第13話 何やっても周りから浮くから、馴染むのはもう諦めるか
アディの放った蒼炎は炎槍を喰らい、そのまま男の横を掠めて消えた。
「は……?」
生み出した炎の熱が消え、不快感を隠さず眉間に皺を寄せたアディは男を睥睨する。
左手に剣を、右手に魔法の発動をちらつかせ、呆然とする男へと歩を進めた。
「まだ、やりますか?」
たらりと汗を伝わせ固まる男の目の前に立ち、アディは冷酷に口許を歪め嗤った。
魔力が揺れ――その瞳が、眼鏡越しにキラリと光を纏っていた。
「あ……なっ……」
近くで見れば髪が焦げ、男の頬に火傷が出来ていた。それを気にする様子はなく、みっともなくわなわなと震えている。
戦意がないならと、男の横へと剣を突き立てて返し、アディはくるりと背を向けた。
「……うわぁ、ちょ、目が光ってる。やば、やっぱおかしいじゃん、アイツ」
観衆の誰かが、何かを呟いた。アディが黙って目を向ければ、バッと視線を外された。
「見ろよ、アイツ。ちょっと強いからっていつも威張ってんのに、調子に乗って負けてやんの」
「でも、中級を上回ってたよな。なんだったんだ、あれ? 小さくて見えなかったんだけど」
一人が呟けば、口々に言いつのる声が重なりあった。雑音でしかない、ただの音の集まりだった。
アディは部屋に戻ろうと、人の輪から出て歩きだす。
「啖呵切ったくせに、なにアレ。カッコ悪い」
「はぁ、最初のはなんだったんだよ。手抜きしやがって」
「それよりさ。見た目、暗いくせしてやるなぁ」
――魔法師団所属っても、人間か。くだらないな。
ユースティス、ロブル、将来はルナも所属する魔法分野におけるエリート集団のはずなのに、学園と変わらない評価にアディは失望の念を抱いていた。
「つかあの眼さ、気持ち悪くね?」
ドクンと、胸がざわついた。アディは拳をぎゅっと握りしめ、その場を歩き去った。
ユーストゥスは知識だけで、魔眼だと言いきった。自身の目だとは言え、アディは鑑定で見てやっと自覚したのにもかかわらず、だ。対する彼らは魔法のエキスパートだが、その思考へ至らないらしい。
――まぁ、良いや。疲れた。
サボりだと思ったのは、絡んできた一人だけなのか。それともこれ以上、関わらない方がいいと判断したのか。
アディを呼び止める者も、また居なかった。
目に手をかざして、アディは少しだけ思案する。魔力が漏れたことなど、数えるほどしかなかったはずだと。
「――っ」
不意に、ぐにゃりとアディの視界が歪んだ。足元がおぼつかなくなり、立ち止まる。
ビー。
【異常感知、規定値不足】
ビー。
エラー音と共に、アディの頭に直接電子音が流れた。
一瞬、視界が暗転する。ぐらりと傾いた身体を、誰かが受け止めた。
ビー。
【異常感知、状態優先】
「――う、るさ」
言い終わる前に、アディの意識が落ちた。
◇◆◇◆◇◆◇
「病み上がりの自覚を、どうして持たないかな」
ロブルは気を失ったアディを軽々と抱え、近くのベンチへと寝かせた。羽織っていた上着を、布団代わりにアディの上へ掛ける。
しっかりと規則的な寝息に、ただ眠っているだけだとロブルは安堵の息つく。
「――さて、君たち知らないか? どうして一般人の彼がこんなに薄汚れているのか。そして、君たちの指導員はどこだ?」
ロブルは演習場へ向かって歩き、たじろぐ集団に声を発した。冷え冷えとした響きがそのまま周囲に、動けないよう圧をかけている。
男の一人が、おずおずと手を上げ口を開いた。
「……怪我人を、救護棟へ」
「なるほど。指導員が居ない僅かな時間さえ、統率が取れないか。今年の質は一段と悪いらしい。いや、若さ溢れる活力が満ちていると言うべきか?
せっかくだ。一人、一人、丁寧に聞くことにしよう。話す気もなければ、余力が有り余っているようだからな」
「おい、さっき一般人って……」
「いや、それよりあの髪色。まさか」
「馬鹿、首の階級章見ろよ。あの人は――」
濃紺の団服、その襟の階級証をコツンと指を指して、ロブルは残忍に笑う。
それを見た何人かが、血の気の引いた顔で青ざめた。
「六番隊小隊長、ロブル・クストスだ。さっきの学園の生徒は、アディウートル・クストス、私の弟にあたる。
魔法師団の団員ではない、まだ学生だ。調査中の案件で、師団長が直々に保護していてね」
演習場全体を覆う結界を張り、一人も逃がさないとでもいうように、ロブルは腰の剣を引き抜いた。
その静かな殺気に、誰もそれ以上口を開くことが出来なかった。
「今後も姿を見かけることがあるだろう。よろしく頼む――と言いたいが、また、こんなことがあってはいけないな。
一学生にも遅れを取る、貴君らの実力では、この先の任務は到底こなせないな。恥ずべき己を嘆き励みなさい。その為の手ほどきはしてあげよう――その後全員、始末書だ」
戻ってきた指導員含め、ロブルが全員を地面に這いつくばらすのに、そう時間はかからなかった。
翌日にはアディの元に、ユーストゥス個人の物とは別、ロブルが用意した正式な身分証が届いた。
また新入団員達へは、しばらく魔法師団内で冷めた目が突き刺さることとなり、訓練の風当たりが強くなったそうだ。
いずれにしろ、それはアディの預かり知らぬ話だったが。




