第6話 二人の「あおい」
3日後―
例のカフェ。
夏休みなので、お客さんはボクたちだけ。
「あれから、あくまで白銀さん個人として、鷹宮探偵事務所に依頼してきた。
私を指名して」
「でも、なにをするの?」
「白銀さんは、会長と仲直りするきっかけが欲しいみたい。
そのきっかけになりそうなのが、稲村さんとの失恋しか思いつかない」
「だから?」
「まず、稲村さんを探してほしい。
そして、稲村さんの言い分を聞きたい。
具体的な対策は、それから考えたいんだって」
―少なくとも、稲村さんにも事情はあったと思うんです。
せめて、それが分かれば...―
白銀さんは、こう言っていた。
考えは変わらなかったようだ。
「それで、まず、人物関係を整理しようか。
探偵業の基本だし」
「人物関係?
白銀会長と元恋人の稲村さん。
この2人だけでしょ?」
「そっちじゃなく、白銀一族。
解決すべきは、白銀会長と孫娘のもめごとなんだから」
「ああ、そうだね」
アスカさんが、なぜかブリーフケースを手にした。
そして、正面から、ボクの隣の席に移動する。
「え?なに?」
「資料を見た方がわかるでしょ?」
と、タブレット端末を取り出す。
ああ、そうだった。
資料を見せる必要があると、隣に座る。
それが、アスカさんの探偵術。
「まずは、白銀会長。
今回の中心人物だね」
タブレットを覗き込む。
白銀蒼:75才/当時20才:白銀ホールディングス会長
「年齢が2つあるけど?」
「左が現在の年齢。
右が、白銀会長が稲村さんと破局した時の年齢。
以後の資料も、すべて同じ」
「わかった」
「次は、白銀会長のお父さん」
白銀大丸:故人/当時43才:白銀ホールディングス前会長
「日記によれば―
稲村さんにカネを握らせ、カタストロフィの原因を作った人だね」
父の様子を見れば、分かる。
カネで私を捨てたのだ。
あのクソを死ぬまで許さない―ゼッタイに。
日記には、こう書いてあった。
「次は、白銀会長の旦那さん。
つまり、相談してきた白銀さんのおじいちゃんだね。
だけど、今回の件には、関係なさそう」
「白銀さんと血がつながっているのに?」
「まず、もう亡くなっている。
そして、お見合い結婚で婿入り。
名前は、白銀司。
ちなみに、旧姓は香里。
「香里?
あの香里家?」
「うん」
「じゃあ、お互い名門だから、結婚したのか」
白銀(旧姓:香里)司:故人/生年不明:蒼の夫
「白銀会長は一人っ子で、兄弟姉妹はいない。
だから次は、白銀会長の息子。
つまり、相談してきた白銀さんのお父さんだね。
この人を、外すわけにいかない」
と、タブレットをいじった。
白銀青司:50才:白銀ホールディングス社長
「次は、奥さん―つまり、相談してきた白銀さんのお母さん。
現在は白銀緑さんだけど、旧姓は六角。
白薔薇女子大出身の六角さん。
マモルくん、意味がわかるよね?」
「六角家かぁ。
こっちも、名門なんだね」
「さすがに、お見合い結婚じゃないみたいだけど―」
白銀(旧姓:六角)緑:45才:青司の妻
「最後は、今回、依頼してきた白銀さん」
「ああ、六本木さんの友だちの友だちの白銀さん」
隣のアスカさんが、ちょっとだけ不機嫌になった気がする。
表情がよく見えなかったので、きっと気のせいだ。
白銀碧:20才:白薔薇女子大三年生
「あの白銀さんって碧っていう名前なんだ」
と言った瞬間、あることに気づいた。
「漢字は違うけど、会長も名前が【あおい】なんだね」
蒼と碧―漢字は違うが、同じ【あおい】。
ややこしい。
「で、次の資料。
↓(下向き矢印)は親子関係」
白銀大丸:故人/当時43才:白銀ホールディングス前会長
↓
白銀蒼:75才/当時20才:白銀ホールディングス会長
白銀(旧姓:香里)司:故人/生年不明:蒼の夫
↓
白銀青司:50才:白銀ホールディングス社長
白銀(旧姓:六角)緑:45才:青司の妻
↓
白銀碧:20才:白薔薇女子大三年生
「マモルくん。
子供の命名に、一族の絆を感じさせるよね。
蒼と司の息子が、青司。
その青司と緑の娘が、碧。
特に碧は、青緑色っていう意味。
しかも、祖母の白銀会長と名前の読み方は同じ。
会長から見れば、孫娘に同じ読みの名前を付けるくらい、思い入れがあった。
実際に、二人の【あおい】は祖母と孫として仲が良かった。
江本という、どこの馬の骨かわからない男が現れるまでは―」
「どこの馬の骨か分からないって...」
「でも、白銀会長の主観では、そうじゃない?」
たしかに、アスカさんの言う通りだ。
白銀蒼会長の血を継いでいるのは、息子の青司さんと孫の碧さんだけ。
いずれは孫の碧さんが、白銀ホールディングスのトップになる。
つまり、白銀グループを率いることになる。
二代続けて名門から配偶者を迎えて来たのに、急に両親が地方公務員の男が現れた。
白銀会長としては、私的なカタストロフィだけでなく、経営面からも江本くんは受け入れがたい。
まいったな。
調査に関わってるのがバレたら、白銀会長は激怒し、実家の会社は一瞬で潰れるだろう。
「マモルくんにも事情があるし、ここは妥協しよう」
「妥協?」
「マモルくんは、実家を守らないといけない事情がある。
逆に言えば、鷹宮探偵事務所の探偵助手という立場は、もうない。
だから、私が聞き込みに行くとき、一緒にいてくれるだけでいい」
「ほんとうにそれだけでいいの?」
「聞き込みの手はずなど、ほかのことは私がやるから」
クラスメイトとして、隣で話を聞いていただけ。
ボクは、こう解釈し
「じゃあ、やるよ」
「マモルくん、ありがとう!
感謝する」
と、満面の笑顔。
こうして、稲村浩一さんの言い分を聞くための調査が始まったが―
いきなりブチ切れられた。




