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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
51/99

51 華咲き4

なんて顔しやがるんだ。

スウガは幼い媚態に翻弄される自分を笑った。


カサネにそのつもりはないだろう。

だが、泣きぬれた目で見上げ、自分への嫉妬を指摘されて頬を染める姿。

カサネの並はずれた美貌も忘れ、ただ可愛い、と思った。


クインとのことを、こうも気にするとは思っていなかった。

もちろん、潔癖な少女なら娼婦を毛嫌いしてもおかしくはない。先ほどのリイカの反応など、まだましな方だろう。


だが、カサネは実年齢よりも落ち着いてみえるし、この世界の常識にとらわれない彼女なら理解が得られるだろうと、勝手に思い込んでしまった。


いや、頭では理解しているのだろう。

それでも嫌だ、と感じる自分を持て余しているように見えた。

それこそ、スウガへの想いのせいだというのに。


正直なところ、スウガはそれほど女性の心の機微に通じていない。

三人兄弟の末っ子で、兄や悪友たちとつるんで娼館通いをしたこともある。

そこで粋と野暮は学んでも、ごく普通の女性たち、いわゆる素人女の扱いはいま一つなままだった。

今まで付き合った女性たちにも、わかっていないと詰られることが多々あった。


そんなスウガでも、さすがにこれはわかる。

こんな、わかりやすいくらいに幼稚で純粋な嫉妬。


「…それなら、俺はもう、覚悟を決めた」


嫌がる隙も与えず、唇を重ね、舌をねじこむ。

息をつく間に漏れる吐息が艶めかしい。


やがて力の抜けたカサネの身体を支え、胸に引き寄せた。

スウガはずっと感じていた飢えが満たされるのを感じた。

熱を帯びた体とは裏腹に、心は穏やかだった。


いつか唐突に消えてしまうかもしれない。


元の世界に心を残したままかもしれない。


それでも、カサネを愛すると決めた。

その密やかな覚悟は、いつかヨルキエに求められたものよりも、ずっと強く熱い、無私の心だった。


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