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EP 7

エナジードリンクの過剰摂取は、残業中の特任隊長をマッハ2の狂戦士バーサーカーへと昇華させます

「あははははははッ!! 最高最高最高! なんだこれ、脳味噌のシワ一つ一つにまで魔力が隅々まで染み渡るぅぅぅッ!!」

 南部の荒野に、狂気を孕んだギャルの高笑いが木霊する。

 私の痛恨の発注ミス(ミスクリック)によって召喚された『超・覚醒エナジードリンク(限界労働者用)』を一気飲みしたキャルルの姿は、もはや絶望的な次元へと変貌を遂げていた。

 彼女の全身を覆っていた紫電の雷光は、毒々しい蛍光グリーンと混ざり合い、バチバチと空間そのものを焦がしている。ウサギ耳は限界までピンと反り返り、瞳孔は見開かれたまま、爛々と危険な光を放っていた。

「ヒカリちゃん! この『栄養ドリンク』ヤバいね! 残業代(差し入れ)もらったからには、アタシ、徹夜でこのブラック社長の『肩こり(首)』を粉砕してあげるからねぇぇぇっ!!」

 ドゴォォォォォォンッ!!!

 キャルルが一歩踏み込んだ瞬間、彼女のいた場所の地面がすり鉢状に吹き飛んだ。

 マッハ1だった彼女の速度は、エナジードリンクの暴力的なカフェインとアルギニンによって限界を突破し、ついにマッハ2(音速の二倍)の領域へと到達したのだ。

「消え……っ!?」

 アレクセイ様が目を見開いた。

 もはや肉眼で捉えることすら不可能な神速。

 空気の壁をぶち破る衝撃波ソニックブームだけが、一拍遅れて大気を震わせる。

「月影流・雷神乱舞レイヴ・パーティーぇぇぇッ!!」

 四方八方、上空、そして死角。

 あらゆる方向から、残像すら置き去りにしたキャルルの『安全靴の踵』が、アレクセイ様を強襲した。

「……ッ! 『絶氷結界アブソリュート・シールド』!!」

 ガガンッ! ゴガンッ!! バキィィィィンッ!!!

 アレクセイ様が展開した、王国最強の硬度を誇る氷の全方位ドーム。そこに、ミサイルのような連撃が秒間数百発のペースで叩き込まれる。

 氷の盾に凄まじい亀裂が走り、砕けた氷の破片が散弾銃のように周囲へ撒き散らされた。

「きゃあああっ!?」

「きゅぃぃぃっ! ヒカリ、伏せるのですよ!!」

 氷の破片が、私の建てたばかりの『プレハブ事務所サテライトオフィス』の壁に突き刺さり、窓ガラスを次々と粉砕していく。

「ああっ! 私の事務所が! まだ減価償却どころか、開設初日なんですけどぉぉぉッ!?」

 私は頭を抱え、荒野の地面に這いつくばりながら悲鳴を上げた。

 コンサルタントとして、これほどの巨額の初期投資が、たった数時間で物理的に損壊していく様を見るのは、文字通り身を裂かれるような苦痛(コストロスの激痛)である。

 しかし、現場の惨状はそれだけでは留まらなかった。

 一つの空間(サテライトオフィス周辺)で、全員の思惑が完全にすれ違ったまま、カオスは加速していく。

「お前らぁぁぁ! ぼーっと突っ立ってないで、アタシの『全回復フルムーン・ヒール』のバフがかかってるうちに、あのパワハラ社長にストライキ(物理)を仕掛けるわよぉぉぉっ!!」

 超高速で飛び回りながら、キャルルが騎士たちに向かって扇動の声を上げる。

「えっ!? お、俺たちも閣下(社長)に刃を向けるのか!?」

「バカ言え! あんな超次元の戦いに巻き込まれたら、全回復する前に粉微塵になるぞ!」

「だが、あのウサギ娘の言う通り、俺たちの身体は今、信じられないほど軽く……いや、もしかして俺たちでも閣下に一矢報いることが……!?」

 あろうことか、キャルルのカリスマ(と満月の狂気)にあてられた一部の騎士たちが、混乱のあまり謎の全能感に包まれ、剣を抜きそうになっているではないか。

「騎士の皆さん、目を覚ましてください! それはただの躁状態です! 社長に逆らえば懲戒解雇(物理的な死)ですよ!」

 私が這いつくばったまま必死にツッコミを入れるが、轟音にかき消されて届かない。

「……私の部下まで誑かすか、害獣め」

 一方、氷の結界の中で連撃を耐え凌いでいたアレクセイ様の青い瞳が、ついに絶対零度の底知れぬ怒りに染まった。

(……あのウサギの女。ヒカリの前で私をコケにしただけでなく、私の所有物(ヒカリが作った事務所)まで破壊した。これ以上、あの汚い安全靴でヒカリの視界を汚させるわけにはいかない……!)

 完全に『ヤンデレ過保護モード』のスイッチが奥深くまで入ってしまったアレクセイ様が、右手の魔剣を天高く掲げた。

「これ以上の慈悲は不要だな。……周囲の被害など知ったことか。ここら一帯の空間ごと、絶対零度で時を止めてやる」

「しゃ、社長!? ダメです、広範囲殲滅魔法なんて使ったら、プレハブどころか隣の『極上スーパー銭湯』まで凍結して砕け散ってしまいます! ウチの資産価値がゼロになりますよ!!」

 私の必死の制止も、今の『ヒカリ防衛(独占)システム』が暴走している氷の魔王の耳には届かない。

 彼の頭上には、半径数百メートルの全てを氷河期に叩き落とす、極大魔法『絶対零度・氷葬陣』の巨大な魔法陣が、青白い光を放ちながら展開され始めていた。

「きゅぅぅ……。ヒカリ、もう手遅れなのですよ。ここはボクの『九尾の業火』で、あの氷の男もろとも、暴走ウサギを焼き尽くして更地にするのが一番手っ取り早い解決策なのですよ」

「コハクまで極論(焦土作戦)を提案しないでください! それ一番ダメな事業清算(倒産)のやり方ですから!!」

 上空では、マッハ2で飛び回っていたキャルルが、突如として動きを止めた。

 彼女は、煌々と輝く『満月』を背にして、遥か上空でピタリと静止した。

「……あはっ。ブラック社長、ついに本気出すんだ?」

 キャルルの声のトーンが、一段低く、そして不気味なほどクリアに響いた。

 彼女の特注安全靴に仕込まれた『雷竜石』が、限界を超えて明滅を始める。

 周囲の空気がビリビリと震え、大気中の魔力が、彼女の足元に恐ろしい密度で収束していく。

「いいよぉ……! だったらアタシも、とびっきりの退職届(辞表)を、その冷たい顔面に叩き込んであげる!!」

「……来い。塵一つ残さず、氷のオブジェにしてやる」

 上空の狂戦士ギャルと、地上の氷の魔王(ヤンデレCEO)。

 両者の放つ桁違いの魔力がぶつかり合い、南部の荒野に竜巻のような嵐が巻き起こる。

「月兎族・王家秘伝――」

 キャルルが、右足を高く振り上げた。

 足元に集束した紫電のエネルギーが、満月の光を吸収して極太のプラズマと化す。

(あ、あああっ……!! 完全に『必殺技』の溜めモーションに入りました! あれと社長の広範囲魔法が激突したら、サテライトオフィスはおろか、ポポロ村の境界線までクレーターになってしまいます!)

 私は絶望的な状況下で、コンサルタントとしての脳細胞を光の速さで回転させた。

 キャルルは今、満月の影響とエナジードリンクによって、魔力と体力を限界を超えて強制駆動オーバークロックさせている状態だ。

 あの超高カロリーの消費、そして異常なまでのハイテンションを、強制的にシャットダウンさせるにはどうすればいい?

 鎮静剤はダメだ。今の彼女の代謝速度なら、一瞬で無効化される。

 必要なのは、逆のアプローチ。

 暴走する脳の許容量を、一瞬でオーバーフローさせるほどの『強烈な快楽』と『急激な血糖値スパイク』。

 前世の限界OLたちが、徹夜明けに無意識に求めてしまう『悪魔の報酬(ご褒美)』――!!

「……っ!! これだ!!」

 私は左手首の魔導時計を乱暴にタップし、【善行通販システム】の検索窓に、最後の希望となるキーワードを叩き込んだ。

「社長! 結界を解いてください! 私が彼女の攻撃を受け止めます!!」

「……正気か、ヒカリ!? 君がアレを受ければ――ッ」

「いいから!! 私を信じてください!!」

 私は立ち上がり、上空で今まさに蹴りを放とうとしているキャルルを真っ直ぐに見据えた。

「行くよぉぉぉッ!! 『超電光流星脚ルナティック・メテオ・ストライク』ぅぅぅぅッ!!!」

 ドバァァァァァァンッ!!!

 満月を背にしたキャルルが、文字通り『紫電の流星』となって、私とアレクセイ様に向かって一直線に急降下してきた。

「ヒカリィィィッ!!」

 アレクセイ様が悲痛な叫びを上げ、私を庇おうと手を伸ばす。

 迫り来る死(マッハ2の安全靴)の恐怖を前にしても、私は一歩も退かなかった。

 ただ、システム画面の『購入確定エンター』ボタンを、力強く押し込んだ。

【善行ポイントを消費します。……『ルナキン風・極甘ストロベリーパフェ(特大メガ盛り)』を召喚しました】

 夜空から降ってくる狂戦士の流星を止めるための、最後の切り札。

 極上の甘味による『平和条約の締結』が、今、南部の荒野で執り行われようとしていた。

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