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【四章完結】乙女ゲームのサポキャラ転生、チュートリアルで消える強化素材のはずが――いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
四章 二学期後半編。 王道が並ぶらしいって、どうなる、俺!?

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第43話 カウントダウンでも始めるか

「そうだね。一週間経っても戻らなければ、先に帰っていてくれるかい?」


「……やだね。二日経ったら俺も入る、に変更してくれ、というか勝手に行くわ」


 森の入り口。馬を託し、考える素振りで顎に手を当てたカリスは言った。ユニタスはそれにため息を溢して、頭を掻くと宣言する。


「依頼は……」


「おいおい一人で行くのを許容してやってんだぞ? どうしても帰れってなら、安否確認くらい要るだろ?」


「心配要らないよ。ダンジョンの入口には、まだ国の騎士が警護している。戻らなければ彼らが不審に思うさ」


「いやいや、俺だって探るくらいなら、一人ででも潜って、そんで生きて帰って来るくらいしてやるって。舐めんなよ……友達見捨てるほど、合理主義じゃねぇぞ?」


「分かったよ。……じゃあ、そうしよう」


 カリスは観念したように碧の瞳を細め、淡い微笑を浮かべると森の奥を見つめた。

 光と名のつく通り、そこには幾つもの淡く光る蝶が舞っている。ダンジョンまでの薄暗い森の道を照らしていた。


「剣は持っておいて、王家の印章が掘られている。そのまま身元保証と、ある程度自由に動ける権限が付随する。依頼書よりここでの効力は強いだろう」


「そりゃどうも。やっぱ借りもの過ぎて、俺には荷が重い剣だわ。早く返してぇ。ほら、行ってこいよ。待っててやるから」


 ユニタスは乱暴にカリスの背を押して、森へと一歩を踏み出させた。追い払うように、手で払っている。

 カリスはそれに、眉を下げ屈託なく笑った。


「ああ、行ってくる」




「そこの者、止まれ! ここより先は、立ち入り禁止だ」


 蝶に誘われながら、さくさくと地面の木の葉をカリスは踏みしめて歩く。入口が見えたところで耳に刺さるような厳しい声がかけられた。


「ああ、警備ご苦労様。変わりはないかな? ちょっと通してもらうよ」


「……第一、王子殿下!?」


「ダンジョンに、ちょっと用があるんだ。入っても構わないね?」


 カリスが笑顔で応じる。ウォレンティア領の騎士二人が慌てて敬礼をした。

 それに手を上げて制し、カリスは静かに見つめ返す。


「は、はい? ですが、殿下お一人で?」


「失礼ですが、殿下の装備がその……、お強いのは存じていますが。とても……、どうしてもでしたら、お供しても構わないでしょうか? 一層しか無いとはいえ、中は広いですから」


「一人で行くよ。詮索も無しだ。君たちはここで、君たちの職務を全うすると良い」


 付き添おうとした騎士を目で黙らせ、カリスは洞窟のような入り口を進む。その暗闇を、仄かな光が追従した。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「……ぜんぶ?」


 ポタポタと、雫が落ちている。


「そう、全部。パパの全部、食べてあげる」


 いつの間にか、幼子が上でクロが下。立場が逆転していた。床に座り込むクロの両頬に手を添えて、膝たちで馬乗りをする幼子が恍惚に微笑んでいる。

 水に滴るその姿が、逆光に照らされて眩しい。


「パパの……望みは、なに――?」


「望み……」


「そう、一人は寂しい?」




 すぐに答えられないクロに、幼子は優しく質問を変えて訊ねてきた。


「……寂、しい」


 クロが目を覚ました時、幼子がいないことがある。妙にそわそわと落ち着かなくて、姿を探してしまうのだ。

 それを寂しいと言うなら、そうなのだろう。


「夜は、怖い?」


「怖いのは、夜じゃ……」


「じゃあ、怖いものは……なに?」


「闇、が……」


 ここに夜も朝もない。ただ真っ白な空間だったから。けれど、目を閉じればそこにはいつだって、真っ暗な闇が広がる。


「闇の、なにが嫌?」


「……嫌、なのは……一人、きりは、嫌……だ……」


 一人じゃないと、確かめる術はその温もりだけで。ここではいつも、子どもが傍にいてくれた。だからいつも、安心して眠ることが出来たのだ。


「パパの全部を食べたらね。血肉になって、ずっと、ずぅっと、一緒にいられるよ」


 ――ずっと、一緒に。


 ここではずっと、クロの傍にいるのは幼子だけ。幼子だけが、クロを必要として慕ってくれた。


(――本当に、この子どもだけだった?)


 不意に静かな問と一緒に、クロの脳裏を掠めた二つの面影、どちらもひどく傷ついた顔をしていた。

 それは、ただの他人を見る眼差しでは到底ないだろう。


 ――でも、僕は彼らを知らない。


 あの想いが、本物かどうかを量る術をクロは知らない。ドクドクと胸が騒ぐのを感じる。喉元までせり上がってくる、これはなんだ。


「痛みも、寂しさも、苦しみも全部、全部、嫌なことはなくなるの」


 目を閉じて、耳を塞いで、そうすればもう、心をかき乱すことも、煩わしい感情に振り回されることもなく、救われるのだろうか。


「嫌なこと、全部……」


(それは本当に、嫌なことだった?)


 揺蕩たゆたう夢の中で、聞こえた幾つもの声に、クロは確かに不快だと感じたことはなく、ただ起きる度に涙が流れて胸が痛かった。


 ――分からない。


 ぐちゃぐちゃとした心の内を形にすることが、クロにはどうしても出来なかった。


「そう、だからね。パパの望みはなに?」


「――っ」


 幼子はそういって、クロの首筋に甘えるように顔を擦りつけ、そうしてかぷりと甘噛をする。

 そのチクリとした痛みに、クロは思わず息を詰める。幼子は焦らすように首筋を舐めあげて、こてんとクロの肩に頭を乗せた。


「望むなら、パパに終わりを贈るよ。そして、ずっと、ずぅっと一緒なの。ねぇ……パパは、どうしたい?」


「僕は――」


 はくりと唇を動かして、喉から出た声は頼りないほど掠れていた。その続きがなぜか音にならない。喉に引っ掛かって出てこない。


 ――何を、願おうと? 何を、望もうと……?


 クロにはそれさえも分からず、心は空虚だった。この寒さは、いっそ手離しまえたら楽になれるのだろうか。


(それは真実、貴方が願う想いなの?)

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