51 華咲き4
なんて顔しやがるんだ。
スウガは幼い媚態に翻弄される自分を笑った。
カサネにそのつもりはないだろう。
だが、泣きぬれた目で見上げ、自分への嫉妬を指摘されて頬を染める姿。
カサネの並はずれた美貌も忘れ、ただ可愛い、と思った。
クインとのことを、こうも気にするとは思っていなかった。
もちろん、潔癖な少女なら娼婦を毛嫌いしてもおかしくはない。先ほどのリイカの反応など、まだましな方だろう。
だが、カサネは実年齢よりも落ち着いてみえるし、この世界の常識にとらわれない彼女なら理解が得られるだろうと、勝手に思い込んでしまった。
いや、頭では理解しているのだろう。
それでも嫌だ、と感じる自分を持て余しているように見えた。
それこそ、スウガへの想いのせいだというのに。
正直なところ、スウガはそれほど女性の心の機微に通じていない。
三人兄弟の末っ子で、兄や悪友たちとつるんで娼館通いをしたこともある。
そこで粋と野暮は学んでも、ごく普通の女性たち、いわゆる素人女の扱いはいま一つなままだった。
今まで付き合った女性たちにも、わかっていないと詰られることが多々あった。
そんなスウガでも、さすがにこれはわかる。
こんな、わかりやすいくらいに幼稚で純粋な嫉妬。
「…それなら、俺はもう、覚悟を決めた」
嫌がる隙も与えず、唇を重ね、舌をねじこむ。
息をつく間に漏れる吐息が艶めかしい。
やがて力の抜けたカサネの身体を支え、胸に引き寄せた。
スウガはずっと感じていた飢えが満たされるのを感じた。
熱を帯びた体とは裏腹に、心は穏やかだった。
いつか唐突に消えてしまうかもしれない。
元の世界に心を残したままかもしれない。
それでも、カサネを愛すると決めた。
その密やかな覚悟は、いつかヨルキエに求められたものよりも、ずっと強く熱い、無私の心だった。