第2話 ボクの実家が潰される
「江本と申します」
「白銀と申します」
ボクたちが自己紹介を終えると、正面に並んで座る2人は、ボクたちに自己紹介をした。
正直言って、想定外だった。
外が見えるいつもの席。
つまり、いつものカフェ。
まさか、C大のカフェで会うとは、思わなかった。
だが、この謎は、すぐに解ける。
江本と名乗った青年が
「一度、こっちのキャンパスを見たかったんです」
どういう意味?
隣のアスカさんが
「江本さんは、法・法の3年生だよ」
法・法とは、法学部法律学科の略。
法学部は文学部とキャンパスが違う。
「白銀さんも3年生だから、みんな20才の同学年ってこと。
マモルくん、分かった?」
「だから、ボクが呼ばれたのか」
ここで白銀さんが、かしこまって
「私たちに協力していただき、ありがとうございます」
と、頭を下げた。
六本木さんの友だちの友だちに頭を下げられてしまい、少し困惑した。
もしかして、ボクも協力することになっている?
誤解していたら困る。
「ボクは、今日、話を聞きに来ただけですから」
「え?そうなんですか?
鷹宮探偵事務所の高名なお二人が協力してくれると、聞いていたのですが」
と、今度は白銀さんが少し困惑している。
「ボクは、もう鷹宮探偵事務所を辞めてるんです。
あと、全員、二十歳の大学生なので、さんじゃなくて、くん付けでいいですよ」
と、江本くんを見る。
「じゃあ、私も江本くんと呼んでください」
「分かりました。
ああ、すいません。
話が逸れちゃいました」
「マモルくん、とにかく話を聞いてみましょう」
白銀さんが、グラスを手にし、アイスコーヒーをちょっとだけ口にした。
少し緊張した表情で
「私と祖母は、もともと仲が良かったのですが―」
と、事情を話してくれた。
話を聞いているうちに、ブルブル震えが起こる。
みっともないので、震えは心だけにとどめ、体はブルブルさせなかったつもりだが、自信がない。
白銀さんの説明は、いつの間にか終わり、江本くんが話をしている。
「...父も母も、地元のO県で公務員をしていて...」
など、断片的に耳になにかが入っているが、内容が頭に入って来ない。
江本くんは、白銀さんよりテキパキ話す―
こんな抽象的な印象しか残らなかった。
そして、隣から声がする。
「マモルくん、分かった?
要約すると―
白銀さんのおばあちゃんが、二人の交際に大反対して困っている」
大いに困っているのは、こっちだ。
だって、その白銀さんのおばあちゃんって――
白銀さんに視線を合わせ
「もしかして、白銀さんのおばあちゃんって、白銀ホールディングス会長さん?」
白銀さんが、まさかという表情をした。
江本くんが、目を丸くしながら
「ご存じなかったんですか?」
ボクは、怒って隣を見た。
「そういう大切なこと、事前に教えてくれないと、困るじゃないか!」
「大切なのは、愛でしょ」
と、すました顔をしている。
あの白銀ホールディングスだぞ!
関連会社をいくつも持つ日本有数の大企業だ。
その白銀ホールディングスの会長を怒らせたら、うちの実家なんて1秒でペシャンコに潰される。
白銀さんが
「ごめんなさい。
話が通じてなかったようで」
と、申し訳なさそうにしている。
白銀さんも、もっと金持ちらしいファッションをしてほしい。
白銀だからなのか、白薔薇女子大生だからなのか、薄手の白いトップスを着ている。
これでは、単なる清楚な女子大生で、日本有数の金持ちだと分からない。
だが、金持ちだと分かるファッションをしろ、なんて言えない。
だから
「いや、明日翔という名前なのに、あさっての方を向いている探偵が悪いんです。
お二人は気にしないでください」
と、言った。
だが、渾身の大学生ギャグが通じなかったようで、白銀さんはキョトンとしている。
「あさっての方って、見当違いの意味なんだよ。
二階堂くんは、神馬明日翔さんの明日と明後日をかけたんだ」
江本くんは善意だろうが、ギャグを解説されるほど、惨めなことはない。
「マモルくんのオヤジギャグ未満のギャグは、置いておいて―
白銀さん、私たちにできることは、なにかありそう?」
私たち?
私じゃなく?
「ちょっと考えがあるので、少し時間を頂けるでしょうか?
必ず、連絡しますから」
「いいですよ」
――――
二人が帰ったのに、隣から席を移動しないアスカさんに抗議する。
「白銀ホールディングスの会長を敵に回したら、うちの実家、潰されちゃうよ!」
「天下の二階堂財閥が?」
「うちの会社は、地元限定で財閥って呼ばれているだけだよ。
半分、バカにされてるんだ。
白銀家はガチの財閥じゃん!」
「でもさ―
ここで、白銀さん―って、孫娘の白銀さんだけど―
彼女に恩を売るチャンスだよ。
天下の白銀財閥の孫娘だし」
ん?ちょっと待てよ。
「白銀会長って、何才?」
「たしか70代」
「もしかして・・・先が長くない?」
「ピンピンして、この先10年は生きそうな感じだって」
「じゃあ、孫娘に恩を売っても、その孫娘が白銀家で力を持つ前に、白銀会長にボクたちが潰されちゃうじゃん!」
「うーん。
マモルくんにしては、珍しく鋭い指摘だね」
と、スマホを取り出し、画面をチェックする。
「マモルくん、ごめん。
これから鷹宮探偵事務所に行かなきゃいけないんだ。
そうだ、一緒に行く?」
ボクはもう、鷹宮探偵事務所とは関係ない。
「断固、断ります!」
「そう、じゃあ、またね」
と、自分のグラスを持って去って行った。
日本トップクラスの名探偵・鷹宮さんは、この件を知ってるのだろうか?
探偵事務所の経営を考えると、白銀会長と敵対するのは得策とは思えない。
そんなことは、アスカさんも分かっているはず。
なのに、アスカさんが白銀さんたちに協力する理由は―
心当たりが一つある。
厄介だが、もし心当たりが当たってると―
協力を断りにくい。




