第11話 ゲーム知識が国家機密に変わってたらしい、マジかー
いつも読んでくださりありがとうございます。
コメント、リアクション目を通させていただいてます( *´艸`)
今回、いつもよりちょっと長い文字数の心情回。
三章は学園混沌編と書いてある通り、これから混沌としてくるのですが、章終盤には一章、二章とは違う成長した姿を見せてくれる予定です。
今、40話辺りを執筆していて、最終話はまた50話くらいかな、どうかなぁというところです。
読後に確かに混沌としてたなと思ってもらえるように最後まで書き上げます。
「おー。外の空気!」
ユーストゥスとの会話から数日。外の空気が吸いたいとアディが願って、短時間だけならとようやく許可が出た。
――もう、過保護過ぎだって。
客観的に健康状態を見れないとなれば、それも致し方無いのだろうかと、アディは折れることにはしたのだったが、部屋だけというのはどうしても閉塞感がある。
「あー。小さい俺は何をやらかして来たんだか」
演習場の近くのベンチに腰を下ろし、アディは空を見上げて、一人愚痴る。久しぶりに全身に浴びる太陽の光が目に眩しい。ダンジョンからずっと外が恋しかった。
部屋には基本的にマーレが居たので、落ち着かなかったのもある。
四歳も上の、団服をキチッと着こんだ女性。鍵はかかってないけれど、ベッドのある個室。
――うん、アウトだろ。
アディの前世が女じゃなかったら、否、前世の無い普通の健康男児なら精神衛生上、非常に良くないだろう。
先ず、情緒が死ぬ。貴族男子として社会的にも死ぬ。
ひいき目に見ても、マーレは可愛い。しかも普段はメイド服だったのに、団服とはまたギャップも良いところである。
「ほんと、静かだなぁ……」
ダンジョンから外に出たからだろうか、コアの声はあれから聞こえていない。さあさあと木々の揺れる音が静かに聞こえるだけだ。
視界に関しても、あの場でさらに微調整を加えてもらった眼鏡を掛ければ、字は消えずとも気にならなくなった。
演習場の訓練を、遠目に見る余裕があるほどだ。
『一歳から三歳くらいかなぁ。アディはすごくお喋りな幼児だったんだよ』
そして昨日、ロブルが手記を持ってきて軽く昔話をしてくれた。
前世やゲームといった単語を使うことなく、どうやらゲーム設定や歴史のすり合わせをせっせと確認していたらしい。
――そりゃ、引きこもりやめた時の眼鏡で、キャラデザを思い出すわけだよ。
今、思い出せる範囲のゲーム知識と擦り合わせても、十分すぎるほどの改竄具合だ。
ゲーム開始前、過去の話として出てくる不作による飢饉や豪雨による川の決壊で起きる水害などの大規模な出来事、これらが全て事前に対策を打たれて、被害が最小限に済んでいた。
――登場人物と似てる人が出てくる世界、くらいの印象になるわな。
すでに色々と歴史が変わっていたせいで、成長するにつれゲーム自体を思い出すこともなくなったのかもしれない。
アディ自身、手記を見るまで覚えていなかったことの方が多いくらいだった。
――ここで生きるほどに、こうやって前世が遠ざかっていくのかなぁ。
その主に、アディの言葉をそのまま書き留めた手記。それは、かなりごちゃごちゃとしていて読みづらいものだった。虫食いだらけの攻略本より質が悪い。
――ゲーム開始前の事は特に、発生時期や年代に関して手記に残ってなかったな。
あるページには、前期入学のロブルの教材を見たアディが突然指差しを始めたと日記のように書かれている。決壊、家屋が流される、大洪水などと単語が書きなぐってあった。
予知と言うより、子どもの戯れ言に等しいとアディは思った。
――ストーリーがずれてるのは、今に始まったことじゃないとか……。
一年前倒しに始まったケレルのバッドエンドルートを知って驚いたのはアディだけ。完全に空回りしていたことになる。
ユーストゥスが主導になって、手記を元に精査された一部は、現在も国家機密として扱われているらしい。
『すまないな、そっちはさすがに発案のアディでも見せられないんだ』
ロブルに謝られたが、そこは機密、アディも見たいと思ってないので見せられても困る。
予見に無いことや外れた予見に関しても、未来は変わるものだからと、受け止めるフットワークの軽さがあったことだけ知れれば、今はそれで十分だった。
――虚偽で処罰されてたら、目も当てらんないもんな。
予知が出来ると思われているアディの身が現在も自由なのは、初手でクストス家が情報を小出しにしたかららしい。
対価としてアディへの権利不可侵を主張し、見事もぎ取った結果だとロブルは誇らしげだ。
――強かすぎるだろう、父と兄よ。
けれど最も裏で画策したのは、おそらくユーストゥス辺りだとアディは思う。
生家の侯爵家だけでなく、四大公爵家の当主の意向が絡んでいるのがいい例だ。
『学園が煩わしければ、いつでも飛び級で卒業させるよ。君が習う必要あるの、ここでの常識的な生き方くらいだろう?
僕の権限で、魔法師団に君を所属させることも簡単だ。いつでも引き取ると言ったからね。それは変わらないから覚えておいて』
初日の会話、最後にそうユースティスから提案されもした。
前世を持つアディが、年齢不相応なのをユーストゥスが知っているからだった。
――確かに拗らせてた昔とかなら、飛び出して冒険者とか、スローライフしてたかもしれない。
暗示という物騒さから、どこまでがユーストゥスの手のひらの上だったかは怪しいところだ。
七歳より以前の記憶は、手記を見てもあやふやなままで、考えると重苦しい気になってくる。ここまで前世知識を持っていたのに、今のアディにはその片鱗もなかった。
――今は、俺の意思……で、いいんだよな?
アディの手のひらを見ても、鑑定の文字に変わりはない。コアを内包した時の鑑定結果で最適化中と表示があったことから、状態異常なら分かりそうなところだ。
一つ確かなのは、アディが今も規格外だと国のごく一部に知られていることだろう。
「学園でもダンジョンでも、そりゃ何も言われないわけだよなぁ」
国王に四大公爵家当主、宰相辺りが把握しているなら、根回しも十分なことだ。
学園でのアディのやらかしは全て、カリスたちが対処している。
けれど、そうでなかったとしても彼らの親が動いていたはずだ。
「期待も責任も重すぎて嫌だからな。皆、よく分かってるよ」
何かを直接、アディは求められてはいない。けれど期待はされているのだろう、だからこその扱いだった。ユースティスに至っては、敵対したくないと公言するほどに。
――目立たず平穏にって、もうかけ離れすぎ。
青々とした空。その流れる雲をぼんやりと眺めて、アディは思う。
前世があると知っているのは、今のところユーストゥスだけ。でも、アディが人間から外れたことは、誰も知らない。
『もう少しだけ、もう少しだけ。そうやって先伸ばした未来に、いつか救われる日が来るかもしれないよ。
僕やクストス家以外にも、きっと君自身を受け入れてくれる人が現れるはずだ』
思い出したのは、誘拐された後らしい幼い日に言われたユースティスの言葉。
アディは目を閉じて、複雑な気持ちを抱えていた。
目を閉じれば、当然あるのは暗闇だ。人は見たいように外側を見て判断する。内側にまで目を向けても、それが真実かなんて当人すら分からないだろう。
「……いくら外堀が埋まっても、それは俺であって、俺じゃない」
流される状況に甘んじる静かな独白は、風に拐われる。
アディは視線を感じて、ゆっくりと目を開けた。向けられたのは、明確な敵意だった。




