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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-アポカリプス・ナウ

 入り組んだ通路を進んで行くと、揺れがどんどん強くなっているのが分かった。そして、揺れを発しているのがやはり船内だということも。僕たちは鋼鉄の床を蹴り、そこへと向かった。格納庫の最奥部、かつては詰め所として使われていたであろう場所。


 部屋の中央には手術台めいたものがあり、そこにはアリーシャが乗っていた。


「アリーシャ! アリーシャ、どうしたの!? 返事をしてよ!」

「待て、ユキ! 何かがおかしい……!

 これは、アリーシャちゃんから……」


 絶え間ない揺れも、僕たちの魂を握り潰すような威圧感も、すべて。すべてはアリーシャの体から発されたものだ。近付いてきたいま、それが分かる。


「どうなんだ。どうなんだ、変わるのか、それとも……!」


 喜びと不安に震えた声が、僕たちの耳に届いた。モニターで彼女のバイタルデータを観察している、一人の男がいた。不揃いな無精髭に落ち窪んだ眼窩、くっきりと刻まれたクマ。衣服も頭髪もお世辞にも清潔とは言えない、異様な風体の男だった。


「お前がアーノルド=バッカーマンか!

 彼女にいったい何をしたんだ!」

「見ていれば分かる。すべての答えがここに収束するのだから」


 それを待っていられないユキは部屋の中に飛び込んだ、生身の状態で。彼らは妨害しようともしない。マズい、ユキを引き戻そうとしたが、しかし遅かった。


 ユキの眼前にあった空間が膨張した。そうとしたか表現出来ない、目の前の風景が突如としてレンズめいて歪んだのだから。ユキは歪みに弾き飛ばされ、床の上に転がった。だがそれよりも驚くべき現象が、僕たちの目の前で起こった。


 アリーシャは立ち上がり、否、浮き上がった。長い髪を振り乱しながら起き上がり、目を開いた。黄金の瞳が爛々と輝き、肉体がブレる。人の体と、ロスペイルの体が歪に重なり合い、そして完全に怪物の物へと変わった。胸元には金色に輝く宝石が一つあり。


「なっ……! あれは、まさか、キースフィア!?」


 外見的特徴は一致していた。問題は、キースフィアがなぜあんなところにあるかだ。どうしてアリーシャと一体化している? あれは本当にキースフィアなのか?


「おお……! 神話に語られるものと同じ、何と神々しい御姿なのだ!」


 怪物へと変わったアリーシャの姿が、更に変貌する。周囲の物体を取り込み、膨張を始めたのだ。僕と御桜さんはユキを引きずり彼女から逃れ、アーノルドとナルニア、そしてクロウも部屋から逃げようとした。僕たちは一瞬睨み合った。


「放っておけば、お前のお仲間は全員死ぬことになる。

 彼女の力は……大変残念ながら、暴走してしまっていてね。

 こちらでも制御することが出来ないんだよ!」


 アーノルドは歪んだ笑みを浮かべて叫ぶ。銃を構えたが、アトランダムに広がる歪みが僕と彼らを隔てる。暴走しているという言には一定の説得力があるだろう。


「頑張りたまえ!

 体内の『林檎』を取り除けば彼女は元に戻るかもしれんなぁ!

 出来るんならそうしてくれ、そういうデータも必要なんだ!

 アッ、ハッハッハ!」

「アーノルド、ここまでだ。退避するぞ、これ以上は危険だ!」


 空間が収縮し、爆発が巻き起こる。そうしている間にもアリーシャの体は巨大化を続け、部屋全体を飲み込まんばかりになっている。このままここに留まるのはマズい!


「朝凪さん、さっきハッチを開いたの、また出来るか!?」

(可能だ! ティターンとやり合った時のハッチを使おう!)

「朝凪さん、って……え? 兄さん、いったい何を……」

「説明している時間はない、行くぞユキ、御桜さん!」


 歪みが僕たちを追い掛けるように広がって行く。僕たちは研究室を飛び出し、再び格納庫へと向かった。だが、これから先いったいどうすればいいのか……


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 無人兵器が一斉に活動を停止し、弾丸の雨が止んだ。そのタイミングを見計らい、エリヤは飛び出した。アースクエイクは振動する腕をエリヤに突き出す。拳が当たればエリヤの柔肌はミキサーに突っ込まれたフルーツの如くグシャグシャになるだろう!


 彼女とアースクエイクの間にジャックが割り込んだ。ジャックは自らの拳をアースクエイクの拳にぶつける。振動がジャックを揺らし、そして手甲部分を爆発させた!


 ジャックの能力は甲殻を作り出すこと。また、生成時に人体への影響が少ない可燃性ガスも生成される。彼はそれを甲殻と甲殻の間に閉じ込め、衝撃の相殺や打撃への転用のために使っている。そう、このように。爆破の衝撃でアースクエイクの振動が相殺された!


「イヤーッ!」「グワーッ!?」


 振動が相殺された一瞬を狙い、エリヤはアースクエイクの右腕関節をへし折った! 痛みに呻くアースクエイクに、エリヤは更に後ろ回し蹴りを繰り出した! アースクエイクの胸部装甲が砕け、後ろにふっ飛ばされる!


「ぐぬっ、貴様、ら! 調子に、乗るなッ……」


 アースクエイクは左腕で振動波を放とうとした。ところで、上空からいくつものロケット弾が降り注いだ。アークスクエイクは目を見張る。先ほどまでの弾雨の中では使えなかった攻撃が、アースクエイクの振動防御をも突き破り叩き込まれた!


「グワーッ! グワーッ! や、やめッ……グワーッ!?」


 防御力と機動力に欠けたアースクエイクは、ロケット弾を防ぐことも避けることも出来ない! 爆炎に飲み込まれ、アースクエイクロスペイルは爆発四散!


「身体能力と振動に頼り切っていた報いだ。炎に飲まれてあれ」


 エリヤは一服煙草を吸い、ジャックの方を睨んだ。


「しかし、アンタがロスペイルだったとはな。

 何が目的なんだ、市長さんよ」


 ジャックは肩をすくめて変身を解除した。


「俺はこの街をよくしたいだけさ。

 出来ることなら、見捨てられたアウトラストにも光を当てたい。

 そのために、この街に巣食うクソどもを一掃したい。それだけだ」

「ま、んなことはいいさ。

 街のトップがロスペイルだってことに驚いただけ。

 アンタの他にもいるのかい? まさかロスペイルだけってわけではあるまいが」


 それには答えず、ジャックは煙草に火をつけた。

 市庁舎は全面禁煙になっているのだ。


「もしそう思ってるんなら、アンタが持っているシティへの認識は甘いぜ」

「……なるほど、それはそれは。それが聞けただけで、ここに来た価値がある」


 戦況は市長軍側に傾いている。展開した武装ロスペイルたちも、早晩制圧されるだろう。あとは内部に巣食う連中を倒すだけだ……そう思った三人は、破砕音を聞いた。見上げると、巨大な船が損壊し、巨大な破片が辺りに撒き散らされていた。


「――総員退避! 船の500m圏内から離れろ! すぐにだ!」


 ジャックは迅速に指示を出し、自分たちも船の周りから退いた。後退しながら後ろを見たクーデリアは、開いたハッチから飛び出してくる3つの影を見た。


「見てください、トラさんです! って……ユキくんもいますよ!?」


 クーデリアは驚いたが、すぐにそんなことを気にする暇はなくなった。船の甲板を突き破り、巨大な腕が生えて来た。亀裂から翼が広がり、瞬きの風圧で周囲の物体を吹き飛ばした。恐るべき悪魔の双眸が周囲を睥睨し、気の弱いものを失禁させた。


「あれは、アリーシャちゃん? いったい、どうして……」


 見上げたクーデリアは、彼女の内側に輝く金色の光を幻視した。

 エデンの林檎。


 彼女の脳内を電流が駆け巡り、そして一つの意志が彼女を突き動かした。敵を殲滅する。悲劇をもたらす種子を根絶やす。クーデリアは可憐偽装を解除、ジェノサイド・シフトを発動させた。己が身を鎧う人類の希望とともに、彼女は魔王目掛けて飛んで行った。


 空間が歪み、爆発が巻き起こる。

 引き延ばされた空間に吹き飛ばされるものがある。


 古い神話の時代に予見された、最終戦争(アポカリプス)の時が始まろうとしていた。


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