第9話 今の俺は、いったいなんなのだろうか
「――さて、今いる村からかなり距離があるようだけど、どうするかな。そもそも、なぜそんなところに人がいる?」
「ああ、ケモノにおわれて、にげてるうちにおくへ行ったみたいだねぇ。スへとゆうどうされてたんじゃないかな」
カリスの一人言に、クロがあっちと方角を指して混ざった。
クロと二人の留守番。周辺にゴブリンがいるかもしれない村。当然、カリスもイージスを掛け、索敵で周囲を警戒していた。
が、カリスには襲われる村人が見えなかった。つまりクロはそれより広範囲で、また見ていたということだろう。
――叱るべきなのか悩ましいな。
人命と常識の範囲を天秤にかけなければならないなど、どうかしている。普通なら、よくやったと褒める場面だろう。
だが、クロにとっては簡単にロブルの約束とで秤にかけてしまうのだ。
『カリス、これ、わるいこと?』
何と何を秤にかけたことへの問いなのか、聞くのが恐ろしいとさえカリスは思った。その前の会話の内容が内容だけに、だ。
「巣に誘導……。クロ、いつから気づいていた?」
「セレ兄さんがかこまれかけて、まほうでシとめはじめたのを見たとき。ついでに見えただけだよ?」
「……巣が近いのかい?」
「ほうがくがそうなだけ、あそこからでも歩きだと、まだきょりはあるよ」
カリスが諦めて聞けば、クロはさらりと答えた。巣の位置まで、もう正確に把握しているらしい。
「ふぅ……なら、馬は的になるだけか。その村人の場所まで、クロを抱えても良いかな?」
「ぼく、はしれるけど?」
「単純に走るとなれば別だよ。クロはモンスターが見えても、茂みの虫や植物にまで気が回らないだろう? かぶれたり、爛れたりするといけないから、ほら」
カリスは説明しながらクロを抱き上げると、村を囲うようにイージスを展開する。
馬を守るついでだ。同時に、カリスたちが村から離れるという、クストス兄弟へのサインでもある。
「なんでさぁ、そんなにまわりくどいことするの?」
「回りくどい?」
「だって、このあたりのモンスターをぜんめつさせればいいだけ、だよねぇ?」
カリスが駆け出したところで、抱えられたクロが不満気な声でぼやいた。
「……ニンゲンってほんとうに、こむずかしいことばっかり」
「クロ……?」
ザワッと、クロの纏う空気が変わる。冷たく異常な魔力がカリスの肌を撫で上げ、鳥肌が立った。クロを凝視して、カリスは思わず足が止まる。
「《インフェルノ・ホーミングショット》」
クロの口から、幼子とは思えない低い声が紡がれた。身体強化を掛けたカリスの耳に、多方面からの断末魔が幾つも聞こえ、そして途絶える。
――いったい、何が……。
カリスはクロを驚愕の眼差しで見つめた。周囲では、数十の黒煙が立ち上っている。
唐突に夏休みの光のダンジョンの光景が、脳裏に甦った。アディを追いかけた先で見た一層で、関節を毒で貫かれ、動かなくなったモンスターの大群。
――魔法の難易度に左右されない同時発動は、アディの得意とするところだ。
一学期の追試で、アディが自らそう言っていたからだ。さらに先日の夜営時、ロブルは言った。過去に大量のモンスターの不審死があった――と、恐らくは神童がやったのだろうと、クロの遠隔による魔法行使を見て結論付けたのだ。
――上級の火魔法を同時展開、しかも遠隔。実際に目の当たりにすると、異常どころじゃないな。
見えもしない離れたモンスターに直接狙って撃ったと、状況を繋ぎ合わせて強引に理解し――クロを下ろすと、カリスは肩を掴んだ。
「クロ、それはやりすぎだ。身体に異常は!?」
「なんで? ちゃんとモンスターだけをツイビしたから、森へ火はうつらないし。セレ兄さんたちと兄上のほうには手をだしてない。モンスターも発火によるタンカで、シガイものこらなければ、フハイもエキビョウのしんぱいもいらないよ。ニンゲンへのヒガイも、これでおわりだよね?」
カリスの形相に、心底分からないと驚いたクロが怪訝な顔をする。
その様子から身体に負荷は無いのだなとカリスは、ホッとした。
「……だが、そうじゃない。そうじゃないんだ、クロ」
アディはずっと、目立つことも人から外れることさえも恐れていた。
神童でさえ、王都での乱闘騒ぎでは手加減をしていた。騒ぎにならなかっただけでなく、精神操作された生徒たちに打撲傷はあれど重傷者はおらず、建物なども破壊されていなかったからだ。
――だが、クロは……。
「もぉ。カリスもむずかしいこというの? 兄上たちがここに来たいって言わなかったら、村のニンゲン、モンスターのエジキだったよ? さっきだって、なにもしなかったらニンゲンが一人シんでたよね? なんでダメなの?」
「クロ。お前は、アディとも神童とも違うな。人であろうとはしていないのか……」
「カリス、へんなの。ぼくはそもそもニンゲンじゃないじゃないか。カリスたちとはちがうんだから」
クロの平然と言いきる内容に、カリスは瞠目する。息を呑んで、肩を掴んだ手の震えを殺した。
「いいや、クロ。お前は、人なんだよ……」
行いが正しい反面、紙一重でも違えれば、国が危惧した生物兵器そのものでしかなかった。
――まさか、アディウートル・クストスや神童の前世という個が無いだけで、クロは正しく自分の状態を理解しているのか?
見た目に引きずられていたのは、周りだけだったのかとカリスは痛感した。
言動の幼さに合わせた見た目に変えたのは、あくまでも神童で、クロは幼くはないのかもしれなかった。
いつもお読みくださりありがとうございます!
本作品50万字突破&なろう、カクヨムで合計200ブクマ突破記念にSSを書きたいです。
今回はブクマ記念も兼ねてなので、読者様の読んでみたいを形にしてみてぇ!と、ゆる募させてもらっても良いでしょうか!?
コメント欄で、ネタをお待ちしてます( *´艸`)
高校生とか大人になったとかの未来話に関して、本作と齟齬、ネタバレが出たらまずいので、そこだけは採用不可ですみません。
また、ブクマや評価、リアクションやコメント、いつも目を通して、にやにやとさせてもらってます。
本当にもう、ご馳走さまです!!(人´∀`*)




