第12話 中二病がウズいちゃうよね
「――これ絶対に、バレて怒られるやつじゃないか……」
「お前。ブツブツとなに言ってるんだよ、いいから構えろ!」
嫌な予感を抱きつつ、アディは言われるがままにしぶしぶ剣を握る。
ベンチで日光浴していたら、演習場の若い男に声をかけられた。サボりだと思われたのだ。まさに、お約束である。
――シャツにズボンだし、まぁ。
アディは自身の身なりを見て諦めた。相手も似たような服装だ。
アディの身元を証明すると言えば、あのユースティスからのカードくらいしかないが、あれは部屋である。
――見た目で違うって、案外思われないもんなんだなぁ。
十四歳アディの自称モヤシの見た目が、ここでは全く発揮されていなかった。ダンジョンを経て、老け顔にでもなったのだろうか。
さらにこういう展開の相場として、先ずは階級や所属を問うものだろう、関係者以外立ち入り禁止エリアならなおさら、だ。
問答無用で性根を叩き直してやるという、突然の熱血の流れに、アディは困惑していた。
「……騎士団かよ、ここは」
魔法師団、勝手なイメージでアディは頭脳派だと思っていた。ついでにいうとアディの中で騎士団は脳筋のイメージだ、これは主にフィデスのイメージが強い。
上官はいないのか、と周りを見るも野次を飛ばす若い男ばかりが目についた。新入団員の集まりかもしれない。
「何か言ったか!」
「何も言ってませんよー。見つかる前に終わらせましょう」
相手は明らかに幾つも年上だろうと思うが、絡んできたのは向こう。礼儀も何もないかとアディは切り替える。早く終わらせて、さっさとここから逃げたいところだ。
――マーレか、兄上か、どちらにしても見つかりたくないなぁ。
怒られる未来しか、見えない。
残る魔法師団棟での知り合いと言えば、ユーストゥスだ。
彼なら笑ってくれそうだが、行動が読めない。必要ならば告げ口など喜んでしそうな性分に見えた。
「おーい。両者いいか? ダウン、降参で敗北の一本勝負。いくぞー、始めっ!」
審判らしき若い男が、手を上から下に振り下ろす。
「《フレイムランス》」
右手を付き出した男は、空に三本の火の槍を出した。
アディは前に剣を構え、火の槍を観察する。
赤い炎に、明るいオレンジが時おり混ざっていた。形も安定しているが、温度の強度が中級としてどこか物足りない。
――あれ、血液サラサラ、みたいな?
アディが全身に身体強化を掛けると、いつもより身体が軽いと気づく。四肢を巡る流れが滑らかで、澱みが感じられない。
普段より力が楽に込められる。思い当たる要因は、一つだけだ。
「コアのせい?」
アディは呟き、もしかして――と、迫りくる火の槍にタイミングを合わせ、握りしめた剣を思いっきり上斜めに薙ぎ払った。
アディの斬撃による風圧で、火の槍は見る影もなく相殺され、辺りに火の粉が舞った。
「はっ?」
「え、待って。何コイツ」
「今の、魔法使ってたか?」
アディと男を取り囲んだ団員たちから、どよめきが走る。魔法を剣だけで斬り伏せたと、異様な視線がアディに集まった。
――おおっ! フィデスのヤツが真似できた。
そんな周りの反応を全く気にせず、手元を見つめたアディはにんまりと笑う。
以前より力が込めやすく、剣が振りやすかった。力技なんて真似出来ないと思っていただけに、嬉しい誤算だった。
――別にチートは要らないけど、これはこれ、それはそれだしな!
「お前、魔法師団なら魔法使えよ。騎士団の真似事しやがって、小細工なんてふざけんなぁ!」
そんな余裕のあるアディに、目くじらを立てた男はさらに火の槍を三本出した。
「……いや、どっちかと言うと学生だから」
アディはそれに冷静に突っ込みを入れ、後ろに飛んだ。火の槍がさっきまで居た場所に立て続けに着弾し、砂埃を上げる。
焦げた臭いに顔をしかめると、砂が目に入った。アディはさらに数歩下がって、軽く咳むと目を擦る。
「逃げるな!」
「えー」
理不尽だとアディは呆れる。ただ魔法師団所属というだけあり、学園の模擬戦と同じようにはいかなかった。
近寄ろうとしても、相手の発動速度がわずかに上回っている。
「……なぁ、さすがにちょっとヤバくね?」
「おい、誰か止めろよ。あの相手、おかしいぞ」
さらに少なくない人目もある中、セレーヌスとの制約がアディの邪魔をしていた。
『これから実技では、初級のみ。もしくは授業で習った範囲に留めておきなさい』
男の魔法の構築に荒さはあるが、雑さはない。その中級魔法に対して、普通の初級魔法では分が悪い。
公式で習っていない支援魔法も、使えば後が面倒だ。いつもと勝手の違う身体強化は、慣れるまで加減に気を配る必要もあった。
――だって兄上の職場なんだよなぁ、ここ。
アディの異常性を知る者が、この場には一人も居ない。
魔法のエキスパートである魔法師団の標準的な強さも分からなければ、何も考えずぶつけて万が一の時が怖い。
「逃げるだけしか能がないのか、臆病者め!」
どうしたものかとアディが避けていたら、男に怒鳴られた。完全に言いがかりである。
「ハッ、家の格が知れるな。いくら実力があっても、サボりに逃げ腰の精神とは、満足な教育もされてこなかったか。よく入団出来たな、腰抜け!」
「……」
ブチと盛大に何かがキレた。アディはどれだけ悪く言われても良い、慣れている。が、家族だけはいただけない。
さらには言いがかりの嘘八百と来れば、家を侮辱されたと正当防衛が成立する。
――全員のしちゃう?
観客も同罪だろう。証拠隠滅がてら、一瞬で気絶させれば――邪な考えが、アディの頭に浮かんで消えた。
「炎ってのはな、蒼いんだよ」
辺りはすっかり土煙に覆われている。多少は目眩ましにはなるだろう。
冷えた頭でそう処理して、アディは小さく呟いた。
「《ファイア》」
前に突き出した右手。そこに生まれる小さくも白く輝く五つの蒼炎。
アディの目の前に迫る火を音もなく呑み込み――放たれた。




