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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
三章 学園混沌編 ヒロイン登場ってマジなの!?

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第14話 Aクラスの実技ってほぼ自習だけど、いったい何枚のタオルが無惨なことになったのやら

「よぉい、スタートっ!」


 炎天下の運動場。その端でルナの振り下ろした手と声を合図に、フィデスとケレルが同時に地を蹴った。

 身体強化無しで、ただ走るだけの百メートルの短距離走だ。二人はあっという間に、ゴールへと走り抜ける。


「――っ、どっち!?」


 ゴールを走りきったフィデスが、スタート位置にいるルナをバッと振り返った。

 ルナは重りを片手にゴールへと駆け寄ると、二人に声をかける。


「フィデスー」


「よっしゃぁぁあ!」


 ルナから重りを受け取って、フィデスは嬉々として手首に重りを巻いた。

 それを見たケレルが、息を切らせながら膝に手つき半笑いする。


「……勝って、重りつけて喜ぶの。お前くらいだぞ。ヤベェって」


 実技の自由授業、勝った方が重りを巻いていくルールで、フィデスの両手両足にはすでに重りがついていた。手首に至っては二個目である。

 対するケレルは汗だくで、手首に一つだけだ。

 ちなみにルナは、ゴールに探知魔法を掛けて、どちらが先に魔法を踏むかを判別する練習していた。


「そうか? 別にこれくらいなら、まだ可愛いだろ。なんなら、ルナを背負ってもいいぞ」

 

「やだよ、恥ずかしい。バカじゃないの?」


 キョトンとしながら涼しい顔でフィデスが言うと、本気で嫌そうにルナは渋面で返した。


「え。この前、アディにも担がれてたじゃん」


「あれは理由があったでしょ、ほじくるよな。いつの話をしてるんだ! アディだから良いの!」


 ルナはもう一つの重りを、フィデスの顔面に向けて投げつけた。難なく受け取ったフィデスは、反対の手首にもつけ始める。

 一つだけだと左右のバランスが悪くなると、フィデスは勝ったら一個ルールのところを、自主的に二個つけていた。


「よし、ケレル。もう一本行こうぜ!」


「……ペース早いって。どう鍛えたら、そうなるんだ?」


「ん? 今度、騎士団混ざりにいくか?」


「バカ。俺、まだ学生だって……」


 爽やかに声をかけるフィデスに、ケレルは汗を乱暴に手で拭う。そこへ、タオルが風に舞って飛んできた。

 ケレルの頭にタオルが乗り、ルナの胸元にもタオルが届く。


「フィデス君、ケレル君、ルナくーん!」


 遠くから三人に向かって、レースが手を振っていた。セミロングを邪魔にならないよう二つに括り、真新しい体操服姿だ。

 レースが風魔法で、三人へとタオルを飛ばしたらしい。


「どうー? タオル破けてないー!?」


「ぶっ!?」


 フィデスだけ遅れて、ビタリと顔面にタオルが貼りついた。引き剥がしているところを見るに、かなり勢いよく張りついたらしい。


「あ、カリス! また、俺たちのタオルを勝手に練習台にしたな」


 ケレルが受け取ったタオルを念入りにチェックしながら愚痴る。

 離れたところに居るカリスは、聞こえているはずなのに涼しい顔をしていた。


「でも、今回のはまだ綺麗だね。人の持ち物だと気も遣うから、ちょうど良いんでしょ?」


 ルナがタオルを見て、冷静に評価する。初めてタオルを飛ばされた時には、縫えばいいという修繕範囲を超えてボロボロだったからだ。


「レース、今日のタオル無事だぞー。頑張ったなー!」


「良かったー! 皆、ありがとうー!」


 フィデスが、手を振り返してニカッと笑っている。ぱあっと顔を綻ばせて喜んだレースも、よく通る声でお礼を述べていた。

 そのやり取りを、カリスは静かに微笑を浮かべて眺めている。そこへ、制服姿のウェルムが校舎から歩いてきた。


「カリス。今、連絡があって――」


 実技ペアのアディが休学の間、ウェルムは実技を休んで、一学期の事件の調査をしていた。

 カリスとウェルムが言葉を交わした後、ルナたちの方へと歩いてくる。


「ウェルム、久しぶりだな。走る?」


「制服では走りませんよ、また今度で。私は伝言に来ただけですから」


 フィデスが誘うと、ウェルムは呆れた笑いを浮かべながら答えていた。


「アディが言葉を話せるほど回復したらしい。魔法師団から面会可の連絡だそうだよ」


 カリスが、先ほどウェルムから聞いた話を皆へと伝える。


「アディ、学園に来る!?」


 ルナが嬉々としてウェルムに訊ねると、彼は残念そうに眉を下げ微笑むと、静かに首を横へ振った。


「もう少しだけ、あちらで過ごしてからになるそうです。

 先日も、棟内を自由にさせた途端に模擬戦を始めて勝ったはいいけど、寝込んだそうで」


「え、アディなにやってんの? バカなの?」


「アディらしいなー。病み上がりなんだろ?」


 それを聞いたケレルとフィデスが、驚いて目を丸くし吹き出している。


「……ねえねえ。アディってだあれ? お友だち?」


 そこにレースも加わって、話に混ざった。気安い態度から、知り合いの話と判断したらしい。


「一年Aクラスの最後の一人だよ。今は事情があって、ずっと休んでるけどね」


「そうなんだぁ! それなら早く会いたいね。仲良くなれるかなぁ、私」


 カリスがそう説明する。レースは声を弾ませ、両手を合わせて花が咲くように微笑んだ。


「ああ、アディなら大丈夫だろ」


「おう、怒らせなければ平気だな!」


 ケレルとフィデスがそれぞれ同意して明るい笑顔を見せる。フィデスはハッキリ言って一言余計だった。


「え? 怒らせ……?」


「あー。気にしなくて良いぞ。フィデスが怒らせたことがあるってだけだ。アディは普段怒らない。むしろ、ビビリで優しすぎるくらいだから」


 困惑気味のレースに、ケレルがフォローを入れた。フィデスの方へは背中を、容赦なく叩いている。


「やっと、アディに会えるんだ……。早く声が聞きたいなぁ」


 ルナは会話に参加せず、嬉しさのあまり頬を赤らめにやけたその顔を、タオルで懸命に隠している。

 いつの間にか、カリスとウェルムが一歩後ろに下がって、さらにその後の話を詰めていた。


「ウェルム、その後の学園側含めた進捗は?」


「模造剣の方は、裏取りが済んだようで捕縛に移るそうです。ただ、一斉摘発のため突入のタイミングを現在調整中ですね。

 それからプールの件は、芳しくないです。どうしたものか……」


「舐められたものだな。まだ後手に回るつもりなのか。その危険性に気づきもしないくせに?」

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