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風になるまで  作者: 築島 利都
第一部
52/99

52 夜嵐1

「式典?」


首をかしげたカサネの前には、久しぶりに姿を見せたヨルキエがいた。

一月の間何をしていたのか、詳しくはしらない。

ただ、仕事だときいていた。


久しぶりに顔を合わせた四人は、用人棟の食堂でテーブルを囲んでいた。

深夜にほど近い時間のため、他に人は居ない。



「そう。王太子殿下の生誕二十七年祝賀会」


「…つまり、ただのお誕生日パーティーってことだよね?」


しかもいい歳になる大人の。

と、カサネはやや皮肉げな笑いを浮かべた。

オウタも同感なのか、理解しかねるという表情をしている。


「一応言っておくけど、いつもこんな馬鹿げた式典を開いているわけではないよ。今回のは特別」


ヨルキエは生のままのにごり酒でのどを潤し、つまらなそうに言った。

どうやら彼自身、祝賀会とやらに納得はしていないようだ。


「特別って?」


「…この国がまだまだ不安定なのは知っているだろう?」


一月に及ぶ勉強の結果、カサネはこのシジマールという国のかたちを、ぼんやりとながら理解し始めていた。


わずか百年前の戦争によって島東西の二国が合併し、誕生した新しい国。

勝者である西側が、武力により東側を吸収した結果、いまだ反乱分子がくすぶっている。


また、勝者といっても、大陸のエツ国を後ろ盾としたシジマールは、彼の国に従属する立場にあった。


更には、島内統一国が誕生するはるか昔から、東西いずれの国からも迫害された南洋諸島の部族。

これもまた、度々不穏な動きを見せた。


カサネは勉強すればするほど、自分が身を置く国が決して安全ではないことを知ることになった。


無言を肯定ととったのか、ヨルキエは先を続ける。


「今回の式典で、王太子殿下の婚約者として、エツ国の王女が紹介されることになっている。今まで内々に話を進めていたが、ようやく本決まりになったようだよ」


「…ふうん。王族にしてはずいぶん晩婚なんだな」


オウタが口を挟むと、ヨルキエはおや、と眉をあげ、物騒な笑みを浮かべた。


「イギーの教育は体術に偏っていたのかな?それとも、君が不勉強なだけかな?」


暗に、耳目としての訓練をきちんと行っていれば、それくらい知っているはず、とオウタを脅している。

やぶへびだった、とオウタはぼやき、目を逸らせた。

ヨルキエは仕方ない、とため息をつき、嫌そうに説明した。


「王太子殿下は十四の年にはすでに妃を娶られていたよ。…いや、元妃か。エツ国の王女を正妃として迎えるために、離縁されたからね」


「そんな…」


カサネには、まるで現実感がわかない。

長年連れ添った妻を、物のように捨てるなんて。


「幸いだったのは、謂れのない不義の罪なんかを被らずにすんだことだね。元妃は病弱で公務を満足に行えないという理由で、三人の御子とともに実家の領地に帰されたよ」


カサネは何も言えず、ただ黙っていた。

淡々と話すヨルキエの口調が、逆に彼の不満を物語っていた。


「その式典がエツ国の機嫌をとるための茶番だってのはわかった。それで?俺たちになんの関係がある?」


スウガもまた、不機嫌な顔をしている。

ヨルキエは、近々行われるその式典への全員参加を知らせに来たのだった。


「エツ国の介入を良く思っていないのは、西側はもちろんだけど、東側の反乱分子たちは尚更その思いが強い。当然、今回の祝賀会に乗じて何かするつもりだろうね」


とはいえ、それを見越して王城も警備を強化する。

そうそう内部で騒ぎを起こすことはできないはずだ。


だが、ヨルキエはそうでもない、という。


「もう街の番屋にも伝わってしまっているようだから言うが、ここのところ、王城内で陛下、王太子殿下が相次いで襲われている」


一同は息をのむ。

特にカサネとスウガは何度か王城に上がっている。だがそんな話は初めて聞いた。


「本当に?」


あんなにたくさんの騎士が居て、どうして暗殺者が入りこめるのか。

カサネには信じられなかった。


「ああ。幸い怪我はなかったけどね。犯人は警備の騎士が対峙すると、すぐ自殺したそうだ」


美しく、荘厳な王城。

あの中で、そんな血なまぐさい事件が起きているなんて、とカサネは身震いした。


「一度ならまだしも二度も侵入を許したということは、内部に手引きの者がいるんだろう。

それをあぶり出して、大事になる前に始末をつけるのが今回の式典の裏の目的だよ」


敵は必ず動く。

エツ国の介入に反意を示すため、この機を見過ごすことは出来ないはず。

ヨルキエは飲み干したグラスを置いて、テーブルの正面に座る二人を見た。

その瞳はどこか暗い。


「そこで君らの出番というわけだ」


「わたしたち?」


カサネとオウタは顔を見合わせた。


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