SS 幼いクストス兄弟の誕生日計画
祝100話目です!
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「んー? こうじゃないよなぁ?」
ある森の中、後期へ進学したロブルは剣を見つめて唸る。学園の連休を利用して、前期入学をしたセレーヌスと共に一泊の狩りに出ていた。
「兄上、そっち行きましたよ!」
「やっぱり初級だから、ダメなのかぁ?」
甲高いセレーヌスの慌てた声が聞こえるが、ロブルは、なおも首を捻っていた。
「兄上っ!」
「――ああ。邪魔だ」
セレーヌスの声に悲壮さが混ざったところで、ロブルは後ろから飛んできていたモンスターを、造作も無く剣で斬り伏せた。
「ピギャ!」
短い断末魔をあげて、それは地面に転がった。
セレーヌスはそれを見て安堵の息を吐き、視界に入ったスライムに魔法を放つ。
「《エア・ショット》」
セレーヌスは倒したスライムを収納袋に入れて、ロブルの方を見る。
モンスターの足を掴んで血抜きをしながら、彼は変わらず考え事をしていた。
「兄上、少しは緊張感を持ってください!」
「ん? ここら辺のは、セレスにだってもう脅威でも何でもないだろう?」
片手に剣を、片手に長い耳がぶらんと揺れる小型のモンスターを持って、ロブルが不思議そうに言う。
さらには手出し無用と伝えた上で従者も二人、護衛のために付いてきていた。
「油断大敵って言いますよね?」
「雑魚の気配しかしない。油断のしようがないな。それよりアディの誕生日までに、これが完成するかどうかの方が重大だ」
「アディの七歳のプレゼントは、眼鏡に決まったのでは?」
引きこもりがちだったアディが、マーレと共に外へ出るようになった。家からの手紙を読んだセレーヌスとロブルは大層喜び、魔眼の負担を軽減する方法はないかと学園で調べた。
誕生日プレゼントに魔道具を選んだのは、アディが少しでも外を楽しんでくれたらと思ったからだ。
「サプライズがあってもいいだろう。私はずっと会ってないんだから。剣に魔法が乗ったらカッコいいと、昔アディが言ったから見せてやりたいんだ。
初級では、幾らやってもうまくいかないがな。やはり、中級をモノにしてからじゃないとダメなのか……?」
苦々しく言うロブルは、己の力量に満足していない様子だ。赤い炎をまとった剣は、軽く振るだけで火が消えてしまっていた。
セレーヌスにとっては尊敬する兄だったから、出来ないことがあるのかと意外に思って訊ねた。
「兄上でも難しいことがあるのですか?」
「……ヴェネラティオ師匠に、剣に魔法を乗せるのは前代未聞だと笑われた」
言われた時を思い出したのか、ロブルはさらに渋面になっていた。後期へと進学して、中級を扱うのが難しいのかとセレーヌスは思ったのだが、そうではなかったらしい。
「ただ鼻で笑う、そこらの奴らよりマシだがなぁ。からかってはくるが、ヴェネラティオ師匠は練習に付き合ってくれる」
「……公爵様はアディの眼鏡も、作るって言ってくれたのですよね?」
残忍な色を宿したロブルに、セレーヌスは怖いものを感じて一歩後ずさる。
家族思いの温厚な兄は驚いたことに、学園の下剋上システムの考査で挑戦者多数を相手に好戦的で、毎度大暴れしているらしい。
「まぁ無償ではないけどな。なにせ高品質のスライムゼリーと引き換えだ。相手が子どもでも容赦がないぞ、あれ。アディに直接会えないからって全部こっちに聞いてくる」
セレーヌスが話題を変えれば、ロブルが答えてくれる。その眉間の皺は深く、消えてはいないが。
「クストス産スライムゼリーなんて別称がついたのは、私たちが領地でギルドに納品し過ぎたせいだが。
そもそもヴェネラティオ師匠は世間に流通している高品質と、アディ考案による高品質を比較したいだけだ。
しかも生息地で変化があるか見たいと、いろんな所から取ってこいと言う」
セレーヌスが持つ収納袋に入ったスライムゼリーを指差して、ロブルが丁寧に説明をした。
「ああ、それで兄上は休みの度にこうして出掛けてるわけですね」
「他人に任せる訳にはいかないしなぁ。秘匿するほどじゃないが、アディの技だ。わざわざ言いふらすメリットがない。ちょうど、セレスの鍛練にもなるし、これはこれで都合が良いけど。……面倒だ」
休日の度にいつも、狩りに行くぞとだけセレーヌスは伝えられていたので納得した。
理由は分からないが、ロブルは人目のあるところでは、弟相手でも説明を省きすぎる面があった。秘匿することを最優先にしているせいだろう。
「誕生日はまだまだ先だが、今度の長期休暇でやっと帰郷の許可が下りた。アディに会えるのが楽しみだから、それだけで頑張れるな」
「私も楽しみです。眼鏡も喜んでくれると良いのですけど、受け取ってくれるかな?」
ニカッと笑ったロブルにセレーヌスは同意して、少しだけ不安を口にする。前期入学が控えているからと言う口実で、早くから王都に移り住んでいた。ロブルは寮に住まず、一緒に過ごしてくれていたので寂しくはない。
ただロブルが入学する直前まで領地に住んでいたことを知っているだけに、本当はセレーヌスとアディを引き離すためだと気づいていた。
「セレスはただ楽しみにすればいい。父上と母上が、許可してくれたんだ。外に出れたならアディも先の未来だけでなく、今を見る余裕が出来たんだろうさ。
先ずは帰って遊ぶ。来る誕生日にうんと喜んでもらえるようため、兄としての前哨戦だ」
安心させるように明るく笑うロブルに、セレーヌスは黙って頷いた。
願わくば、昔みたいに兄弟として皆で仲良く遊びたかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「アーちゃん、アーちゃん」
「……なあに、マーレおねえちゃん?」
クストス領の邸、近くの木の下でアディは本を読んでいた。そこにパタパタとマーレが走ってくる。掲げた手には紙が握られていた。
「ロブルお兄さんとセレーヌスお兄さんから、アーちゃんにお手紙が来たよ。見る?」
「……ロブルあにうえとセレーヌス、おにいさん?」
どこかぼんやりとした様子で聞き返したアディに一切突っ込みをいれず、マーレは笑顔のまま、封のされていない手紙を広げて見せた。
「そう、セレーヌスお兄さんだよ。学園で長いお休みがあるんだって、そこで二人はこのお家に帰ってくるって。
良かったねぇ、アーちゃん。お兄さんたちとも遊んでもらえるよ」
「やすみ、あそび……?」
「うんうん。たくさん遊んだら、きっと楽しいよ」
年齢よりも少し幼い見た目と言動のアディに、マーレは頭を撫でて、優しく優しく繰り返した。アディは貰った手紙を見つめて口許をほころばせる。
これは今のアディが、眼鏡をかける七歳より少し前のお話――。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
二章完結となります!
最後まで見届けていただけたこと、心より感謝です( *´艸`)
次からは三章が始まります
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