第5話 皆さん事件です。転入生が現れました!
「レース・アマータです。よ、よろしくお願いします!」
教壇の隣で勢いよく自己紹介をし、折り目正しくお辞儀をしたアッシュグレーの髪の少女。
そのセミロングのふんわりとした緩い巻き髪が、動作に合わせて揺れていた。
――結局、遅らせることは出来なかったか。
自席で頬杖をついて、カリスはその少女を観察する。レースはアディとはまた違う、紫とも黒ともとれる――パープライトのような特殊な光彩を瞳に持っていた。
――魔眼かはまだ分からないが、全属性の発現と同時に変化したらしいね。
アマータという姓は、孤児院の名前だ。
孤児の平民だというその少女は、全属性の適性が後発的に発覚し、大急ぎで学園の編入が決まった。
無知は危険だと、早急に魔法制御を学ばせる必要があったのだ。
「では、カリス様。レース嬢をよろしくお願いしますね。
レース嬢、貴女の席はそこよ。じゃあ、励みなさいね」
平民の魔力持ちは通常、国の負担で前期入学をし、知識を学ばせる。
家庭教師などが雇える貴族と違って、家庭だと学ぶ機会が無い為だ。
――こちらとて暇ではないのに、仕事ばかりを増やしてくれる。
現時点でのAクラスは、夏休み前の騒動もあり安全とは言いがたい。Bクラスに編入をさせるように、カリスはウェルムと二人で働きかけていた。
が、それならばカリスたちが周りを固めれば安全だという結論に、学園側が至ったのだ。
二学期からの編入自体も学園では珍しく、孤児で平民という異例も重なっての対応だった。
「あ、あの。ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「ああ、レース嬢。カリスだ。敬称は要らないから、よろしくね」
うわべだけの笑顔を作り、カリスは挨拶を済ませる。
ぎこちない動きのまま、レースも席に座る。緊張のせいだろう、顔を真っ赤にさせてすっかり挙動不審だ。
彼女の姿にアディとの初邂逅を思い出して、カリスは口許が緩んだ。状況が全く同じだ。
「あとで校内を案内しよう。他にも分からないことがあれば、遠慮なく聞いてくれて構わないからね」
「ありがとうございます。助かります!」
取り繕うことなく、はにかんで笑う彼女は人当たりが良さそうだと、カリスは判断する。
本人の意思ではなく、国の、学園側の意向での急な編入。教室での席も、カリスの後ろという特別が指示されている。
不憫だと同情を誘う部分は十分にあった。割り振られた役割くらいは、カリスも受け入れるつもりだ。
――彼女と親しげにすることで、周囲の牽制が目的なのは分かるが……。
気にくわないのは、二学期から新しく組み直す実技ペアに関しても、カリスがレースと組むことが、すでに決まってしまったことだ。
身分もそうだが、全課程をすでに終えているためカリスが適任とされた。ウェルムだって同じ条件であるにも関わらず。
――学園での動きが制限されては、犯人捜しどころではないじゃないか。
代わりに、アディのペアは戻ってきた時にフォロー出来るよう、ウェルムにすることを学園には条件にした。そうでないと、カリスが落ち着けない。
――実技で、アディがうっかり怪我をしたらどうする。
そうでなくとも、アディは自分からトラブルに突っ込んでいくタイプなのだ。
残るメンバーの中で魔力が読め、思慮深いのがウェルム。彼ならば、アディのストッパーとして役割をこなすだろう。
ルナはまだ幼く、感情が先に立つ場面もあるため、アディのサポートが難しいだろうと踏んでのことだった。
――実際、ルナの制止くらいでアディは止まらないからな。
Aクラスはレースの転入で奇数となり、ペアが一人余る。そこは実力も近いフィデス、ケレル、ルナの三人で組ませることにした。
ユニタスたち後の四人は、前期と変わらずいつものペアだ。
「……うまく釣られてほしいね」
「大丈夫ですよ。備品も念入りに点検させましたから、向こうにとっても今頃、おもしろくないはずです」
カリスの小さなぼやきに、ウェルムだけが返事を返した。
夏休みを前倒しにした分、二学期をやや早めてスタートしたAクラス。現在、学園に登校しているのは、一年Aクラスとサークルの生徒だけだ。
一学期の不穏な動きを、明確に釣り上げる措置でもあった。
――アディが戻る前に、彼女を一人立ちさせれば……。
アディの復学は未定。クストス家からも、休学の申請が正式になされていた。
それがカリスたちにとっての残された猶予だと知るのは、事態が拗れてからになるのだが、この時はまだ誰も気づいていなかった。




