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EP 3

悪徳商人によるサプライチェーン(供給網)の分断と、利益7割要求という下劣な独占禁止法違反

 新商品『魔法化粧水』の完璧なプロトタイプ(試作品)が完成した翌日。

 私はポポロ村のオフィスで、量産化に向けた製造ラインの構築と、販売戦略マーケティングの策定に追われていた。

「よし、ポポロ村の女性陣にテストモニターをお願いした結果、肌荒れなどのクレームはゼロ。むしろ『肌が若返った!』と全員から熱烈なリピート要望(追加発注)が来ています。品質プロダクトの安全性と市場のニーズ(需要)は完全に証明されました」

 私は手元の『モニター調査報告書』に完了のチェックマークを入れ、満足げに頷いた。

「あとは、製品の品質を保つための『魔法ガラスの小瓶』さえ納品されれば、すぐにでも王都の富裕層向けに先行販売ローンチを開始できるのですが……」

 私が時計(魔導具)に目をやった、まさにその時だった。

「ヒカリちゃぁぁん!! 大変だよ!!」

 オフィスの扉を勢いよく開け放ち、特任隊長のキャルルさんが血相を変えて飛び込んできた。

「どうしました、キャルルさん? そんなにマッハで駆け込んできて。納期トラブルですか?」

「そ、それが……! 南部商業ギルドを通じて発注してた『魔法ガラスの小瓶』の製造元から、いきなり『取引停止』の連絡が来たんだよ! 発注済みの初期ロット1000個、全部キャンセルだって!」

「……なんですって?」

 私は手に持っていた羽ペンをピタリと止めた。

「理由は? 我がヴァルトブルク公爵家からの正規の発注(正式なPO)ですよ。原材料の不足ですか? それとも工場のライン故障?」

「違うの! 製造元の工房の親方は『俺たちは作りたいんだが、商業ギルドの幹部から強烈な圧力がかかって、公爵家ヒカリちゃんには絶対に卸すなと脅されてる』って、泣きながら言ってたよ!」

 キャルルさんが怒りでウサギ耳を逆立てながら報告する。

(なるほど……。単なる納期遅延ディレイではなく、意図的な『サプライチェーン(供給網)の分断』ですか)

 私は瞬時に状況ステータスを理解し、冷静に思考を巡らせた。

 ビジネスの世界において、新規参入者ベンチャーの足を引っ張る最も古典的かつ悪質な手法。それが、既存の権力者による『流通経路プラットフォームの独占と締め出し』である。

「ヒカリ、どうするのですよ!? このままじゃ、せっかく作ったお化粧水が売り物にならないのですよ!」

 コハクが心配そうに私の顔を覗き込む。

「ふふっ。ご心配なく。……ボトルネック(障害)が発生したなら、その原因を特定し、物理的……いえ、論理的に排除トラブルシューティングすればいいだけです」

 私が不敵なコンサルタントの笑みを浮かべた直後。

 オフィスの外から、ひどく傲慢で下品な声が響いてきた。

「おい! 公爵の愛人とやらはおるか! 南部商業ギルド副ギルドマスター、ゴルド様からの呼び出しだ!」

 ***

 やって来たのは、ギルドの使い走りの男だった。

 私はキャルルさんを護衛として伴い、ポポロ村から馬車で数十分の距離にある、南部商業ギルドの立派な支部へと足を運んだ。

「……趣味の悪い内装インテリアですね。成金趣味の極みです」

「ヒカリちゃん、声に出てるよ」

 案内された副ギルドマスターの執務室は、無駄にギラギラとした金装飾と、趣味の悪い剥製の数々で飾られていた。

 無駄な設備投資サンクコストの典型例である。

「おお、来たか。平民上がりの小娘」

 部屋の奥の巨大な革張りの椅子にふんぞり返っていたのは、脂ぎった顔に高価な宝石をじゃらじゃらとぶら下げた、小太りの男だった。

 南部商業ギルド副ギルドマスター、ゴルド。彼こそが、今回のサプライチェーン分断の首謀者ボトルネックである。

「お初にお目にかかります。ヴァルトブルク公爵家、南部開拓事業の特別顧問を務めております、ヒカリと申します」

 私は完璧なカーテシー(営業用の一礼)を披露したが、ゴルドは鼻で笑うだけだった。

「ふん。公爵閣下がお飾りの女に『特別顧問』などという役職を与えて、ままごと(商売)をさせているとは聞いていたが。まさか、ギルドの許可も得ずに勝手な真似を始めるとはな」

「勝手な真似、とは? 当方は正当な手続き(コンプライアンス)に則り、ガラス工房に発注をかけたはずですが」

「うるさい! この南部の物流と商流は、全てこのギルドが仕切っているんだ!」

 ゴルドが机をドンッと叩いた。

「女の浅知恵で作った、怪しげな『化粧水』などとというガラクタ。そんなものが王都で売れるわけがないだろう! しかも、俺を通さずに直接工房と取引しようなど、ギルドの規律を乱す大罪だ!」

「……つまり、副ギルドマスター殿は、当方の製品の価値(将来性)をゼロと評価した上で、ガラス工房への不当な圧力(優越的地位の濫用)をかけた、ということでよろしいですか?」

 私が淡々と事実確認ファクトチェックを行うと、ゴルドはニヤァッと下劣な笑みを浮かべた。

「まあ、そう怒るな。お前のような美人が困っているのを見るのは、俺も忍びない」

 ゴルドは立ち上がり、じっとりと舐め回すような視線で私の全身を見た。

「公爵閣下も、どうせ数ヶ月もすればお前のような平民女には飽きるだろう。……そこでだ。俺が特別に、お前のその『化粧水』とやらをギルドの流通網に乗せてやってもいい」

「ほう。それは素晴らしいご提案オファーですね。条件マージンをお伺いしましょうか」

「簡単だ。お前の事業の利益の『7割』を、ギルド……いや、俺個人の口座に上納しろ。そして、俺の愛人となって、夜の接待(プライベートでの奉仕)をしろ。そうすれば、ガラス瓶の手配から王都への輸送まで、全て俺が手引きしてやる」

 ……ピキッ。

 私の横で、キャルルさんのこめかみに青筋が浮かび上がる音がした。

「てめぇ……ウチのヒカリちゃんに向かって、なんて口を……ッ! その腐った首、マッハでねじ切ってやる!」

「キャルルさん、ストップ!」

 私は今にも抜剣しそうなキャルルさんの腕をガシッと掴み、どうにか静止させた。

(ここで暴力(物理攻撃)に訴えれば、こちらが『コンプライアンス違反』に問われます! 相手の土俵(無法地帯)に乗ってはいけません!)

「なんだ、その野蛮な獣人は! 俺に逆らえば、公爵家といえども南部の物流網から完全に締め出されることになるんだぞ! お前のような女は、男の庇護下で黙って媚びを売っていればいいんだ!」

 ゴルドが顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 私は深呼吸を一つして、キャルルさんを背後に下がらせ、再びゴルドへと向き直った。

 仮面の下……いや、素顔に浮かべたのは、氷点下まで冷え切った、最高に冷酷なコンサルタントの笑みだ。

「……利益の7割を寄越せ、ですか。なるほど。それは『仲介手数料ブローカー・フィー』というよりも、完全な『搾取ピンハネ』ですね」

「な、なんだと?」

「ビジネスの基本ロジックを教えて差し上げましょう、ゴルド殿」

 私は一歩、彼の方へ歩み寄った。

「流通という付加価値バリューを提供するだけで7割のマージンを取るなど、到底容認できない法外なプライシング(価格設定)です。さらに言えば、貴方のオファーには『私への個人的な接待の強要セクシャルハラスメント』という、企業倫理コンプライアンスの根幹を揺るがす重大な違反が含まれている」

「ご、ごちゃごちゃと訳の分からん言葉を並べ立ておって! 要するに、俺の提案を断るというのか!?」

「ええ。断言します。あなたの提案オファーは、我が社にとって一切のメリット(シナジー)を生み出しません。よって、交渉は完全決裂リジェクトです」

 私がキッパリと言い放つと、ゴルドの顔が屈辱で紫色に染まった。

「……後悔するぞ、小娘。ギルドを敵に回して、南部の地で商売ができると思うな! お前のその『化粧水』は、永遠に世に出ることはない! ガラス瓶一つ、手に入ると思うなよ!!」

「フフッ。それには及びませんよ」

 私は優雅に背を向け、執務室の扉に手をかけた。

「既存の流通網プラットフォームが腐敗し、使い物にならないのであれば……私自身の手で、新たなエコシステム(サプライチェーン)をゼロから構築するまでのことです。せいぜい、その無駄に豪華な椅子に座って、自らの市場価値が暴落していくのを眺めているといいでしょう」

「負け惜しみを! せいぜい足掻いてみるんだな!」

 ゴルドの下劣な嘲笑を背に受けながら、私はキャルルさんと共にギルドの支部を後にした。

「……ヒカリちゃん、ごめん。アタシがもっと強ければ、あんな豚野郎、一瞬でぶっ飛ばせたのに……。ガラス瓶、どうするの?」

 帰りの馬車の中で、キャルルさんが耳をしょんぼりと垂らして謝ってくる。

「謝る必要はありませんよ、キャルルさん。暴力は一時的な解決にしかなりません。悪徳企業ブラックには、徹底的な経済的制裁(合法的なざまぁ)を下すのが一番堪えるのです」

 私は腕を組み、脳内で次なる戦略マスタープランを構築し始めた。

「既存の工場が使えないなら、自前で設備(魔導窯)を作ればいい。材料がないなら、独自ルートで仕入れればいい。……ふふふ。ゴルドの横領と不正経理の証拠を完全に裏取りし、彼を社会的に抹殺(破産)させるための準備を始めましょう」

「お、おおっ! ヒカリちゃんが、社長(氷の魔王)みたいな悪い顔になってる!」

 ヒカリの浅知恵と侮った愚かな悪徳商人。

 過保護CEOが不在の間に、私と最強の仲間たちによる、完膚なきまでの『ロジカル・ざまぁ(内部告発プロジェクト)』が、静かに、しかし確実に動き出そうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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