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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-視点統合:ティターン

 エレベーターシャフトに沿って伸びる階段を下り、僕は船の最深部へと向かった。当たり前のことだが、格納庫は一つだけではなかった。僕が降り立ったのは、より巨大な兵器を格納するためのスペースとカタパルト。それが船の外周に沿っていくつも並んでいた。


「外にあった、巨大人型兵器を格納するための場所だったんだろうな……」

(そうだろうな。

 滅びの時代、世界はいまより遥かに優れた科学技術を持っていた。

 人々は自らを縛る重力さえも振り切り、星の世界へと飛び立っていった)

「星? 何なんです、それは?」


 朝凪さんは一瞬言葉を切った。

 二の句を探しているようだった。


(……古い文献で見たというだけだ、私も正確なところは知らない。

 かつて粒子障壁に覆われる前、世界には空というものがあったのだ。

 我々は地球と呼ばれる天体の上で暮らしており、宇宙には無数の天体がある。

 天体を総称する名前が星なのだ)


 朝凪さんの言葉には、どこか慌てて取り繕うような感じがあった。もしかしたら、朝凪さんは実際にそれを見ているのかもしれない。クーデリアと同じく、過去の世界で。


「朝凪さん、もしかしてあなたはこの時代の人間じゃないんですか?」


 朝凪さんは僕の問いに答えてはくれなかった。というより、低く唸り次の言葉を探しているようだった。僕にそれを話していいのかどうかを考えているのだろう。


「返事をして下さらなくても構いません。

 あなたがいまを生きる僕たちの味方をしてくれているのは確かなんですから。

 もし語っていただける時が来たら、それは嬉しいですが」

(すまない、虎之助くん。だがいま言っても信じてはくれないだろうな……)


 朝凪さんは力なく言った。だが追及を行っている暇はない、僕の前に一人の男が現れた。身長は2mを越える、居丈高な男だ。全身の体毛を剃り上げ、上半身を強調するように露出している。浅黒い肌をした男が、僕のことを睨み付け口を開いた。


「お前が侵入者、エイジアか。

 噂は聞いている、好き勝手しているようだな」


 お男は威厳に溢れる声で言った。自然と背筋が伸びて来るのを感じながら、虎之助は構えを取った。右手には油断なくキースフィアを握っている。


(虎之助くん、奴は危険だ!

 あの男の名はナルニア=ローズ、またの名をティターンロスペイル!

 『十三階段』最後の一人、まさかこんなところに潜伏していたか!)


 まただ、朝凪さんは彼が知らないはずのロスペイルの情報を持っている。


 ナルニアは一瞬目を伏せ、そして風の如き勢いと俊敏さで僕の懐に入って来た。10mはあった距離が一気に詰められ、僕は息を飲んだ。首を刈り取る水平チョップを首の皮一枚のところでかわし、ゴロゴロと冷たい地面を転がりながら距離を取る。ナルニアが僕の方を見る前に、キースフィアを挿入した。


「変身!」


 エイジアの鎧が展開され、僕の体を覆った。

 ナルニアもまた光の中で変身する。


 均衡のとれた体つきをした、極めて魅力的な体型のロスペイル。トーガめいた布で全身を覆い、右肩から先だけを露出している。頭に巻き付いた月桂冠が天井の光を反射しキラリと輝いた。神の如き威光を放つ、ティターンロスペイルがここに顕現した。


 ティターンの手元に光り輝く両刃剣が出現、彼はそれを水平に構え、駆け出した。強く踏み込んだティターンは目にも止まらぬ三連斬撃を繰り出す! 虎之助はそれを紙一重のタイミングで避け、後退! ティターンもバックステップを打ち、左腕を突き出した。その手に弓が現れた。ティターンは両刃剣を矢のように番え、放つ!


 高質量の矢が高速で飛来する! 防御は不可能、虎之助は身を逸らし致命的一撃を避けた。壁に突き刺さった両刃剣が光に還元される、その瞬間にはティターンの手に次なる武器が握られていた! ティターンは長く伸びる多節鞭をしならせる!


(彼の力は物体の分解と再構成!

 これはあらゆるロスペイルに共通する能力だが、彼は特に対外生成に優れる!

 すなわち、彼に弾切れや武器切れは存在しないんだ!)


 音速を越える勢いで鞭が迫る。姿勢を低くし駆け出し、最初の一撃を回避。引き戻され、上から刺し貫くように下ろされた鞭の先端を転がって避ける。ティターンは徐々に鞭を短くし、最大威力を維持しながら振り回す。僕は三撃目を、敢えて後退で避けた。


 短くなった鞭は虚空を切った。一瞬得た安地、僕は手甲に銃を生成し、滅茶苦茶に撃った。音速を越えるコイルガンの一撃、さしものティターンも防がざるを得ない。一瞬にして多節鞭を引き戻し棒状に再形成、眼前で風車めいてグルグルと回し銃撃を防いだ。足を止めたティターンに向けて僕は駆け出す。銃は途中で分解した。


「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 手甲に電熱剣を生成し、ティターンに切りかかる。ティターンはガードのついた短剣を生成し僕の腕を受け流し、逆に切り返そうとして来る。一撃として有効打を放てない現状、少しずつ互いに焦れて来るのを感じた。と、その時だ!


「AAAARRRRRGU!」「イヤーッ!」


 その時、エレベータードアがこじ開けられ僕たちの方に吹き飛んで来た! 僕はバック転で、ティターンは回転垂直ジャンプでそれを避けた。エレベーターシャフトの中から黒い獣が飛び出し、その背から緑色の装甲に身を包んだものが更に跳んだ。


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 ティターンはメイスを二本生成し、その場で回転しながら振り抜く! ティターンを噛み千切ろうとした黒い獣、アルクトドスこと御桜優香の歯がまとめて叩き折られる! 更に上空からアンブッシュを仕掛けて来たユキの腕を掴み、投げた!


「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!?」


 回転を乗せて投げ捨てられたユキが御桜さんの上に落とされる!

 二人はよろよろと立ち上がり、ティターンを睨んだ。


「舐めやがって。ドーモ、ブラッドクラン。

 借りを返しに来てやったぜ」


 御桜さんは血の混じった唾を吐き捨て、ティターンに爪を向けた。


「よかろう。

 命知らずが襲い掛かってきたことなど、一度や二度ではない。

 だがそういう奴らの末路など、言わずとも分かっているだろう?

 恐れないならば掛かって来い」

「だから、それが舐めているって言ってんだよ!」


 再生した歯を噛み鳴らし、爪を振り上げ御桜さんが飛びかかる。僕とユキはティターンの左右に回った。振り下ろされた爪をソードブレイカーが絡め取り、折った。生命の樹によって形作られた槍の刺突をくるりと回転しかわしつつ、ティターンは全体重を背中に乗せ御桜さんに体当たりを仕掛けた。彼女の大きく、重い体が浮き上がった。


 突いた槍を引き戻さずなぎ払う。ティターンは腕でそれを防御、同時に槍が解け腕に絡み付いた。だがティターンはすぐに手甲を分解しそれを脱す。槍が手甲を握り潰したのとほとんど同時に、ティターンのハイキックがユキの側頭部に炸裂した。


 ティターンの背を狙い、僕は電熱剣を突き出した。蹴りの反動を利用しティターンはベリーロールを打ち、電熱剣をすれすれのところで回避。繰り出された浴びせ蹴りを左腕で受け止め、剣を振り払うがその時にはもうティターンは反動で着地していた。


(強い……! 三対一でも歯が立たないなんて!)


 能力はシンプル、だがそれを十二分に活用する技がある。どれほどの鍛錬を重ねて来たのだろうか。武器の選定にも迷いがない。僕は攻めあぐね、睨み合ったまま静止した。


「どうした、攻めて来ないのか?

 そうしているだけでは戦いは進まない……」


 その時、激しい揺れが船内を襲った。先ほども地震のようなものがあったが、これは違う。船内から何らかの衝撃波が放たれたような、そんな感覚だった。


「始まったか、ついに。こうしてはおれぬな!」


 ティターンはすぐさま反転し隔壁を超え、どこかへと消えて行った。追い掛けたかったが、まずは仲間を介抱する方が先だ。僕はユキと御桜さんに駆け寄った。


「二人とも、大丈夫か? かなりキツイのを貰ったみたいだけど……」

「あー……カッコ悪いところ見せちゃったね。やりやがるわ、あいつ」


 御桜さんはバツの悪そうな笑みを浮かべた。その目には闘志が満ちている。


「僕のことは心配しないで、兄さん。

 それより、先に進もう。嫌な予感がするんだ」


 それは僕も感じていた。あいつがとどめも刺さず消えて行く理由はいったい何だ? もしや、ここでするべきことはすべて終わってしまったのではないか? だとするなら、あいつらがここですべきことは何なんだ? 揺れに関係があることは間違いない。


 僕たちは立ち上がり、ティターンが消えた隔壁の向こう側へと向かった。


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