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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-Sideユキ:ヤドリギの槍

 ユキは右腕を振り抜いた。前腕から生えていたブレードが圧縮空気によって打ち出され、ブーメランめいた軌道を取り飛んで行く。キャメルはブリッジ動作でそれを回避、素早く上体を引き上げ飛びかかってきたユキを迎撃した。


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 キャメルの腕リーチは異様に長い。ユキは人間としても小柄な方だ、変身してもそれほど大きく変わらない。腕からブレードを再生しつつ、ユキはキャメルの拳撃を凌いだ。


「所詮は小僧! エイジアほどの脅威は無し!

 ここが貴様の墓場よーッ!」


 ユキはキャメルの右フックを防ごうとするが、長さ故に腕はユキのガードをすり抜け側頭部に突き刺さった。脳を揺らす一撃、だがユキはそれに耐えた。


「イヤーッ!」「グワーッ!?」


 中指と親指を突き合わせ、ユキはキャメルの腹部に打ち込んだ。収束した衝撃がキャメルの装甲を砕き、そして隙間に埋め込まれた生命の樹が打点を中心に根を張った。キャメルは大股で後退し生命の樹を掴むと、腹ごと根を張る樹を抜いた。


「な、舐めッ……舐めるなよ、小僧!

 俺とお前とではものがッ……!」

「その傷で戦い続けるのは無理だ!

 退いて下さい、あなたを殺す気は無い!」


 ユキの気遣い、だがそれはキャメルにとって絶え難き侮辱だった。目を血走らせ咆哮を上げるキャメル! 信仰による狂乱が彼に力を与えているのだ!


 状況は更に変化する……重低音が辺りに響き渡り、空に黒い影が現れた。二つのローターが激しく回転する音だ。黒塗りの大型軍用エアプレーンが現れ、再度ウェポンラックに装着したガトリングガンを激しく回転させた。


 ドリルが回転するような奇妙な音と共に、銃弾が戦場をなぎ払った。航空戦力を持たない市長軍はそれによって蹂躙され、ユキもまたキャメルとの打ち合いを中断せざるを得なくなる。更に、背部に装着されたコンテナから何体もの武装ロスペイルが降りて来る!


「オーバーシアのロスペイルか……! くうッ……!」


 銃を装着したロスペイルがユキを狙い、回避の隙を狙い巨大手甲と鉤爪を両手に装備したロスペイルが横から飛びかかる。振り払われた爪をブレードで弾き胸を蹴り反動跳躍、左右から放たれた十字砲火を紙一重のタイミングで回避。だがそこにキャメルが迫る!


「イヤーッ!」「グワーッ!?」


 ラクダ4本足を出現させたキャメルが一蹴り30mの大跳躍を打ち、ユキに体当たり! 防御の隙さえも無かったユキは弾き飛ばされ、砂の上をゴロゴロと転がった!


「フハハハハ、どうだアストラめ!

 すべては信仰心、神の御心! 故に――」

「うるっせえんだよ、化け物どもが!」


 ヘリよりもなお高く跳躍した黒い影がメインローターを上から叩き潰した。安定を失ったヘリは駒めいてグルグルと狂ったように回転、武装ロスペイルを巻き込み地面に激突! 爆発! 禍々しき黒い煙を上げる残骸の上に、アルクトドスロスペイルが降り立った。


「バカな!? 貴様はマシンが確実に殺したはずだぞ!」

「あの程度で? こっちも舐められたもんだね。

 あたしは、まだ死ねないんだよ!」


 理由はない! 単に生きたいだけだ! シンプルな願いが強靭な意志と肉体に支えられ、いかなる理屈をも跳ね除ける屈強な武器と防具を作り上げる!


 優香は回転跳躍で銃弾を避けながら着地、獣めいた四足歩行形態を取った。それを見て、キャメルは思わず生唾を飲み込んだ。何たる厚み、同じ格好をしたキャメルの倍は大きいだろう。その巨体を持ってして、優香は音よりも早く駆けた。


 疾走しながら放たれた爪で左右4体の武装ロスペイルが真っ二つに切り裂かれ、奥にいた一体は強大な顎によって首を噛み砕かれた! 振り捨てた死体が爆発四散するよりも速く、優香は駆け出した! 黒い死の旋風が荒野を地獄色に染め上げる!


「何だ、何なのだあの怪物は!? 我々はあんな怪物を……」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」


 呆然とした一瞬の隙を見計らい放たれたブレードがキャメルの左肘から先を切り落とし、返す刀で放たれたもう一撃が彼の背中を深々と切りつけた! キャメルはたたらを踏み、痛みで朦朧とする意識の中駆け出した。自らの体を再構成しラクダ胴体を再生成。だがどこへ? 少なくともここよりも安全などこかへ。それがどこかは分からない!


「逃がすかってえんだよ、こいつはァーッ!」


 優香はその場で身を翻した。太い尻尾に打たれて周囲を取り囲んでいたロスペイルが吹き飛んだ。弾丸めいた勢いで優香はスプリントし、キャメルと並走した!


「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 キャメルは残った右腕を必死になって振り回し、近付く優香を迎撃しようとした。優香は緩急をつけた動作で直撃を避けるが、しかしこのままでは埒が明かない。元より四肢のすべてを移動に使わなければならない優香と、上半身を自由に使えるキャメルとでは機動戦の適性が違う。どうしたものかと考える優香の背に声が掛けられた。


「御桜先輩!」


 追跡する武装ロスペイルを振り切りながら、ユキが追走を掛けていたのだ。優香はその呼び名で彼が誰なのかを理解した。一瞬立ち止まり、彼を待つ。ユキはクルクルと回転しながら跳躍、優香の背に跨った。一瞬の後、優香は弾丸めいて再び駆けた!


「来るな! 来るでない! 罪深いぞ、その行いは!

 弱者を追い立てるのは実際」

「ならあんたが一番罪深いってこったな!

 あたしは忘れてねえぞ――!」


 優香は思い出す、目の前のロスペイルがしでかした罪とやらを。彼は何の罪もない住民を追い立て、戯れに殺した。それを罪だというのならば、この男とてそうだ。


 そして、自分も。

 そして罪人が罪を憎んではいけないわけではない。


(狂人どもめ!

 どれだけ追い立てられようとも、俺は生き残って見せる!)


 キャメルは生存に自信を持っていた。飛び道具の類ではキャメルの速度に狙いを付けることが出来ず、接近戦は長い手が捌く。逃げに徹すれば誰よりも強い――はずだった。


 一方で、背に乗ったユキもどうすればいいのかを考えていた。腕の防御を掻い潜り、攻撃を通すためにはどうすればいいのかを。そして一つの結論を得た。彼は生命の樹の種を一つ手に取ると、それをギュッと握った。生体アンプルを染み渡らせ、手の中でそれを育てた。根は他の根と絡み合い、棒状の物体を形作った。

 神聖なるヤドリギの杖を。


「イヤーッ!」「イヤーッ!?」「イヤーッ!」「イヤーッ!?」


 ユキは手元でそれをくるりと回転させ、槍のように突き出した。絡み合った根が十字槍めいた姿を取り、キャメルはそれを紙一重のタイミングで逸らす。こうなればリーチの優位はない、むしろ追うユキに対しキャメルは振り返り対処をしなければならない。


 三度目の突きを捌いた、そうキャメルが思った時にはすべてが手遅れだった。いつの間にか根は解けており、意志を持ったようにキャメルの腕に絡み付いた。根は非常にがっちりと彼の腕を掴んでおり、無理矢理引き剥がすことなど到底出来なかった。


「イィィィィィィィィッ」「ヤァァァァァァァァァーッ!」


 優香はターンしつつ停止し、ユキは絡め取ったキャメルを思い切り振り捨てた。エネルギーの収束したキャメルの右腕がへし折れ、彼らの後方へと投げ捨てられた。キャメルは足をじたばたと動かしながら無様に立ち上がろうとするが、影がかかる。


 ヤドリギの槍を構えたユキが跳躍した。

 キャメルは命乞いをした。


「助けてくれ。俺はお前たちと同じ、人間なんだ。

 頼む、助けてくれ」


 ユキは泥めいて鈍化した時間の中で答えを出す。

 それは、重い決断だった。


「アリーシャを傷つけた。あなたたちは……

 他の人にもそうするのだろう?」


 ユキはヤドリギの槍を投げた。両腕を失ったキャメルにそれを避けることは出来なかった。胸に槍が突き刺さり彼の体に、そして大地に根を張った。キャメルは一瞬にしてすべての力を生命の樹に吸い取られたが、しかし自然と一体化する恍惚感があった。キャメルロスペイルは一切の苦痛を感じないまま絶命した。


「ごめんなさい……でも、僕はもう止まりたくないんです」


 アリーシャを助ける。それだけに集中する。

 それだけが、いまの彼の願いだからだ。


 死したキャメルに一瞬の祈りをささげたユキの隣に、黒い獣が寄り添った。その背に乗れと、首で促した。ユキは頷き、再びその背に跨った。黒い獣は巨大戦艦を見上げ、そして跳んだ。砲撃で開いた穴を、僅かな装甲の突起に足をかけ昇って行く。敵の下へと!


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