恐竜と槍
4月の半ば。
新入生交流試合については、新入生にとって周知であり、
既にグループを作ってる者たちがほとんどだった。
5人1組ではあるが、調和を尊重し4人や3人のまま試合に挑む事を決めてるグループも少なくなく、
仲間になってくれる人はなかなか見つからないと言うのが現状である。
「なぁ?他に誰か声かけてない人って居たっけ?」
「アタシはもう見当つかないよぉ〜」
「ウチも当たれるだけ当たった」
学食にて、俺ら3人は頭を抱えていた。
このままではターニャとニャルの2人で挑む事になるのだから、当然である。
2人組で試合に出場するのは別に構わないのだが、
出場できる試合が減るのが痛い。
さすがに1vs1のモノバトル、2vs2のツインズバトルだけじゃポイントが少なくなるのは目に見えている。
既にチーム戦を想定した特訓を始めてるグループもいるくらいだ。
そろそろ腹をくくらねばならないかも知れない。
険しい表情を浮かべているのは俺だけではない。
赤髪の美少女ターニャは、両拳をこめかみに当てグリグリと擦っている。
まぁ記憶を引っ張り出したいんだろうけど、そんな深い記憶を出してきても意味はなさそうだが。
常に長いローブのフードを被る小柄な少女ニャルラート…ニャルも、
携帯端末をいじり続けている。SNSを飛び回り組んでくれそうな人を探しているのだ。
そんな俺たちの元に、1人の少女がおずおずと近付いてきた。
それに気付いた俺が、その子に顔を向けると、
これまた申し訳なさそうにキョロキョロしだす始末だ。
「あ、あぅ…あの、ぇと…」
「えっと…どちら様でしょう?」
「ひぇ!?あ!その」
オドオドしており、何に恐縮しているのか分からないが、なんだろこの子。
迷子か?
なわけないか。
「確か、隣のクラスの…」
ふと思い出した様に、ターニャが呟いた。
「は、はぃ!ク、クシナダです!クシナダ・エルヒュドラでしゅ!」
噛んだ。
てか、なんだこの「弱さ」を体現した見たいな子。
「えっと、クシナダさん。俺達に何か用事か?」
できるだけ怯えさせないよう、細心の注意を払う。
いや、なんで怯えてるかは知らないけどさ。
「は、はい!あの…試合の…め、メンバーにして貰えないでしょうか!!」
〜〜〜〜〜
落ち着いて貰うのに10分ほど。
ようやく会話がスムーズに出来る様になった。
「それで、クシナダさんは俺達とチームを組みたいって事だけど…それで合ってるか?」
「は、はい。その通りです。
新入生交流試合のチームがまだ、私含めて2人で。
それだとあまりポイントも稼げないですし。
それに…」
そこまで言ってクシナダが少し言葉を止める。
「それに?」
「あの…私の組んでる子が…幼なじみなんですけど…ちょっと意地っ張りとゆうか…なんと言うか…」
要領を得ない回答だ。
さすがに分からない。
「とにかく…私としては、少なくとも4〜5人のグループで試合に出たいですし…」
「相方が許してくれない、と?」
「いや、それもちょっと違くて…」
ちょっとイライラしちゃいそうだ…。
と、その時だった。
「おーい!クッシー?どこだー??」
学食内にかなりの大きな声が響いた。
入口は死角になっており、声の出処は分からないが、
にしても声デカイな。
ふと、クシナダを見ると、先ほど以上に身を縮め、
なんと言うか…死を覚悟しているかの様な表情をしていた。
ん…?
まてよ…。
「ねぇ、クッシーって…クシナダさんのことか?」
「そ、そそそ、そ、そうでしゅ」
顎がガクガクしており、またまともに喋れなくなっていた。
あからさまな動揺を浮かべるクシナダ。
俺は席を立ち上がり、学食の入り口を見た。
切れ目の、かなり気の強そうな金髪美女が、
学校指定のブレザーの代わりに着ている、黒いジャンパーのポケットに手を突っ込みながらキョロキョロしていた。
うん。
ヤンキーってやつか?あれは。
そっと席に着き、再び金髪美女の死角に隠れた。
本能的にそうしてしまった。
「く、クシナダさん
あのヤンチャ娘に何かしたのか…?」
「ちちち、違います!」
「じゃなんで…」
「オレがクッシーの幼なじみだからだよ」
早!
いつの間にか、金髪美女が俺達の座っていたテーブルの所まで来ていた。
「テメェら、クッシーに何してんだ?あ?」
凄みを効かせた声を上げる。
目付きのせいで近寄りがたいと思わせる雰囲気が、より一層強まる。
「何もしてねぇよ。むしろクシナダさんが声を掛けてきたんだ」
舐められてたまるか。
俺も普段と変わらない態度を心がけて返答する。
俺の言葉に対し、自称クシナダの幼なじみは
ターニャとニャルをそれぞれ睨んだ。
ターニャは、不意に現れた見た目ヤンキーな女子にビビり、引きつった表情のまま高速で首を縦にふり、
ニャルは落ち着いているのか、一回だけだが、確かに頷いた。
「じゃ何か?テメェらはクッシーの、友達だってぇのか?」
ヤンチャ娘の目は再び俺にもどっていた。
俺も俺で、それなりにビビってんだけど…。
ちらりとクシナダを見る。
その目は涙目ながらも「肯定しろ!」と言う様な、半ば命令に近しい意思が感じられるものだった。
「あ、あぁ。
新入生交流試合について話してたんだ」
瞬間、
ヤンチャ娘は無理矢理クシナダの腕を引っ張り、強制的に立ち上げた。
「いくぞ」
「ま、待ってルーちゃん!!」
よろめきながら必死にクシナダは抵抗していた。
あ、俺なんか地雷踏んだな…。
ってか「ルーちゃん」「クッシー」って呼ぶ仲なのかよ。
「るっせぇな!オレのエヴォギアの問題はオレで何とするっつったろ!」
「で、でもルーちゃんじゃアレはどうしようもないでしょ!」
「だからって他人に頼るこたぁねぇだろうが!!」
完全に2人だけの世界だな。
まぁ会話の感じを聞く限り、この「ルーちゃん」とやらのエヴォギアに何らかの欠陥、もしくは故障があり、それが原因でゴタゴタしてるらしいな。
「ルーちゃん」のこの性格とクシナダのコミュニケーション能力が祟って、
修理も出来ない上に、交流試合のチームも組めてない
ってとこだろうな。
それにしても、見る限り
「ルーちゃん」にここまでクシナダが意見をぶつけている、初めてなんだろうか?
徐々にではあるが、ヤンチャ娘がたじろいできている様に見える。
「う、うるせぇな!クッシーのばーか!!」
おい、金髪。悪口が雑だし、それでも「クッシー」呼びなのかよ。
「!!
・・・の、・・・や」
「あ?聞こえねぇよ!」
「ルーちゃんの!分からず屋ぁぁあああ!!
「突き進め」ぇぇええ!!!」
「なっ!?!?」
クシナダが泣き叫びながら、右腕を突き出し、エヴォギアを召喚した。
ここ学食なんですけど!?
先ほどから、何の騒ぎか?と見に来ていた野次馬も、一気に緊張し、クシナダから距離を取る。
クシナダのエヴォギアは、
前腕部を覆う程の盾で、腕先に向かって計3本の角の様なパーツが突き出していた。
形状も相まってその見た目は、まるで太古に絶滅した恐竜…
「クシナダ・エルヒュドラ!<トライセラトプス>!!
ルーちゃんにモノバトルによる決闘を申し込みます!!」
クシナダは涙を流している。
しかしそんな事を感じさせない程に、強く意思のこもった表情で、その盾…<トライセラトプス>をヤンチャ娘に向けた。
「クッシー…!
後悔してもしらねぇからな!!
「暴れ狂え」ッ!!」
売り言葉に買い言葉、と言った様子で
引くに引けなくなった金髪美女は、エヴォギア召喚の言葉を言い放った。
「ルナ・グレゴリアナ。
クッシーのモノバトルを受けるぜ!」
ルナ…だから「ルーちゃん」か…なんか謎が解けた気分。
いや、そんなことはいい。
「ルーちゃん」もといルナの手に握られていたのは、巨大で無骨な騎兵槍=ランスだった。
穂先から護拳までが異常に肥大化しており、質量兵器として振るっても、かなりの一撃を生みそうなデカさ。
だが、一目で分かった。
万全じゃない。
本来、ランスは刺突を得意とする近接武器。
故に、その最大の攻撃力は穂先に集中し、文字通り一撃で敵を貫く為にできている。
だが、ルナの手にしているランス型エヴォギアの穂先には、細かくひびが走っており、
どう高く見積もっても、あと数回の刺突で砕けそうになっていた。
「おい…」
俺がその事について意見しようとした時だった。
学食中のテーブルとイスが一斉に床に収納されたのだ。
人が座っているイスは、何か検知しているのかすぐには収納されなかったが、
周囲の異変に驚き席から立ったが最後、すぐさま床に吸い込まれていった。
俺たちが座っていた場所も例外ではなく、テーブルとイスは床に消えていった。
同時に、壁にも
表面を覆う様に白いシャッターが降りてきて、
さながら簡易的な戦闘場が完成した。
そして電子音声が学食中に響く。
『2人以上のエヴォギア召喚を確認しました。非関係者は速やかに非戦闘ブースへ移動して下さい』
それからの生徒の動きは2種類だった。
「またか」「どっちが勝つかな?」など、かなり他愛ない会話を広げる生徒と
まるで何が起こったか分かっていない様な生徒。
前者は上級生、後者は1年生。
「…学食がこんな準備万端ってことは、全校舎こんな仕様かよ」
わけが分からずキョロキョロする1年生達は、
暫く後に親切な上級生達に声をかけられ、非戦闘ブースとやらへ移動していった。
先輩に声を掛けられたターニャも一緒に移動しようとしてやがる。
「おい待てターニャ。お前は居ろよ」
「なんでよ!?」
「非関係者でもないだろう!!
それに、お前強くなりたいとか言ってたろ。
人の戦闘を見るのも、強くなる足がかりになるぞ?」
「居る」
なんだこの子は…
ニャルの方はと言うと、元から動く気は無かったのだろう。
既にカメラをスタンばっていた。
「なぁ…ニャル。前も思ったんだが、そのハンディカムはなんなんだ?」
「人のエヴォギアの能力や機能は、自分のエヴォギアをカスタムする上で重要。
チャンスがあれば資料として撮影している」
「…今度見せてくれ」
「構わない」
資料としてって事は、前回のマカロン先輩との戦闘以外にもありそうだな。
興味ある。
ものの数十秒の内に、
不要な生徒は居なくなり、
学食は簡易闘技場へと変貌を完了した。




