12-Sideトラ:デッドリフト
轟音とともに吐き出される大口径弾を回避しつつ、アームドアーマーを撃つ。電磁加速された弾丸は、しかし装甲に弾き返され霧散する。
「硬い……! さすがはロストテクノロジーってことか!」
(アームドアーマーの装甲は20mm弾の直撃に耐えられるようになっている!
遠距離戦は分が悪い、とにかく取り付いて戦うんだ! 虎之助さん!)
確かに、あの鈍重な外見なら接近戦は苦手そうだ。僕は影から影へと飛び移り、過度の壁を蹴ってアームドアーマーの足元に取り付いた。関節部に向けて拳を繰り出す。
「裏を掻いたとでも思っていたか! イヤーッ!」「グワーッ!?」
しかし、右足が突然振り上げられた。僕のパンチは脚甲によって受け止められ、放たれた蹴りによって僕は吹っ飛ばされた。何という威力だ、装甲に醜い傷がいくつも描かれ、叩きつけられた背中の装甲もひしゃげた。だが何より驚くべきはあの柔軟さ!
「このアームドアーマーは人間の動きを完全以上に再現している。
人間に出来ることはすべてができ、そして人間に出来ぬことが出来るのだ!
理解せよ、エイジア。お前はその不細工な鎧を身に着け粋がっている。
だが真なるテクノロジーの寵児はこの私なのだ!」
マシンは意味不明の口上を述べながら左足で踏み込み、爪を振り下ろした。歩幅が広い分、踏み込みで伸びる射程も長くなる。側転を打ちギリギリのところでそれを回避、背後にあった金属防壁に3つの裂傷が刻まれた。一撃でも貰えばバラバラに引き裂かれる!
「ちょこまかと逃げ回りおって!
それとも俺とやり合う勇気なしか!?」
マシンは右腕をなぎ払いながら発砲! マズルジャンプで上下に跳ねる銃口から放たれる弾丸を避けながら、僕は室内を縦横無尽に駆け回った。アームドアーマーは柔軟な機動力を持っているが、さすがにサイズの関係で僕ほど自由に動き回ることは出来ない。機動力で相手を撹乱しながら考える、どうすればあいつを倒すことが出来るのかを。
(真正面からの打ち合いでは相手に勝てない。
どうすべきかを考えるべきだ)
「あのアームドアーマーっていうのはマシンが能力で操っているんでしょう?
なら、あのフラッグとやらがあるはずだ。それを壊してやれば……」
(ダメだ、あいつはいま肉体と機械を直結させている。
一度に一体までしか出来ないが、フラッグなしで機械を操作出来る。
この状態のあいつに弱点は存在しない)
……なぜそんなことを知っている?
僕は今更ながら訝しんだ。
「どうしてそんなことが分かるんですか?
彼はあなたからすれば未来に現れたロスペイルであるはずだ。
それともあなたが戦っていた頃からあいつはいたんですか?」
(……)
朝凪さんは僕の疑問に答えなかった。
「何をブツブツ言っていやがるんだよ、テメーッ!」
マシンは苛立ち、腰のホルスターから人間の腕くらいはある大きな円柱状の物体を取り出した。その頂点にあったボタンを押し、投げる。直観する、あれは手榴弾だ。
「アームドアーマーサイズの手榴弾……!? あんなもの喰らったら」
(いかん、防ぐんだ虎之助さん! 盾を展開すればあの程度は……)
盾を展開し、防ぐ。そんな後ろ向きな行動で、果たしてあいつに勝てるのか? 敵の攻撃力、防御力はこちらを大きく上回っている。それに勝利するなら、リスクを取らねば。
僕は弾雨の中に身を晒した。25mmの大型ガトリング弾が僕の周囲を通り過ぎ、時折掠める。僕は地を蹴り跳躍し、空中で身を翻し後ろ回し蹴りを繰り出した。手榴弾は蹴りによって弾かれ、アームドアーマーの手元に戻って行く。5秒が無慈悲に過ぎる。
手榴弾が爆発し、周囲に炎と破片をもたらした!
「「グワーッ!」」
僕とマシンは衝撃に煽られ吹き飛ばされた。
倒れながらも、両手を突き立ち上がる。
(虎之助さん!
なんて無茶を、一歩間違えばキミだけが吹っ飛んでいたんだぞ!)
「すみません、朝凪さん。
でもこうやらなきゃ勝てなかったはずです」
爆炎の向こう側からアームドアーマーが歩み出て来る。装甲には鋭い破片がいくつも突き刺さり、炎に撫ぜられた装甲が黒く変色している。特に右腕の損傷は著しく、彼は自らの爪で破損したマシンガンユニットを切り取り、投げ捨てた。
「オ、ノ、レ……!
これを見つけるまで、どれだけの手間暇をかけたと思っている!」
アームドアーマーが、跳んだ! 脚部サスペンションの損耗を度外視した近接コンバットパターン! マシンは怒りで我を忘れ、己が屈辱を実力で晴らさんとしているのだ!
「なあ、朝凪さん。これを倒す手があるかもしれない。
出来るかは分からないけど」
鈍化した主観時間の中、虎之助は構えを取り、敵を見据えた。巨大なる質量が、すべてを押し潰す暴力が目の前に迫る。それでも虎之助の目から闘志は消えない。
(……なるほど。
これほど巨大な船なら、あるいは有り得るかもしれないぞ。
だが、それを確かめ、実践するためには時間が必要だ。
キミにそれを成し遂げる覚悟と力はあるか)
虎之助は高速スライディングでアームドアーマーの股下を潜り攻撃を回避。すぐさま反転して放たれた爪の振り下ろしを前転で回避し、素早く立ち上がった。アームドアーマーのクローが床に突き刺さる、マシンは床ごと爪を引き抜いた。
「愚問だな。それが出来なきゃ、そんなことは言わないよ」
「だからッ! 手前はッ! ブツブツ言ってんじゃねえよ!」
マシンは何度も大きな爪を振り回す! シリンダーが破壊され、培養液が周囲を濡らす! 虎之助は培養液に向けて炎熱球を放った。何らかの化学物質が蒸発し、添加されていた有害物質がガスとなって室内に充満する! もちろんエイジアには効果なし!
「目くらましをしてどうしようってんだ、オイ!」
(アームドアーマーに毒ガスは通用しない!
彼らは局地戦を想定して作られている!)
不穏な回転音を聞き、僕は身を屈めた。直後、クローに突き刺さっていた床材がグルグルと回転しながら飛んで来た。一瞬実を屈めるのが遅ければ、僕はこれに押し潰されて死んでいただろう。回転によって煙が拡散され、再び僕はマシンの姿を見た。
「そぉこぉにぃ、いたかァーッ!」
マシンは喜悦の声を上げた。僕もマシンに近付いて行く。あと5歩の距離まで近づいた時、マシンが爪を振り払った。僕はジャンプでそれを回避し、ガントレットの上に乗った。そしてそれを駆けのぼり、か細い首に守られた頭部を目指す!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
マシンは機体を壁にぶつけ、振り落とそうとした。僕は脚部に重力を収束させそれを堪える。だが稼がれた一瞬の隙のうちに、マシンは迎撃火器を展開した。首筋の小さな隙間から飛び出して来たガトリングガンが僕を狙い放たれる! 側転で機体を降りつつ回避!
「羽虫如きが、この俺に逆らうことなんて……エ?」
機械の動作音と減圧音が格納庫内に響き渡った。側面の壁が開き、荒野と戦場が眼下に見えた。開いた口からは細長いレールが2本伸びていた。こんなところから飛び出そうなどと、古代人はよく考えたものだ。僕はあんな機械に乗っていたとしてもお断わりだ。
僕は手甲上に銃を生成、そこにハープーン弾を装填し、放った。一瞬の虚を突いた攻撃はアームドアーマーの右側面に命中。それを見て、マシンはせせら笑った。
「これで俺を貫こうとでもしていたのか? 残念だが、そこまで薄くない」
「だが突き刺すには十分な威力だったろう? これでいいんだ、これで」
ハープーンはワイヤーロープで本体と接続されている。僕はその接続を解除し、末端についていた杭を地面に突き刺した。マシンは僕の行動の意味が分からず困惑している。
「俺をここに縫い止めようとでも!? ナメるな、その程度の拘束」
頭上に輝く赤ランプが緑に変わる。
射出装置に電磁力が働き、打ち出される。
悲鳴を上げる暇すらもなかった。マシンは射出装置にいとも容易く引きずられた。終点で装置が止まり、慣性に従いマシンの体が宙を舞う。僕の体から50m以上離れたことによって武装が分解され、光の粒子となって僕のところに戻って来る。マシンを置いて。
「アアアアアアアアアーッ!?」
悲鳴がどんどん遠ざかって行き、そして爆発四散の音が聞こえて来た。
(終わりだな。
古代の射出兵士たちはパラシュートを使い減速したというが……
当然、減速なしで地面に叩きつけられれば死ぬ。
先に進もう、虎之助さん)
電子存在である朝凪さんにシステムハッキングを頼み、カタパルトを動かしてもらったのだ。こんなことが出来るかは分からなかったが、出来た。この朝凪幸三という人はいったい何者なのだろう? 僕は疑問を封じ込め、先に進んで行った。




