第5話 その密談、どこまで……?
「――なら、そこまで見えていて、どうしてアディはこうだったのかな?」
カリスは自分に抱きついて眠るクロを見て、少し嘲笑が混ざった笑みを浮かべた。
アディと神童、元は同じであり――今となっては、違う存在へと変わってしまった二人だ。
――弄られたと神童が言っていた。答え合わせをするために、わざと単独で危険を侵したとも。本当に何故、そこまで一人で抱えたのか。
語られないことは、謎のままだ。けれど、隠し事など当たり前の貴族社会では、誰もそれを咎められないだろう。止めることも出来なかったのだから。
『十五歳の一年が、アディにとって善き年になるよう、俺は力を尽くそう』
あの時、カリスが誓約した内容に嘘はない。クストス家の愛情だけでは足りないというのなら、カリスもまた手放す気はないのだと示したかった。そうでなくては、アディに伝わらないと思ったからだ。
――まさか、子守りから始まるとは、だが。
前髪をすいてやれば、長いまつ毛が見える。先ほど癇癪を起こしたとは思えないほど、クロの寝顔は穏やかだ。
「少なくとも、今後はそうはなりませんよ。それに、そこに関しては殿下の方が詳しいでしょう。……第六の名を、使いましたね?」
「早いな。もう、君に通達が行ったか」
ダンジョンにカリスが一人で入り、そしてクロを連れて出てきた。あそこで足止めを受けるわけには行かず、カリスはダンジョンを管理していた騎士に、魔法師団第六小隊の案件だと告げた。
「当然ですよ。第六は私の隊です。分かっていて出したでしょうに、ダンジョンの件を秘匿する気は無かったのでしょう?」
「君が言った通り、何もかもを隠し通せるとは思ってないからね。だいたい、神童絡みの案件は第六小隊の十八番だろう? ロブルへの報告が、もう少し後になるだろうと思っていただけだよ」
「神童絡みというか……、予言対応の、ですがね。カリス殿下の――王族の案件ではなく、第六に機転をきかせて頂き、そこは感謝しますよ。師団長が手を回してくれるそうなので、ウォレンティア領にありながら、主導権をこちらが握れそうです」
「……あそこは、ウォレンティア侯爵に任せても問題はなさそうだけどね」
神童が管理をするダンジョンならば、安全面と秘匿性と両方から見ても、誰が何をしなくとも問題など起きないようにカリスは思った。
「それはお姉ちゃん――関連で、ですか? まだ、聞いてませんよ?」
「怖いね。もう予想がついてそうだけど?」
「買いかぶり過ぎですよ。毒を飲んだ時、何故か幼児化し、精神まで逆行したらしいとか。あの幼少期にあった性別違和も、お姉ちゃん発言に関係してそうだとか。失踪中、幼児化の目撃例は無かったのに、今が小さいのはダンジョンが原因じゃないのかとか。竜が人型になるのですから、なんでもありだと片付けたのは殿下もでしょう? まぁ私の場合は寝不足で、睡眠薬も盛られて、ただの妄言ですけどね?」
ロブルは表情こそ笑ってるが、醸し出す雰囲気が冷気を帯びている。
首筋にナイフでも当てられたような錯覚に、カリスは苦笑を浮かべ、逃げるように手元の手記に視線を戻した。後半のページに、目が止まる。
「転入生――、女の子――……」
「ああ、おそらくレース嬢のことですよ、それ。アディが昔、ヒロインと呼称していたせいで文化祭の件までノーマークでしたが、部下が今、裏取りしている最中です。結果次第では正式にうちの隊が動けます」
「本当に、ロブルは知らないことが無いんじゃないかな……」
妄言とは思えないロブルの主張が、カリスには畏怖すら感じた。
領地で暮らしていたアディが、学園に出てきてからの一年にも満たない期間を繋ぎ合わせた結論と言えばそれまでだが、十分に執念の域だろう。
「ご冗談を。知らないから吐けと言っているではないですか。それに限度を知らずに出来ると抱え込む子どもは、ろくなことにはなりませんよ。アディだけでなく、殿下も例外ではない」
「へぇ……? 覚えがあるような言い方だね」
「……墓場まで持っていくつもりでしたが、これも取引ですからね。セレーヌスとアディには内緒ですよ? 《リリース》」
ロブルは、腕枕を解いて、左手をカリスの前に見えるように出した。詠唱と共に、小指にはまったリングが現れる。
カリスはそれをじっと見つめた。
「かなり強い隠蔽効果だね。……魔道具か」
「師団長の本気で作ってもらってますからね。誰も見抜けませんよ。性能についても語るつもりはありませんけど、先ほどグラビダス家の話をしたでしょう? 殿下時分の時に、グラビダス前当主とやり合いましてね。色々とあったんですよ。相手は腐っても公爵家当主で実力者でしたから」
「……良く無事――と、言う訳ではないから、その魔道具か」
「そんなところです。そして、アディの場合は見たまんまですね。常識外にすでにいますから。あり得ないでしょう、小さくなるなんて。なら、神童案件に深く関わる殿下もまた、危ないかと存じますよ?」
吐いて楽になれと言われるのは、カリスがアディに言ったことと同じだ。
そして話したところでロブルなら、アディの害になるようなことはしないだろう。その積み重ねが現在に至るまでの、今ここにあるのだから。
『だってこの先、キャラの皆が協力しないと、死傷者も出ちゃったりしてね』
随分と前のように感じるが、そう神童に言われたのはたった三ヶ月前だ。
その後、学園祭では爆破事件が起こり、ウェルムが怪我を負い、レースが拐われかけ、ロブルとルナはスティアの自爆に巻き込まれている。
――アディは怪我をし、首輪を嵌められて……。
『レース嬢に狙われる理由があるように、アディにも理由があるの。そしてこれからはもう、アディに関しては相手も躊躇わず殺しに来るだろうね。生きてることがおかしいから。あの油断した一瞬で、穴開けられちゃったからなぁ。思い出すとやっぱり、ムカつくねぇ』
お詫びだと語ったあの時、盤面を眺めるように語る神童はムカつくと笑って言っていたのだ。
「……私にだって、不可解なことはある。知らないことの方が多い。行って、迎えにいっただけだからね。クロの言ったお姉ちゃん――は、今はダンジョンの管理人のような者だとしか言えない。敵ではないが、こちらが思うような味方でもないだろう」
ロブルへの回答を口にして、カリスは腑に落ちた。手記に記された神童は過去を変えようとロブルに協力を求め足掻いているが、今の神童はどこか諦めている節があった。
――生に執着をしていないだけじゃ、ないんだろうな。
初めて顕現した時から、根本的にはお人好しな部分はあったが、取る手段は全てえげつないに尽きる。望む結果のためには、過程に躊躇いがないのだ。
「ポーションもどきを渡したりして、アディの味方でもない、と?」
「クロが額を怪我して泣いていただろう。彼女が見ているのは、目の前の個人よりも、もっと大局だ。そしてある一点を除けば、例え国が滅ぼうとも笑っていそうだね」
「一点……?」
「マレフィキア。今のところ、彼女は進んで動く気は無さそうだけど、機会があれば手を下すと思うよ。相当、根に持っている」
――毒の一件では、術式を逆探知してスティアの魔力回路を破壊する芸当をやってみせた。
神童時代に一度敗北し、精神操作系で弄られていること。そして先日、モレスに敗北し致命傷を負わされたこと。
どちらも神童の性格を考えると、穏やかではない事案だ。
――その気になれば、アディの視覚情報を共有しているとも、ダンジョンでは示唆していたしな。
なんと累計50万字超えました!
(別であげてるSS合わせると、もう前からではあるのですが( ゜д゜)ハッ!)
ここまで読んで下さり、いつもありがとうございます(*^^*)
このまま、アディが無事に大人になるまで書きたいところですね!
(大人になるどころか、幼児退行しましたが)




