第45話 お詫びとか言って、必死に隠してたことバラすんじゃねぇ
祝200話!
未来視の一つに死に戻りとも喩えられる、生まれてから死ぬまでを体験し、過去に戻ったとされる記録があった。
「過去に関する前世持ちは、文献にもあまり記載がない。固有魔法でもないからな。だが、君は言ったな。予知なんて、周りが勝手にそう定義してるだけ、だと。
ならばやはり未来視の一つ、アディは未来から来たんじゃないのか?」
アディの予知が不完全なのは、その都度未来を視るものではなく、過去に戻って来たからではないのか。
変えたいとアディが必死になっていたのは、その様を実際に見てきたからではないのか。カリスはそう思った。
「それはユーストゥスにも聞かされたけど、ここでの未来視の定義でしょ? 誰にも観測出来ないことを、今、討論する気はないかなぁ。だって、その点で言うなら少なくとも、私はハズレだとも言えるしねぇ」
「なら、アディの目的はなんだ?」
前世の記憶が根源にあるから、四歳までのアディである彼女は神童と呼ばれた。
精神操作を受けてなお、根源が消されたわけではないから、今の十四歳のアディもその片鱗を持っていたのではないのか。
――特に彼女は、無駄なことをしない。
ダンジョンでカリスを出迎えたことにも、正体を明かすような真似をしたのも、何か考えと意味があってのことだろう。
「ただのお詫びだよ。カリスなら遠からず、いつかここに来るだろうと思って。お茶会からフラッと出ていったけど、私、これでもすぐに帰るつもりだったから。じゃなきゃアディのフリなんて芝居しないし。
ここのダンジョンには、確かに来るつもりだったよ。アップデートのためにさ。でも、あのタイミングではなかったよねぇ。そこまで、自己中心的じゃないもん」
彼女はパンパンと手を叩いて、二体のミニベアに何か指示をする。二体はそのまま逃げるように、木々の奥へと向かっていった。
――やはり使役しているのか? なら、あの黒いモンスターも?
アディの傍にいた黒いモンスター、人化などと聞いたことはないが、目の前で起こったのだ。カリスはそう言うものだと割りきり、片付けていた。
「……アディにあの日、何があったんだ。いや、今も何が起こっている?」
「大それたことは何も。首輪を餌にして、アディに掛けられた記憶操作を答え合わせしに行ったの。途中までは良かったんだけどねぇ?」
「答え合わせ……?」
「周りが言っても、アディは聞かないよ。疑心暗鬼で信じられず嘘だと思うから、なら犯人本人に言わせて聞かせるしかないでしょ?
十四歳のアディは作られたわけではなく、真実、貴方もアディウートル・クストスなんだって」
「待て。アディはなぜ、そんな思い込みをしている?」
本物だ、偽物だ、とそんなもののはずが無い。魔法でそこまでねじ曲げてしまうなど不可能だ。
『カリス様、変なの。何もしませんよ。俺には、何も……』
偽物だと思ったから、あんなことを言ったのか。そんな悩みを抱いていることがすでに、偽物のはずがないではないか。
カリスには理解が出来なかった。否、したくなかったのだ。そこまで追い詰めてしまったのは、きっとカリスだったから。
「レース嬢に狙われる理由があるように、アディにも理由があるの。そしてこれからはもう、アディに関しては相手も躊躇わず殺しに来るだろうね。生きてることがおかしいから。
あの油断した一瞬で、穴開けられちゃったからなぁ。思い出すとやっぱり、ムカつくねぇ」
「生きてることが、おかしい……?」
彼女はそう口にし、当時を思い出したように殺気が漏れていた。だが、カリスは聞き捨てならない単語に、眉間に深く皺を寄せる。
「アディは今、この時間を生きているはずではなかったの。一学期の時点で、全身に身体強化を掛ける力なんて残って無かった。だから、局所的に身体強化を掛けていた。結果、骨が折れたけどねぇ。
それに魔眼の抑制魔道具の眼鏡を外すと、身体が悲鳴を上げるほどには、もうまともでも無かったのよ。
その後は言葉通り、命を削って動いてたからねぇ。余命三ヶ月、ある意味シナリオ通りだったわけ」
――アディの虚弱は、そこまで?
浮かんだ言葉をカリスは否定する。二学期からはアディは血を吐くこともなく、身体自体は元気そのものだったのだ。それは誰の目にも明らかで……。
「だが、アディは今も――」
「ダンジョンで何があったか。ケレルは覚えてたんでしょ。アディが、ここの動力源であるコアを取り込んだ場面を」
そんなカリスの言葉を遮って、彼女は自嘲するように笑う。瞳が黒いせいか、そこに底知れない闇を感じさせた。
「コアを取り込んだから、生きてるの。じゃなきゃ少し前に死んでるはずだった。分かる? もう人間ではないの。だから、毒を飲んだ時に四歳の私がそのまま現れたし、人への魔法は今も効かない」
「いいや、アディには魔法がちゃんと効いた。解毒の薬だって……。それにコアだかなんだが知らないが、アディはアディだろう。何も変わってなどいない」
前世にコアと、カリスの理解を越えた話が続く、人間ではないとさらに言われても、それでも確かなことが一つだけあった。
――俺は言った。アディが何者であろうと、アディはアディだと。それは変わらない。
消費魔力は増えたが、アディに魔法は効いた。悩んで、逃げて、泣いて、笑って、怒る――その姿は何一つ、変わってなどいない。カリスのよく知るアディだ。
「約束したから、ね。アディはそれだけのために、コアと共存する道を選んだ。このダンジョンを維持しながら、外側だけは人であろうとしてるの」
風が吹いて、彼女は黒髪を押さえた。実体がなく影響を受けていないのに、その仕草は人間そのものだった。
「ただ、コアにとっては器が外で死なれると困るんだろうね……。胴に穴が空いてすぐ、ここへ転移させられたってわけ。私としても予想外で、だから、この話はお詫び」
「……それは、あのモンスターにか?」
助けたと、あのモンスターは口にした。カリスは、それも何かの関係があるのかと訊ねた。
「竜種にそんな力はないよ。あれは幼竜だし。モレスを吹っ飛ばしてはいたけど、それだけだね。そもそも校外学習で見た時も最初は小さすぎて、羽根つきのトカゲかと思ったよねぇ」
「……竜?」
「民話じゃないよ。実在するの。古竜がね、代替わりして新しい子が生まれたの、それがアレ。転移にくっついてきただけで、アディとは無関係」
彼女はキッパリと断言して、カリスの問いを否定した。
「――あぁ、でも、そろそろあの引きこもりを叩き起こすか、幼竜から引き離さなきゃ。話は聞かないし、喰われちゃう」
「……は?」
「もういいよね? お詫びは十分だよね? カリスは答えが変わらないでしょ? なら、このまま最深部にご招待するからね」
聞き耳を立てるように、遠い目をした彼女は、透け始めた指を見つめて頷くと、カリスヘ向かって微笑んだ。
その微笑みは、度々見たアディの怒っている時の笑顔だった。
200話になりました!
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ちなみに章終わりは51話の予定です。そうあと10話切ってます(笑)




