第6話 クロ以外、全員冒険者の身分も持ってるっていう……
「クロ、しぃ~だぞ?」
「しぃ~?」
「ああ、大きな声は馬も驚くからな」
ウォレンティア領を出て、学園に向かっての帰路は続く。食料調達の為に立ち寄った町で、ユニタスがクロを馬に乗せ遊んでいた。カリスはその様子を馬車から眺めている。
「殿下、ちょっと寄り道しても?」
「何かあったのかい?」
「帰還ルートからは反れるのですが、ここから少し行った先の村で、ゴブリンらしき目撃例があるようです」
「冒険者ギルドに調査依頼を出しているそうですが、既に農作物の被害も出てまして、ちょっと見過ごせないレベルですね」
クストス兄弟が、買い物ついでに得た情報を開示する。カリスも二つ返事で頷いた。
「ゴブリンなら個は脅威でないにしろ、群れる場合もあるからね。畑を荒らしているのなら、遠からず人も襲うだろう。寄り道と言わず、当然、向かって構わないよ」
「……兄上、ゴブリンさがしてる?」
「アディ、兄上との約束は守ってるか?」
「目で見えるはんいだけにしなさいってやつ? ちゃんとそうしてる。でも、さがしてるなら、とおくまで見るよ?」
馬から音もなく跳躍し、カリスとロブルの前に降り立つと、クロは事も無げに言った。
ロブルは一瞬眉を潜めたが、すぐにクロの頭を撫でて優しく話しかけた。
「そこまで緊急じゃないから大丈夫だ。魔法に頼らないで、心身を鍛えて養うことは大事だと言っただろう? 今、身体強化も使ったな?」
「アレもダメ、これもダメ。兄上、むずかしいことばっかり……」
「アディ、大きくなるには、食べて、寝て、適度な運動が大事なんですよ?」
この道中、クロがやり過ぎる度にロブルが制約を掛けてきた。クロはなんだかんだと、その言い分を聞いてはいる。が、身についているかは怪しいところだ。
「そうだよ、クロ。ここはユニタスに任せるからね」
「――はぁ!? 俺!?」
「あぁ。学園で一年Aクラスなら、ゴブリン程度、もう狩れるでしょう」
「雇い主に実力を見せる良い機会じゃないか。なに、無理そうなら手を貸すぞ」
ユニタスの腰に下げた剣を、ロブルが一瞥してカラリと笑った。元々は、カリスがアディへと渡した剣。今はユニタスがアディの侍従として、クストス家に臨時で雇われていることを指していた。
「雇い主って……、今はカリスの護衛依頼みたいなもんで……」
「ゴブリンの前に私が出れば良いかな?」
「おい、カリスが悪ノリなんかするな! マジでやりかねねぇのがタチ悪いぞ!」
「あ、わかったぁ。さんかんみたいでユニタスいやなんだねぇ」
「クロォ、なんだよ。さんかんって、ニコニコして言うなよなぁ……」
馬にもたれ掛かるように項垂れたユニタスに、クロが可笑しそうにしている。
「経験は積んでこそだろう。機会は逃すな。ユニタスメインで、サポートはセレーヌスに任せる。殿下はアディを。私は巣があれば、そちらを対応する」
「あれ。ぼく、でばんなし……?」
ロブルが出発の準備を整えながら、そう指示を出す。聞いていたクロが、きょとんと首を傾げて呟いた。
「クロは私と馬の番だよ、不服かい?」
「ウォレンティアでてから、モンスターがいても、おあずけばっかり……」
「このメンツでクロをメインに戦わせていたら、私たちの立場がないかなぁ」
「なんで? ぼく、よわくないのに」
「見た目の問題だろ。嫌なら、早くでかくなれよ。つうか元に戻れ。やりづれぇ……」
むくれるクロに、カリスはわざとらしく呆れ声を出してみせる。ユニタスもため息をつきながら便乗した。
――脳天をつく一撃必殺の強さは変わらず、それに見合わないクロの言動は、確かに頭がバグるな。
ウォレンティア領を出てから、夜営時にはロブルとユニタスが食料確保の狩りをしていた為、クロの出番はあの鳥三羽以降無かったのだ。
「まぁまぁ、ウォレンティア領はダンジョンが多く、騎士が定期巡回してますし、冒険者の行き来も多いですからね。他領と比べれば、治安は逆にかなり良いんですよ、アディ」
「ウォレンティア領の近隣は、冒険者の行き来があるから、モンスターの安全面で言えば平地で出ないだけ、まだマシな方だな。過疎地だと定住者の腕に頼る部分が多いのが、苦い現状だな」
「ですから人が困っているモンスターに対して率先して狩るのは、力ある者の務めなのですよ?」
「まぁ、他の冒険者の為には狩り尽くせば良いというわけでも無いから、道すがら緊急度に応じて討伐することにはなるがな。もちろん、それもこちらに時間があればの話で……。まぁ、アディには、まだこの辺りは知らなくて良いことか」
「……兄上たちのはなしは、いつもわかんない」
「俺ら学生は、依頼を受けた分、遭遇した分を狩るって覚えときゃ良いんだよ。クロ」
クストス兄弟の常識講義に、クロは不服そうにさらに頬を膨らませる。ユニタスがやれやれと嘆息して、フォローをしていた。




