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EP 6

新商品発表会ローンチ・パーティーへの乱入者。コンプライアンス遵守の『ロジカル・ざまぁ』が開幕します

 抜けるような青空が広がる、ポポロ村の広場。

 普段はのどかな農村風景が広がるこの場所は、今日だけは王都の高級サロンにも引けを取らない、華やかな『新商品発表会ローンチ・パーティー』の会場へと変貌を遂げていた。

「皆様、本日は遠路はるばるヴァルトブルク公爵家直轄領・ポポロ村まで足をお運びいただき、誠にありがとうございます」

 広場の中央に設けられた豪奢な特設ステージ。

 その上に立つ私は、コンサルタントとしての完璧な営業スマイルを浮かべ、集まった南部の貴族令嬢や富裕層の女性たちに向けて優雅に一礼した。

 私の肌は、昨晩のアレクセイ様による『限界突破の密室スキンケア(品質検査)』のおかげで、もはや発光しているのではないかというほどの極上のツヤとハリを放っている。最高の状態に仕上がった私自身が、何よりの歩く広告塔プロモーションだった。

「わあ……っ! 見て、ヒカリ様のあのお肌! 仮面舞踏会の時よりも、さらに美しさに磨きがかかっていらっしゃるわ!」

「あれが氷の魔王様を虜にしたという美貌……! 羨ましいですわ!」

 観客席から感嘆のため息が漏れる。

 私はステージの横に控えていたキャルルさんに合図を送った。

「それでは皆様。我がヴァルトブルク公爵家が自信を持ってお届けする、美容市場マーケットの常識を覆す革命的プロダクト……『星雫の美容液スタードロップ・セラム』のベールを、今ここに解き放ちます!」

 キャルルさんがマッハの速度で、展示台に被せられていたベルベットの布を引き抜いた。

 陽の光を浴びてキラキラと輝く、ガンツ親方特製の『魔法ガラスの小瓶』。その中に満たされた翠色の美容液が、神秘的な光を放っている。

「きゃああっ! なんて美しい瓶なの!」

「香りも素晴らしいわ……! 今までの鉛臭いおしろいとは大違い!」

「ヒカリ! お客様たちが、テスト用のテスター(試供品)の前に殺到しているのですよ!」

 コハクが、九本の尻尾を忙しく揺らしながら報告に来た。

「想定通りのトラクション(顧客の反応)です! コハク、キャルルさん、事前のマニュアル通りにサンプリングと予約受注コンバージョンを進めてください!」

「了解ッ! マッハでお会計(レジ打ち)回すよー!!」

 発表会は大盛況だった。

 美容液を手の甲に一滴落とした令嬢たちは、その圧倒的な浸透力と即効性に次々と悲鳴を上げ、我先にと予約注文の列に並んでいく。

 新規事業の初速スタートダッシュとしては、これ以上ないほどの完璧な大成功(KPI達成)である。

 しかし。

 ビジネスにおいて、成功の匂いというものは、常に『招かれざるハエ』を引き寄せるものだ。

「――おいおいおい! ギルドの許可も得ずに、こんな辺境の村で勝手な商売(違法行為)を始めるとは、いい度胸をしているじゃないか!」

 突如、会場の入り口に設置されていた美しいアーチが、乱暴に蹴り倒された。

「きゃあっ!?」

「な、なによ、あなたたちは!」

 悲鳴を上げて道を開ける貴族令嬢たちの間を縫って、ズカズカと下品な足音を立てて歩いてきたのは。

 脂ぎった顔に下劣な笑みを貼り付けた悪徳商人――南部商業ギルド副ギルドマスターの、ゴルドだった。

 彼の背後には、武装したギルドの私兵たちが数十人、柄の悪い笑みを浮かべて控えている。

「ゴルド殿。……本日はVIPとして招待状インビテーションをお送りしましたが、随分と野蛮なエントリー(入場)ですね」

 私はステージの上から、冷ややかに彼を見下ろした。

 ゴルドは私の言葉を鼻で笑うと、展示されていた『星雫の美容液』の小瓶を乱暴に一つ手に取った。

「ふんっ。招待状だと? 笑わせるな。俺はギルドの代表として、お前たちの『違法操業』を取り締まりに来たんだ!」

 ゴルドが声を張り上げると、会場は水を打ったように静まり返った。

「この南部の地において、ギルドを通さずに商品の製造・販売を行うことは重大な規律違反だ! しかも、得体の知れない女が作ったこんな怪しげな液体、貴族の皆様の肌に触れさせるなど言語道断! 今すぐ全ての製品を没収し、この場を封鎖する!」

「なっ……! てめぇ、せっかくのヒカリちゃんの晴れ舞台を……!」

 バチィィィッ!と、キャルルさんの全身から紫電の魔力が立ち昇った。

 彼女が腰の双剣に手をかけ、マッハでゴルドの首を刎ねようと飛び出しかけた、その瞬間。

「キャルルさん。ステイ(待て)です」

「ヒカリちゃん!?」

「暴力による問題解決は、我が社のコンプライアンス(法令遵守)に反します。それに、彼らの幼稚な妨害工作(嫌がらせ)程度で、私の事業計画マスタープランが揺らぐとでも?」

 私はキャルルさんを片手で制止すると、ヒールの音をコツン、コツンと響かせながら、ステージからゆっくりと降りていった。

 ゴルドの目の前まで歩み寄り、彼と対峙する。

 身長差はあるものの、私は一切怯むことなく、氷点下のコンサルタントの笑みを浮かべた。

「ゴルド殿。あなたは以前の面談にて、我が事業の利益の『7割』を要求し、さらに私への個人的な接待を強要しましたね。私がそれを拒否したため、ガラス工房への不当な圧力(サプライチェーンの分断)をかけた」

「それがどうした!」

 ゴルドは勝ち誇ったように腹を突き出した。

「ギルドを通さなければガラス瓶は手に入らない。そのはずだったが……お前たちは密造窯を作ってまで、俺の命令に逆らった! これは完全な反逆だ! 公爵の愛人風情が、ビジネスの世界を舐めるなよ。今ならまだ遅くない。俺の足元にひざまずいて許しを請い、利益の7割を差し出せば、寛大な心で――」

「ビジネスの世界を舐めているのは、貴方の方ですよ。三流ポンコツ商人」

 私の冷たい声が、広場に響き渡った。

 ゴルドの言葉を遮り、私は背後に控えていたコハクに向かって指を鳴らした。

「コハク。例の『監査資料』を」

「きゅいっ! お待ちかねなのですよ!」

 コハクが空間魔法を発動させると、虚空からドサッ!!と、分厚いファイルの束が私の手元のテーブルに落下した。

 それは、昨夜の徹夜作業で私が完璧にまとめ上げた、ゴルドの『裏帳簿』の完全なるコピーと、その分析データ(監査報告書)である。

「な、なんだそれは……?」

 ゴルドがいぶかしげに眉をひそめる。

「あなたのビジネスロジックを、少しだけ因数分解レビューして差し上げたのですよ。……皆様、どうかお聞きください」

 私は会場の令嬢や大商人たちに向けて、はっきりと通る声で宣言した。

「彼がなぜ、新規事業である私の化粧水から『利益の7割』という異常な搾取マージンを急いで要求したのか。……その答えは極めてシンプルです。彼自身が、現在進行形で『莫大な横領の穴』を抱えており、目前に迫った本部の監査を乗り切るための、目先の現金キャッシュを喉から手が出るほど欲していたからです!」

「なっ……!? き、貴様、何をデタラメを……ッ!!」

 ゴルドの顔色が一瞬にして土気色に変わった。

 私は分厚いファイルの束を、バァンッ!!と勢いよく机に叩きつけた。

「架空の取引先『ダミー商会A』に対する、過去三年間の架空発注書! ギルドのプール金からご自身の愛人に買い与えた、王都の高級別荘の不動産登記簿! そして、これが一番の致命傷クリティカルですね。南部の有力貴族へばら撒いていた、裏金リベートの振込明細一覧!」

「あ、あ、あああ……っ!?」

「全ての裏取り(ファクトチェック)は完了しています。この完璧な証拠エビデンスの前に、何か言い訳(反証)はありますか、副ギルドマスター殿?」

 私の突きつけた事実ロジックの刃に、ゴルドは完全に言葉を失い、その場にへたり込んだ。

 周囲の商人たちからは「な、なんて奴だ……」「ギルドの金を横領していたのか!?」と、彼を非難する怒声が上がり始める。

 彼がどれだけ武力をチラつかせようとも、ビジネスの世界において『信用の失墜(不正の暴露)』は、完全なる社会的なゲームオーバーを意味する。

「貴方は自らの弱み(クリティカルな証拠)を放置したまま、私に喧嘩を売った。それが最大の経営判断ミス(敗因)です。……ゴルド殿。貴方は本日をもって、市場から完全に退場リタイアしていただきます」

 私が冷徹に死刑宣告を下した、その瞬間。

「ええい、黙れ黙れ黙れぇぇッ!!」

 追い詰められ、完全に理性を失ったゴルドが、腰の剣を引き抜きながら狂ったように叫んだ。

「お前たち! その女を殺せ!! 証拠の書類ごと、何もかも燃やし尽くしてしまえ!!」

 彼の絶叫と共に、背後の私兵たちが一斉に武器を構え、私に向かって殺到しようとした。

 キャルルさんが私を庇うように前に出る。

 だが、私兵たちが一歩を踏み出そうとした、まさにその時だった。

 ――ピキィィィィィィィィィンッ!!!!

 会場の空気が、文字通り『一瞬で凍結』した。

 ゴルドの私兵たちの足元から、絶対零度の冷気が爆発的な勢いで立ち昇り、彼らの下半身を分厚い氷の塊へと変えてしまったのだ。

「ひぃぃっ!?」

「な、なんだこれは!? 足が、足が動か……ッ!」

 パニックに陥る私兵たちと、腰を抜かして震えるゴルド。

 その絶望のドームの中心へと、まるで神々の王のごとき圧倒的な威圧感を纏った、漆黒の外套の男が静かに歩み出てきた。

「……私の有能な共同経営者ヒカリが、完璧なプレゼンテーション(監査報告)を行っている最中だ。……静かに聞くという、最低限のマナーも持ち合わせていないのか。三流の豚どもが」

 空気を震わせるような、低く、冷徹で、そして底知れぬ怒りを孕んだ絶対者の声。

 極秘に帰還し、特等席で私の晴れ舞台を見守っていた過保護なCEO――アレクセイ・フォン・ヴァルトブルク公爵閣下が、ついにその姿を現したのだった。

「しゃ、社長……」

 私が振り返ると、アレクセイ様は私兵たちに向けていた氷の視線を一瞬で甘く溶かし、私に向かって『よくやった』とでも言うように、優しく微笑みかけてくれた。

 ロジック(証拠)による退路の遮断と、絶対的な権力(武力)による物理的な制圧。

 私とアレクセイ様による、完璧な『トップダウン式・ざまぁ』の総仕上げが、いよいよ始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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