表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一章完結】乙女ゲーのチュートリアルのサポートキャラに転生したら攻略キャラが集まってきた。いや、俺は男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
一章 学園入学編。 攻略対象キャラたちに、俺、囲われ始めたんだけど!?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/56

第37話 距離感バグの腹黒王子が降臨しました。

「……ここ」


 眩しさを感じ、重たい目蓋を上げた。アディの目に見えたのは、見知らぬ天井だった。

 思考に霞がかったように不透明で、何があったのか思い出せない。


「ああ、気がついたかい」


 ギシリとベッドの軋む音がして、アディのすぐそば、カリスが本を片手に座っていた。


 ――なんで!?


「――っ!」


 アディは驚いて、ベッドから飛び起きていた。身体は迷うことなく、カリスから距離を取っていた。

 そしてすぐに、全身に走る激痛に耐えかねて、アディは口から血を吐いた。


 ――ああ、そうだ。


 アディは手についた血を苦々しく見つめて、気を失う前の出来事を思い出す。

 セレーヌスまでカリスと結託していた。アディの逃げ場が、どこにもないのだと悟る。


 ――どうする?


「治療がまだなのに、それだけ動くとは恐れ入るよ。辛いだろう。横になったらどうだい?」


 カリスは、うわべだけの笑みでアディを見ていた。

 アディは光のない目でカリスを見返して、精一杯の虚勢を張る。


「……お気持ちだけで、結構です」


 あがる息を抑えて、アディは努めて平淡に返す。

 なぜ、アディとカリスは二人っきりなのだ。親しくもない間柄で、互いの身分も友人と呼ぶには釣り合わない。

 どう考えてもおかしいだろうに、見渡す範囲に、他に人が見当たらない。


 カリスは、手に持った本をサイドテーブルへと置いて、アディにまっすぐと向き直った。その目はまるで、捕食者のように獰猛な光を宿していた。


 にじり。


「相変わらずだね。セレーヌスも心配していたよ?」


「……それは、お手を煩わせてしまい――」


 外の気配を探ろうとしたアディに、カリスが距離を縮めた。言葉は優しいのに、それ以外に優しさは、微塵も感じられない。


 にじり。


「……殿下」


 アディが距離を詰めてくるカリスへと、非難の声をかけた。


「カリス」


 にじり。


 カリスのまとう空気が、一段と冷えた気がする。

 カリスが形のいい口から、己の名を発していた。その目は射るように、アディを見つめたままだ。


「カリス」


「……カリス、様」


 ――なんの茶番だよ、これは。


 カリスが、アディとの距離を詰めてくる。

 逃げては詰められを、繰り返していた。

 殿下呼びをしてから、笑みを深めたカリスがさらに、アディに迫ってきていた。


「カリス。……ほら、落ちるよ。アディ?」


「それは殿下が……っ」


 ベッドの端に追い詰められたアディに、カリスがさらに近づいた。互いの指と指とが触れる。

 アディは抗議とともに咳き込んで、さらに血が滲んだ。


「カリスだ、アディ。ああほら、動くから辛いだろう。私は話がしたいだけなんだけど?」


「……私は、話なんて」


「話をしないと、治せないだろう? ルナが心配しているよ。マーレも待機させている」 


「治してからでも話せるでしょう」


 ギシリ。


「治してたら、君はどうする?」


「っ!」


 アディを押し倒して上へと跨がり、両手を封じたカリスは問い詰めた。まるで、埒が明かないとでも言いたげに。

 カリスから白檀にも似た匂いが香る。今世、ここまで近づいた他人はアディにはいなかった。

 不敬など他所へと蹴飛ばし、忌々しげにアディはカリスを見上げた。


「素直に話に応じるのか? 答案用紙を白紙で出したな? それで、何もかも逃げたつもりか?

 万全の君を相手にするのは、こちらは骨が折れるんだよ。なら、治す前に話をするしかないだろう?」


「……そんなこと」


 ――逃げたもの勝ち、だろ。


 アディは、カリスから目を反らしてはぐらかした。


「はっ!あるな。追い詰められた者が、辿る道などたかが知れているさ。悪いが、フィデスとの実技考査で、君の実力は多くに知れることとなった。

 俺は君を、くだらん貴族にも他国へも、くれてやるつもりは微塵もないんだよ」


「……本性、出てますよ」


 ――確か、腹黒の俺様王子だったか。


 語彙が崩れてきたカリス。半目になってアディは、その設定を思い出した。

 身体中痛いし、怠い。けれど、思考は少しだけ、今の状態に慣れてきたらしい。


 ――なんでもいいから、ほっといてくんねぇかな。マジで。


 この茶番を脱する手立てを、アディは探り始めていた。


「驚かない君も、だ。アディウートル・クストス。クストス家の生まれながらに王家の固有魔法を扱える君は、何者だ?」


 ひそりと、アディにだけ聞こえるように耳元で声を潜ませ、カリスは告げた。


「……」


 アディは、それに沈黙を選択した。まっすぐにカリスを見返して。

 カリスの表情は変わらない。けれど、アディの手を拘束するカリスの手が、グッと力を増してベッドへと押しつけてくる。


 ゲーム初期から使えるキャラの固有技、カリスは防御特化の《イージス》がそれに当たる。

 初級の《イージス》は、展開中に受けた初撃の完全無効化。

 フィデス戦時にカリスが使ったのは、《イージス・アブソリュート》。防壁が一定のダメージを迎えるまで、完全無効化する特級魔法。一定のダメージとは、術者の実力に比例する。


 ――カリスの固有技ということは、そのまま王家の、ということだったか。


 アディは、内心舌打ちしたい心境だった。

 ゲームであまりにも自然に出ていて、ボス戦などでも活躍する技だったから、思考が鈍って警戒が足りなかったらしい。


 ――否定も肯定も意味がない。俺が一番、聞きたいくらいなんだよ。


「……なら。フィデスの時、俺のイージスに対抗しようとしたな?

 なんの魔法を、君は俺にぶつける気だった?」


「……」


 ――そっちもバッチリ、聞き取ってやがる。


 こってりとマーレに絞られた訳だが、アディが舌を噛んだのは、詠唱のキャンセルのためだった。


 アディが言いかけただけの、単体では無意味なただの音。

 身体強化をかけたからといって、離れた距離にも関わらず、カリスが魔法名だと判断して聞き取ってたとは――性格の悪さが、滲みすぎてるだろう。


 話題を変え、楽しむように笑うカリス。

 その目が笑っていないのは、答えが得られないと、カリス自身が分かっているからだろう。

 その碧色の瞳に、一瞬、僅かな揺れを見つけた。カリスは余裕を気取りながら、そこになにか感情を隠していたのだ。


 ――悪趣味なやつ。けど、なんだ。カリスもまだ子どもだな。


 だからアディも、胸のうちで悪態をつきながら、質問へは答えなかった。

 気づいてしまえば、怖さがいくぶん、どこかへ消えたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ