第2話 ルナの成長の方向性が本当に怖いって
晴れた青空の下、魔法師団演習場に爆発音が響いていた。
「《プロテクション》」
ルナは不可視の壁を築き、迫り来る攻撃を全て防いだ。土煙が過ぎ去った後、防壁は変わらずそこにあった。
顔色一つ変えずにそのまま剣を天高く掲げ、声高に詠唱して振り下ろした。
「《ゲイル》!」
場内にいる団員の五人に対し、五つの風の刃を放つ。風の刃は、団員たちの防壁とぶつかり合って相殺された。
魔法のぶつけ合いをしばらくの間繰り返し、団員の一人が魔力切れを起こしたところで、ルナは手を止めた。
「はい、今日はこれで終わり」
「ヴェネラティオ令息、ありがとうございました!」
手合わせをした彼らと挨拶をして別れ、ルナは魔法師団棟に向かって歩き出す。
夏の暑さが照りつける中、ようやく日陰に入って一息ついた。滴る汗をタオルで拭いた。
「ふぅ。アディに会いに行こ」
ダンジョンから一行が戻り、セキュリティもろもろ協議した結果、アディの身柄は魔法師団預かりになった。
アディの長兄ロブル・クストスが在籍していることが理由の一つだ。
『――僕以上の適任が居ないなら、これで話終わりねぇ』
けれど最大の理由は、魔法師団長ユーストゥス・ヴェネラティオが、アディの引き取りを希望したからだった。
『父上、鍛練以外も魔法師団棟に自由に出入りする許可を下さい!』
『別に良いけどぉ。夏休み期間中、団員たちしごいてねー。ルナ、手加減忘れずにだよ?』
ルナはアディと一緒に居たいがために、父ユーストゥスに進言し許可してもらった。
「……もっと強度を上げたいけど、怪我させたら、怒られちゃう」
あれからしばらく経つが、アディは熱があってずっと眠り続けている。
どこか悪いのではないかと、ルナは気が気ではなく心配だった。
『起きるって本人が言ったなら、いつか起きるでしょ?』
様子を見に来る父、ユーストゥスに聞くと、いつもその一点張りだった。
先日やっとアディが起きたと聞いてルナは喜んだのだが、今もそのほとんどを寝て過ごしている。
「アディ、起きてるかなぁ?」
タオルで口許を覆い、ルナはポツリと呟いた。鍛練の合間に顔を見に行くのだが、タイミングが悪いのか、起きているアディになかなか会えないでいる。
「夏休み、終わっちゃう……」
鍛練漬けでは、いつもと同じではないか。今年はアディと、初めての長期休暇だったのに。
訪れた部屋で眠るアディを見て、ルナはきゅっと寂しさを覚える。早く元気な姿を見て安心したい。
最後に会ったのは、無慈悲に睡眠魔法を掛けてきたアディだったのだから。
◇◆◇◆◇◆◇
夏休み前の実技授業で、模造剣が爆発したあの日。剣のチェックを頼まれたアディは、何かに気づいて飛び出していった。
――置いてくなんて、アディは酷い。
ルナはカリスに報告の後、一緒に向かったのは人気の無い専科棟の校舎。そこにアディとユニタスが一緒に居た。
何があったかは、大雑把にしか教えてくれなかった。ならば――。
『《ファイアサークル》』
ニコッと笑いルナは詠唱した。廊下に座り込んだ三人、それぞれの身体に火の輪を作ってまとわせた。まるで拘束具のように。
『素直に、大人しくしてくれたら、怪我はしない。暴れたり、変なことしたら、当たったらきっと痛いね。
とりあえず、そこの部屋に入ってくれる?』
手近な空き教室へ、ルナはフィデスと一緒に、リウィドゥスたち三人を押し込めた。
人通りが少ないということは、こちらにとっても都合が良いのだ。
『《サイレント》』
部屋に防音をかけて、お楽しみの時間の始まりだった。アディが話さないのであれば、彼らから聞くしかないだろう。
『授業以外での攻撃魔法の原則使用禁止。常識だよね。先輩ともあろう人たちが、僕のクラスメイトに何してくれてるの?』
既にフィデスに殴られていた三人は、それぞれ頬を腫らし口を切っていた。そこに、戦意は全く残っていなかった。
――つまらない。
悪党らしく反抗すれば、大義名分が転がり込んでくるのに、ルナは残念だった。
『"模造剣を破損するような未熟者には、危険性を指導してやらねばならない"だったか。
さて、なぜそれを知っているのか、お教え願おうか』
椅子に座り足を組んだカリスが、三人に捕食者のように鋭い眼光を向けた。
『お、俺たちは持ち込んだだけだ!』
『そうです。下級生をからかうのに面白い余興になると……』
『《エアカッター》』
男子生徒の頬すれすれを狙い、ルナは人差し指を向けて風を放った。
生徒の髪が切れて、ハラハラと床に落ちた。
『応用の型を練習中なんだけどぉ。時間かけると僕、的外しちゃうかも?
アディより優しくないから。端的に、簡潔に話してね!』
ルナの放った風魔法は、アディよりまだ大きいし粗がある。父と並ぶのではと思うほど、綺麗な術式構築は今となっては尊敬している。
実技でアディは優しく教えてくれるから、もっと研ぎ澄ませて褒めてもらいたい。
――小さい器だなぁ、もう。
口に弧を描いてルナが微笑めば、彼らのうち一人が正気を失う。
ツカツカと気絶した男の前に立つと、その足を靴底で踏みつけた。
『寝たらダメ。まだ終わってないんだから』
『……ひっ、魔法は使用禁止、なんだろ!』
隣で振るわれた暴力を恐れ、わなわなと震えている弱そうな男子生徒が、それでもルナに非難の声を浴びせた。
『原則、でしょ。守ってない人に言われても僕、気にしない。魔法と拳どっちがいいか試してみる?』
『男だ! 男に頼まれた。でも俺たちは頼まれた三本を持ち込んだだけだ!
あの平民たちが授業で騒いでるのを見たから、あの生意気なヤツを、からかってやろうとしただけで!』
三人の中で身分の最も高いリウィドゥスが、観念したように大声でまくし立てた。
『へえ? タイミングを見て自分のとすり替えたってところかな。その頭には、なにも詰まってないのかい?』
それに反応したのは、値踏みするように観察していたカリスだ。凍てつくような視線を、男子生徒たちへと向ける。
『生意気なのは、お前だ。Aクラスは私のものだからね。バックに誰が居るのか考えて行動すべきだったんだよ。
ルナ、フィデス。その男とやらの背後関係も調べよう。彼らに教育的指導の手本を見せてあげるといい。捨て駒に期待は出来ないが、やり方は任せるよ』
目を細めてカリスは命令を下す。ルナもフィデスも待ってましたと言わんばかりに笑う。
アディたちの服は、なぜか血で汚れていた。ケロッとしていたので彼らの心配はしていない。
『同じことされても、文句は言えないよね』




