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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
三章 学園混沌編 ヒロイン登場ってマジなの!?

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第12話 中二病がウズいちゃうよね

「――これ絶対に、バレて怒られるやつじゃないか……」


「お前。ブツブツとなに言ってるんだよ、いいから構えろ!」


 嫌な予感を抱きつつ、アディは言われるがままにしぶしぶ剣を握る。

 ベンチで日光浴していたら、演習場の若い男に声をかけられた。サボりだと思われたのだ。まさに、お約束である。


 ――シャツにズボンだし、まぁ。


 アディは自身の身なりを見て諦めた。相手も似たような服装だ。

 アディの身元を証明すると言えば、あのユースティスからのカードくらいしかないが、あれは部屋である。


 ――見た目で違うって、案外思われないもんなんだなぁ。


 十四歳アディの自称モヤシの見た目が、ここでは全く発揮されていなかった。ダンジョンを経て、老け顔にでもなったのだろうか。

 さらにこういう展開の相場として、先ずは階級や所属を問うものだろう、関係者以外立ち入り禁止エリアならなおさら、だ。

 問答無用で性根を叩き直してやるという、突然の熱血の流れに、アディは困惑していた。


「……騎士団かよ、ここは」


 魔法師団、勝手なイメージでアディは頭脳派だと思っていた。ついでにいうとアディの中で騎士団は脳筋のイメージだ、これは主にフィデスのイメージが強い。

 上官はいないのか、と周りを見るも野次を飛ばす若い男ばかりが目についた。新入団員の集まりかもしれない。


「何か言ったか!」


「何も言ってませんよー。見つかる前に終わらせましょう」


 相手は明らかに幾つも年上だろうと思うが、絡んできたのは向こう。礼儀も何もないかとアディは切り替える。早く終わらせて、さっさとここから逃げたいところだ。


 ――マーレか、兄上か、どちらにしても見つかりたくないなぁ。


 怒られる未来しか、見えない。

 残る魔法師団棟での知り合いと言えば、ユーストゥスだ。

 彼なら笑ってくれそうだが、行動が読めない。必要ならば告げ口など喜んでしそうな性分に見えた。


「おーい。両者いいか? ダウン、降参で敗北の一本勝負。いくぞー、始めっ!」


 審判らしき若い男が、手を上から下に振り下ろす。


「《フレイムランス》」


 右手を付き出した男は、空に三本の火の槍を出した。

 アディは前に剣を構え、火の槍を観察する。

 赤い炎に、明るいオレンジが時おり混ざっていた。形も安定しているが、温度の強度が中級としてどこか物足りない。


 ――あれ、血液サラサラ、みたいな?


 アディが全身に身体強化を掛けると、いつもより身体が軽いと気づく。四肢を巡る流れが滑らかで、澱みが感じられない。

 普段より力が楽に込められる。思い当たる要因は、一つだけだ。


「コアのせい?」


 アディは呟き、もしかして――と、迫りくる火の槍にタイミングを合わせ、握りしめた剣を思いっきり上斜めに薙ぎ払った。

 アディの斬撃による風圧で、火の槍は見る影もなく相殺され、辺りに火の粉が舞った。 


「はっ?」


「え、待って。何コイツ」


「今の、魔法使ってたか?」


 アディと男を取り囲んだ団員たちから、どよめきが走る。魔法を剣だけで斬り伏せたと、異様な視線がアディに集まった。


 ――おおっ! フィデスのヤツが真似できた。


 そんな周りの反応を全く気にせず、手元を見つめたアディはにんまりと笑う。

 以前より力が込めやすく、剣が振りやすかった。力技なんて真似出来ないと思っていただけに、嬉しい誤算だった。


 ――別にチートは要らないけど、これはこれ、それはそれだしな!


「お前、魔法師団なら魔法使えよ。騎士団の真似事しやがって、小細工なんてふざけんなぁ!」


 そんな余裕のあるアディに、目くじらを立てた男はさらに火の槍を三本出した。


「……いや、どっちかと言うと学生だから」


 アディはそれに冷静に突っ込みを入れ、後ろに飛んだ。火の槍がさっきまで居た場所に立て続けに着弾し、砂埃を上げる。

 焦げた臭いに顔をしかめると、砂が目に入った。アディはさらに数歩下がって、軽く咳むと目を擦る。


「逃げるな!」


「えー」


 理不尽だとアディは呆れる。ただ魔法師団所属というだけあり、学園の模擬戦と同じようにはいかなかった。

 近寄ろうとしても、相手の発動速度がわずかに上回っている。


「……なぁ、さすがにちょっとヤバくね?」


「おい、誰か止めろよ。あの相手、おかしいぞ」


 さらに少なくない人目もある中、セレーヌスとの制約がアディの邪魔をしていた。


『これから実技では、初級のみ。もしくは授業で習った範囲に留めておきなさい』


 男の魔法の構築に荒さはあるが、雑さはない。その中級魔法に対して、()()()初級魔法では分が悪い。

 公式で習っていない支援魔法も、使えば後が面倒だ。いつもと勝手の違う身体強化は、慣れるまで加減に気を配る必要もあった。


 ――だって兄上の職場なんだよなぁ、ここ。


 アディの異常性を知る者が、この場には一人も居ない。

 魔法のエキスパートである魔法師団の標準的な強さも分からなければ、何も考えずぶつけて万が一の時が怖い。


「逃げるだけしか能がないのか、臆病者め!」


 どうしたものかとアディが避けていたら、男に怒鳴られた。完全に言いがかりである。


「ハッ、家の格が知れるな。いくら実力があっても、サボりに逃げ腰の精神とは、満足な教育もされてこなかったか。よく入団出来たな、腰抜け!」


「……」


 ブチと盛大に何かがキレた。アディはどれだけ悪く言われても良い、慣れている。が、家族だけはいただけない。

 さらには言いがかりの嘘八百と来れば、家を侮辱されたと正当防衛が成立する。


 ――全員のしちゃう?


 観客も同罪だろう。証拠隠滅がてら、一瞬で気絶させれば――邪な考えが、アディの頭に浮かんで消えた。


「炎ってのはな、蒼いんだよ」


 辺りはすっかり土煙に覆われている。多少は目眩ましにはなるだろう。

 冷えた頭でそう処理して、アディは小さく呟いた。


「《ファイア》」


 前に突き出した右手。そこに生まれる小さくも白く輝く五つの蒼炎。

 アディの目の前に迫る火を音もなく呑み込み――放たれた。

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