数が変わるんだろうなあ」
「デザートの勝敗はどうする?」
「的の色は分からないから、距離とサイズでとりあえず良いんじゃないか?」
アディはケレルと、こそこそと賭けの打ち合わせをする。二人とも初めてなので、予測が全くの不明だ。
――あまり下手を装うのも、浮くよな。
今後のペア決めということは、ペアの相手に対し実技中、不都合が出るようなことはいけないだろう。
アディは、首を捻って考えた。万が一にも目立ちたくない。念には念を入れたい。
「ああ、後期入学組が二人いるわね。では、前期組、何人か先に手本を見せなさい」
――お、それは助かる。
「もう、いい?」
先生に声をかけたのは、父が魔法師団長の攻略対象キャラ、ルナ・ヴェネラティオ公爵令息。
攻略対象の小柄な黒髪に藍の瞳の少年だった。




