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第1話 ボクの夏休みが溶けていく

「女子大生探偵・神馬明日翔」シリーズ第2弾です。


前作を未読でもお楽しみいただけますが、もし神馬明日翔と二階堂衛のことが気になったら―

シリーズ第1弾も読んでみてください。

ガラス張りのカフェ。

鋭い日差しがガラスに反射し、歩いている若者たちを照らしている。

そのまぶしさと言ったら、人生をも反射しているようだ。


ここは、C大学にあるカフェ。

外を歩いている若者たちは、大学生であり、つまり―

キラキラしたキャンパスライフを謳歌(おうか)しているはず。


「ねぇ、マモルくん。

私って、優しいじゃない?」


「ときどきは、優しいね」


「相変わらず、四文字だけ余計」


相変わらず―とは、あの時から、相変わらずという意味。


―アスカさんってホント、不思議な人。 ときどき優しいんだよね―


―四文字だけ余計―


このやり取りをした時からの腐れ縁で、二人でこのカフェに来るようになってしまった。


「前期試験も終わったし、もう夏休みでしょ?

マモルくんは、何か予定あるの?」


「予定―

まぁ、あるよ、それなりに」


「つまり、予定は一つもない」


「ボクの話を聞いていた?」


「あのね―

予定があれば、具体的に言うでしょ。

超絶に簡単な推理」



神馬(じんば)明日翔(あすか)・二十歳(はたち)―

ボクと同じC大学文学部三年生でありながら、ボクと違い日本最大の探偵事務所・鷹宮(たかみや)探偵事務所に所属する探偵でもある。


だが、あの四文字のやりとりをした時点で、ボクと鷹宮探偵事務所の縁は切れたはずだ。

ここは、きちんと念を押しておかないといけない。


「探偵と言えば―

ボクの名刺、ちゃんと破棄してくれたよね。

探偵助手だったの、あのときだけなんだから」


「探偵業は、いったん置いておいて―

私って、いつも優しいから、人助けをしたくなっちゃうんだよね」


イヤな予感がした。

アスカさんに関わったら、夏休みを捨てることになる。

二十歳大学生の夏休み。

国宝と同じくらい貴重である。


「人助けって言うけど―

六本木さんをいつになったら、紹介してくれるの?」


「六本木さん?

同じクラスの?

紹介するなんて約束したっけ?」


「いつも優しい人は、約束してなくても、気を回して紹介してくれるもんだよ」


「やっぱり、マモルくんは相変わらずだね」


「どういう意味?」


「マモルくんの巨乳美人好きは、変わらない」


「それは、万有引力の法則と同じくらい不変の真理だからね」

と断定し、アスカさんの顔を見る。


アスカさんと二人きりなんて、キャンパスライフを謳歌しているように見えるだろう。

たしかに、アスカさんはクラスのアイドルであり、かわいいことは認める。

お金を浮かせるためと本人は言っていたが、ショートカットヘアが昭和のアイドル感を生み、クラスの男子のみならず女子にまで人気だ。

だけど―


視線を、顔から薄手のトップスに視線を落とす。

ピンク色なのも昭和のアイドル感を生み出し、クラスメイトに人気なのだが―

なぜか、夏休み前なのに秋のような寂しさを感じてしまった。


「ちょっと、マモルくん。

どこ見ているの?」


「過去を見ているんだ」


本人が自覚しているか分からないが、一番の問題は―

神馬明日翔という女性は、変人なのだ。

たとえば、以前、鷹宮探偵事務所の探偵助手として、アスカさんに引きずり回されたとき。

病院近くの道路で、彼女はこう言った。


―私は貧乳クビレなし女ですよ!―


誰に何をアピールしたかったのか、まったく分からない。

ボクは唖然とし、周りの人たちはアスカさんをジロジロ見ていた。


もしかして―

アスカさんは、自分の貧乳をアピールし、多くの人に奇異な目で見られると興奮する。

つまり―

変人じゃなくて変態!


「ちょっと、マモルくん?

精神がどこに飛んじゃったの?

戻って来てー。

で、人助けの件だけど」


まずい!

変態にボクの夏休みを潰されてはならない。

断ろうとした瞬間―


「六本木さんに関係するんだ」


なにも聞かずに断るのは、よくない。

ちょっと話を聞いてみよう。


「関係する?」


「六本木さんの友だちの友だちが、困ってる」


六本木さんの友だちの友だち?


「それって、六本木さんとは無関係じゃん」


「でも、友だちの友だちは、白薔薇(しろばら)女子大だよ。

お嬢さま大学で有名な」


話を聞いて損した。

お嬢さまにも興味はない。


「いや、夏休み、忙しいんだ」


ショートカットなのに髪をかき上げながら、顔をグイッと近づけてくる。


「じゃあ、六本木さんに真実を伝えておくから」


「真実って―

六本木さんに何を伝えるの?」


「二階堂衛(まもる)くんは、あなたの友だちの友だちを見捨てた悪い男です―って」


「何が真実だよ!?

誹謗中傷じゃないか!」


「解釈の違いだね」

と言いながら、顔を引っ込め、グラスを手に、アイスコーヒーを口にする。

アスカさんは変人・変態でおさまらず、脅迫してきた。


「協力するか、分からないけど…人助けってなに?」


「簡単に言えば―」


アスカさんの話を聞いて、呆れた。


「大学生カップルの恋愛じゃないか!

六本木さんの連絡先すら知らないボクが、なんで大学生カップルを助けなきゃいけないの!?」


「だって―

愛は、尊くて貴重だよ」


「ボクの夏休みだって貴重だよ!」


「とりあえず、一緒に二人に会って、話を聞いてよ」


「だから、なんでボクが?」


「向こうは大学生カップル。

こっちも大学生男女二人で聞いた方が、相談しやすいと思う」


たしかに理屈は通ってる。


「じゃ、じゃあ、話を聞くだけなら」


「ありがとう!

やっぱりマモルくんは、優しいんだね」


自分のグラスに、視線を落とす。

アイスティーはなくなり、氷も無残に溶けている。

この氷のように、ボクの夏休みも無残に溶けていく予感だけが残った。


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