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【一章完結】乙女ゲーのチュートリアルのサポートキャラに転生したら攻略キャラが集まってきた。いや、俺は男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
一章 学園入学編。 攻略対象キャラたちに、俺、囲われ始めたんだけど!?

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第33話 バトルの度に倒れるの、すんげぇ不服なんだけど。

「アディ、この濃霧を解除出来るかい?」


「……はい。セレ、兄さん」


 アディが返事に口を開けば、ボタボタと血が一緒に滴り落ちた。身体強化のまま、思いっきり舌を噛んだからだ。

 けれど口を手で塞ごうにも、アディの身体はもう重くて、自由がきかない。

 その身体を、セレーヌスがしっかりと支えてくれていた。触れる体温が、温かくアディを繋ぎ止める。


 疲労で揺れる視線だけを、なんとか周囲へとアディが巡らせれば。

 視界不良で表情までは分からないが、フィデスの前にはカリス。

 アディの後ろにはセレーヌスが、それぞれに立っているのがアディには分かった。


 さっき聞こえたその二人の声が、いつもよりやや固い気がする。


「……アディ、痛いよね? ねえ、アディ。泣かないで?」


 濃霧を解除して後ろを見れば、アディの服の裾をルナが掴んでいる。

 そのルナが泣きそうな顔をしていた。藍の瞳が涙を溜めて、キラキラと輝いている。


 ――泣いているのは、ルナだろう?


 アディはそう声に出そうとして、代わりに出たのは血だった。


 いつもルナが、まっすぐにアディを見つめてくるものだから。

 それが眩しくて、アディはもうずっと長い間、目を伏せてはそらしていた。

 彼がアディに見せる表情は、本来ヒロインに向けられるもののそれだったから。


「……っ」


 不意に、アディの視界が歪んだ。

 アディがずっと汗だと思っていたそれは、ルナのいう涙なのだろうか。


「アディ……もう、いいんだよ。十分だ。大丈夫。殿下の結界が全てを防いだ」


 セレーヌスが、そっとアディの目を手で覆った。

 ルナが、腰に手を回してすがりついてくる。


 ――泣いてるのは、俺もか。


 自覚してしまえば、簡単で。その涙は温かく、アディの頬を止めどなく流れていた。


 口に溜まる鉄の味を、アディは眉間に皺を寄せ、飲み込むことでやり過ごした。


 一呼吸するごとに、ずっしりと重くなる身体。嫌な汗が身体に貼りついて気持ち悪い。

 意識をしても、早く浅い呼吸を繰り返すことしかアディは出来ない。

 目を閉じて、真っ暗な世界で思う。満身創痍で泣いてる男なんて。


 ――みっともない。俺らしくない。


 酷く、居心地が悪かった。

 抗えない温もりに身を委ねて、アディの意識は、静かに溶けていった――。




 ◇◆◇◆◇◆◇




 ――俺が、泣かせた。


 泣かせたかったわけじゃない。言いすぎたと、フィデスがすぐに謝れば良かった。

 けれどそれより先に、アディのまとう雰囲気が変わった。


 フィデスの一瞬の躊躇いが、さらに明確な拒絶をアディに滲ませて、彼の詠唱が作り出した霧が二人を阻んだ。


「……」


 呼吸を整え、全身に身体強化を巡らせた。何が来ても対応出来るようにと、フィデスは感覚を研ぎ澄ましていく。

 


「私の、本気が見たかったんだよね?」


 ゾッとするほどの冷たい声だった。 目の前にいたのがアディだと分かっているけれど、それでも誰だと言いたくなる高い声。

 無機質で、まるで女の子のような発音だった。


 フィデスは空気の揺らぎを感じた。霧の向こうアディが何かをしているのだと察する。


「しっかり味わえ」


 今度は、低く無情な声が聞こえた。続けて何かを詠唱したと気づいたのは、霧を破って突如として現れた、見えない何かを察知してからだ。


「――っ!」


 ヒュッと眼前に迫ったそれを、受けてはいけない――フィデスの身体が、回避を選んでいた。


 けれど、その何かは執拗にフィデスを追う。

 もう一つ増えたと、気づいた瞬間、フィデスが躊躇わずに最初の一つを剣で弾いた。


 が、目の前に舞ったのはバラバラになった、無惨なフィデスの剣の刀身。

 普段腰に着けたフィデス用の剣とは別の、学園仕様の支給剣とはいえ耐久はあげられているはずのそれ。


「うっそ」


 思わず出たのは、驚嘆の念。

 フィデスが腕をかざせば、吹き荒れた風に混ざった破片によって、服が切り裂けた。

 身体強化で庇ってなお、その肌に裂傷が走る。

 剣で弾いてこれだ。もし、直撃したら――。


 さぁっと血の気が引いていく。回避不能。フィデスがそう悟って、目にしたのは三つ。


「あ、はは……」


 ――もう、アディ怒らせるのやめよう。


 次があるか、分からないけど。そうフィデスが力なく笑った時だった。


「イージス・アブソリュート」


 展開されたのは、不可視の防壁。

 防壁に着弾する轟音が響く中。貴賓席からカリスが、フィデスの目の前へと飛び降りてきた。


「そこまでだ――気はすんだね。フィデス?」


 カリスは、ちらりとフィデスを一瞥する。


「カ、リス……」


 ――来るなら、もう少し早く……。


 フィデスはほっと息を吐いて、どさりとその場にしゃがみこんだ。冷や汗をかくなどいつぶりだろうか。そうして、カリスを見上げた。


 霧が晴れた向こう側。

 セレーヌスに抱えられたアディが、血を吐き倒れていた。

 目に飛び込んできた光景に、フィデスは胸の裂ける痛みを感じ、息を飲む。


「眠れる獅子でも起こしたかい? だから聞いただろう。普通に戦うだけでは、足りないか、と」


 フィデスの目の前で、カリスが静かに前を見ていた。

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