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【二章完結】乙女ゲーのチュートリアルで消える強化素材のはずが、攻略対象に執着されて退場できません。いや、俺、男なんですが!?  作者: 松平 ちこ
学園混沌編

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第1話 帰還前の取引、実はこんなことしてた俺

 ザザッ。


【選択可、カウント開始。期限、最適化完了】


 真っ白な空間で、ただ静寂だけが満たしていた。そこに落ちる耳障りなノイズ。ダンジョンとの共存か消滅かを選べと言う。

 コア自体を拒否することは、アディの命が終わるために、選択肢すら与える気はないらしい。


「カウントなんか要らねぇよ。俺が選ぶのは――皆のところへ、帰ることだけだ。

 そのためにお前が妥協しろ、コア」


 乙女ゲームのチュートリアルのサポートキャラであり、初期強化によって消費されるアディ。

 その辺の一般人でもなければ、完全なモブでもない。でも、攻略対象キャラとは比べ物にもならない、ノーマルレアリティ。


 アディの瞳が、キャラ特性以上にいくらおかしく変化しようと。

 ゲームの強制力か何かは知らないが、コアを保有しなければ余命三ヶ月だと言われても。

 アディが、コアを宿すに適した器だと言われても。

 

 ――そんなの全部、今さらなんだよ。


 転生して前世の記憶があるだけで、そもそも異質な存在だった。

 息を吸い込んだ胸が痛い。衰弱死と言われてもああそうかと、どこか納得してしまった。


 ――いくらなんでも、貧弱、吐血キャラ過ぎだと思ったし。


 ゲームでは、初期強化で消費されて退場する。

 アディが考えないようにしていただけで、実際生きた人間として、それがどう再現されるのかは疑問だった。


「俺は皆のところへ帰る。帰れなきゃ意味がない。帰るために、お前が変われ。合わせろ。出来なきゃ要らねぇよ。出ていけ」


 一切の妥協はしない、流されない。それは直感だった。前世の知識も合わさって言われるがままに、条件を飲むのは危険だと感じた。


 強大な力なんて要らない。

 不老不死なんて要らない。


 そんなもの、皆の元へ帰るのに邪魔なだけだ。

 コアと離れたら、アディが死ぬと言われても変わらない。孤独に生きるのは、もう嫌だった。


 ――だって、それは地獄と変わらない。死んでいるのと同じだろう?


 人として帰りたい。そうでなければ、皆には悪いが最後に特大のチートをかまそう。

 コアを宿したその力で、世界からアディの全てを綺麗に消し去るのも悪くない。初めから、存在していなければ悲しむことはないのだから。


 ザザザ。


【理解不能、未確定、不明。否定、比較、検討、改善、再演算……】


 ザザッ。


【最適化中……】


 アディの頭の中に、ただノイズだけが響いていた。


 ピコン。


【言語習得、完了しました】


 ノイズが止んで、軽快な効果音と共にやや無機質な音声が聞こえた。


 ピコン。


【共存を選択しますか。Yes/No】


「帰るんだよ。何度も、言わせんな……」


 アディはため息混じりに吐き出して、ただ一つを要求する。

 提示された共存はあり得る話だと予想していた。過剰な力を望まなければ、残った力はダンジョンの維持に回せるのではないか、と。

 隠しダンジョンを消滅させてアディが生存すれば、目立つどころの話ではなくなってしまうから、ちょうど良くもあった。


 ピコン。


【アディウートル・クストス。コアを内包し延命します。ダンジョンの共存を選択で、ダンジョンの維持にコアの大部分を運用、活用します。

 ダンジョン外行動は、常時接続維持により機能制限、器の負担増大。

 コアの一部同化に伴い、コア分離に伴う死亡の危険性あり。共存選択Yes/No?】


「……外で、制限と負担。あと、分離の可能性ってなんだ?」


 コアが新たに提示した条件を吟味し、アディは思ったことを、とつとつと質問する。


 ――なんだが、眠くなってきたな。


 ピコン。


【最適化九十二パーセント完了、強制シャットダウンまで残り三十分です。

 解答。ダンジョン権能は外では使えません。アディウートル・クストスの能力値補正無し。接続維持の距離、状態によって、心身に負担が掛かります。予想、傾眠、発熱、魔力消費増が考えられます。

 また、ダンジョン権能は該当ダンジョン内でのみ行使可能】


 頭をぐしゃりと掻いて、アディはうんざりしてきた。

 身体が少し楽になったと思えば、代わるように眠気に襲われ始めていた。


 ――眠気は、シャットダウンのことか?

 しかも負担って、今よりポンコツになる気しかしねぇぞ?


 今の身体の変化は、確かにアディを別の何かへと変えようとしていた。


【共存のため、コアの一部同化しか出来ません。結果、コアの分離の可能性を列挙します。

 アディウートル・クストスの強い別離希望の場合。故意による抽出の場合……】


 ――故意?


 続いた返答に、アディは不思議に思う。

 吸い込まれるように、身体に入っていった実体の怪しいコアを思い出した。機械のパーツや電池を取り出すのとは訳が違う。そんなことは、果たして可能なのだろうか。


 ピコン。


【アディウートル・クストスの魔力、生命力とコアが親密に結びつくため、可能性未知数、不明点多数】


 やはり核的な物が身体のどこかにあって物理的に、と手段についてアディが考えれば、提示された手段はひどく抽象的なものだった。要するに何も分からないのだ。


 ――やべ、そろそろホントに寝ちゃいそう。


 気を失えば、いつ起きるか分からない。

 ちゃんと帰らなければと、それだけがアディの意識を保つ拠り所だった。


【前例無。未確定要素、多数。ダンジョン共存を望みますか。Yes/No?】


「イエス。が、お前。ダンジョンのモンスター被害なんて目論んでみろ。

 次にやったら、何をしてでも……粉々に砕いてやっから覚えとけ」


 手離してしまいそうな意識の中、アディは怒気を滲ませハッキリと告げた。

 ダンジョン自体が、そもそもの諸悪の根源だったからだ。

 全てのダンジョンで同じようにコアがあるなら、モンスターが外に溢れないよう最初からコントロールをしろと、アディは説教をかましてやりたかった。


 ピコン。


【……善処します】


 手先、足先と徐々にアディは光に包まれ始めた。それはケレルが外に出たのと同じ現象だ。


 ――寝るな、まだ起きろ。せめて地上に出たのを見届けないと。


 目を閉じないように唇を噛み締めて、アディはただ前だけを見据えていた。




「……アディ、おかえり」


 木々の香り、緑に溢れた色彩、慣れ親しんだ体温と声を感じて、アディは安心して眠りについた――。

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