12-Sideトラ:戦場混迷
ムーンサルト跳躍で岩から岩へと跳びながら、エリヤはダガーナイフを投げた。ナイフはクルクルと回転しながらヘリのローター下部にあったフラッグに激突し、それを破壊した。途端にヘリはローターの動きを止め、落下していった。
(無人兵器の動きが鈍くなったな。
中で何かあった……と考えるべきか?)
数分前、虎之助から内部に侵入しようとしていると通信があった。そしてそれは成ったのだろう。無人兵器を使っていたロスペイルと交戦しているか、あるいは殺害したか。いずれにしろ敵の動きが鈍っているのはいい、市長軍が息を吹き返しつつある。
「ッシャオラーッ!」「いつでも行けっぞ!」「タマついてんの見せろや!」
砲撃によって行動不能に陥ったバギーが応急修理を終え、やかましいエンジン音を轟かせた。同時に、攻撃回避のために散開していたバギーが矢じりめいた陣形で突進を仕掛ける! 粗雑な鉄によって修復を行った軽タンク軍団が押し潰され粉砕される! 上空のヘリはクーデリアの銃撃によって、あるいはエリヤの剣撃によって落とされる。
「スゲぇな、あの二人……
是非ともうちの部隊に欲しいもんだぜ」
後方から双眼鏡で戦況を観察していたジャックは呻き声を上げた。戦況は市長軍側に傾きつつある、降下して来た武装ロスペイルたちは散兵たちに十字砲火によって動きを止められ、危険な軽タンク部隊は動きを鈍らせ、ロケット弾によって行動不能に陥らされている。あとは第一陣が船に到達すれば戦況は完全に固まるだろう。
「イヤーッ!」
その時、船の秘密ハッチが開きそこから一体のロスペイルが姿を現した。それは小さくとも強靭な肉体を持った人間の形をしていた。手足が太く、逆に胴体が比較的細い。鋭い目が青く輝き、打ち鳴らされた拳が不穏に振動した。鋭角の波の刻印が施された腕を落ちながらロスペイルは振り下ろした。一帯を凄まじい振動が襲った。
それは不安定な地盤を砕き、岩山を崩落させ、そしてバギーをまとめて足止めするほど強烈なものだった。目の細かい砂が振動によって均一化され、砂場が沈んだのだ。投げ出された兵士たちを、落ちて来たロスペイルは丁寧に押し潰した。
「チッ、あいつが一番厄介か。
クーちゃん、標的変更! あいつをやるぞ!」
「合点承知ですよ、エリヤさん!」
クーデリアは航空ドローンを足場に跳躍、足元のロスペイル目掛けて弾丸の雨を降らせた。ロスペイルは太い腕を掲げた防御、その腕が細かく振動した。放たれた重金属弾は、しかし振動する腕とぶつかり合い砕け散った。クーデリアは目を剥く。
「気を付けてください、エリヤさん! 何だかあいつ妙ですよ!」
「ああ、いま見た。いったいどういう能力を持っているのか……」
エリヤは居合めいて刀を振り払った。ロスペイルは軽く腕を上げ、それを受け止めた。振動が刀を伝わりエリヤの手にもたらされる。奇妙な痺れを覚え、エリヤは刀を取り落した。刀が砕け、柄だけが地面に落ちた。
「オイオイ、マジか。これはやってられないな……!」
エリヤは右のフックを屈んで避け、踏み込みと同時に振り上げられた左アッパーをバック転で回避。4連続バック転で距離を取り、兵士からロケットランチャーを奪った。
「刀は防げるようだが、こっちはどうだ?」
ためらうことなくエリヤはトリガーを引く。ロスペイルは右腕を上げ振動させた。振動は空気を伝わってロケット弾を揺らし、誤爆させた。1m手前で爆風が彼を撫でる。
「無駄だ、俺の振動パワーを前にすればどんな攻撃も無意味だ。
俺の名はアースクエイク……偉大なる大地の胎動!
我が力を恐れよ、無力な人間たち!」
アースクエイクロスペイルは手首を内側に曲げ、頭の上まで持っていく奇妙な構えを取った。防御だの、そんな小さなことは考えていないようだ。そもそも振動防御で大半の攻撃を無力化するため、防御することすらそうはないのだろう。
殺せぬ相手ではない、エリヤはそう判断した。だが、市長軍の援護がなくなったことで無人兵器がその脅威を取り戻しつつある。エリヤは舌打ちした。
「さて、これはキツイ状態になって来たな……どうするべきか」
砲火とともに、エリヤは跳んだ。
跳んだ先にアースクエイクが向かう。
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放たれた散弾を斜め上方へのジャンプで回避、更に壁を蹴り、武装ロスペイルの頭を蹴った。蹴りの威力に耐え切れず頭が後方に飛んで行き、ロスペイルは爆発四散した。
「オーバーシアの奴ら、ここにどれだけの戦力を集中させているんだ!」
これほどまで大量のロスペイルを運んで来たとは。そう思ったが、違うようだ。気密扉を蹴破り、中に入ると、そこにはいくつものガラスシリンダーが並んでいた。内部には解体され、継ぎ接ぎになった人間の肉塊が浮かんでいた。口元を押さえ、吐き気を堪える。
「そうか、オーバーシアの実験場……!
彼らは住民のなれの果てなのか!」
怒りが湧き上がって来る。自らの欲望のためにこの街を、そして何の関係もないアウトラストの住民さえも巻き込むその姿勢。信仰だか何だか知らないが、ふざけた話だ。絶対に叩き潰し、聖なるシンボルとやらを燃えるゴミの日に捨ててやる。僕は一歩一歩に怒りを込め進んだ。敵がどこにいるのか、恐らく一番守りが強固な船底付近だろう。
(ここは……調べたことがある。
かつてはカタパルトと呼ばれていた)
「投石器?」
(電磁リフトによって機体を射出するための部屋だ。
気を付けろよ、虎之助くん。
誤作動して投げ出されれば命はないだろう)
室内は広々としているが、実験設備に類するようなものはない。恐らくは、シリンダーを保管しておくためだけの部屋なのだろう。3mのシリンダーが易々と収まる高い天井、そしてそれを運搬するための広い通路。長方形の部屋には5つの扉があり、うち一番奥にあるものが一番大きい。貨物運搬用のエレベーターなのだろう。僕はそこに近付いた。
その時、扉の上にあった赤いランプが明滅した。僕は反射的に構えを取り、扉が開くのを待った。赤いランプが消え青いランプがつくと、ガコン、ガコンという重い動作音を響かせながら分厚い鉄扉が左右にスライドする。中から巨大な鉄の兵士が現れた。
「この間は不覚を取ったが今回はそうはいかんぞ。
ここが貴様の死に場所だ!」
3mを越える巨体が身を屈めエレベーターから出て来た。右腕にはシールドと一体化したダブルマシンガン、左腕にはシールドと一体化したクローアーム。人を殺す化け物が人を殺すためだけに作られた機械を駆っていた。
(気を付けろ、虎之助くん。
奴が操っているのは装甲騎兵、旧時代に作られた戦闘兵器だ。
柔軟な機動性と優れたセンサー類、そして高い出力を持つ。
エイジアと言えど真正面から打ち合うことは出来ないだろう!)
「了解した、朝凪さん。こいつには借りもある、全力で行く!」
僕は構えを取り、マシンロスペイルとそれが駆るアームドアーマーと20mほどの感覚で向かい合った。マシンはダブルマシンガンを向け、発砲して来た。
「歯向かってくる羽虫野郎は、潰してやらねえとなァーッ!」
火線が僕を追い立てる。僕はシリンダーの影に隠れるようにして駆け出した。静かな空間を炸裂音が満たし、穢れなき空間をガラス片と溶液が濡らした。




