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EP 13

魔法の「肥料」と「自動灌漑システム」で荒野を穀倉地帯へ! 〜公爵様と視察に出たら、なぜか夫婦旅行の雰囲気になりました〜

 社員食堂の設立により、ヴァルトブルク公爵領の行政棟は、世界一幸福な職場と化した。

 しかし、行政棟の食事が改善されると、次に私の目が向いたのは「領地全体」の食料事情である。

「……アレクセイ様。行政棟の食堂で使う食材の調達先を確認したのですが、この領地の農業生産率、あまりにも低すぎませんか?」

 私は執務室で、最新の統計データ(私がシステムで作成したグラフ)をアレクセイ様に示した。

 寒冷地ゆえの不作という言い訳はあるものの、現在の農地利用率は二十パーセントにも満たない。このままでは、領民の冬の食料確保すら綱渡り状態だ。

「ああ。北部の厳しい自然条件と、魔獣の襲撃による労働力不足が原因だ。これでも先代よりはマシなのだが……」

「農地を広げるには、まず『土壌の改良』と『水利の確保』が必要です。私が、この不毛の荒野を、一年で豊かな穀倉地帯に変えてみせます!」

 私の言葉に、アレクセイ様は深く頷いた。

「わかった。君がそう言うなら、必要な予算も兵士の護衛も、すべて好きにするがいい。……だが、農作業という過酷な現場まで、君一人で行かせるつもりはない。私も同行する」

 ――ということで、私たちは領地西部に広がる、痩せた大地が続く農村地帯へと向かうことになった。

 ***

 翌朝。

 私たちは馬車ではなく、アレクセイ様が騎乗する漆黒の魔獣(愛馬)に、彼と二人乗りで向かうことになった。

 ……なぜ馬車ではないのか? アレクセイ様曰く、「悪路を急ぐにはこれが最も速い」とのことだが、私の背中を抱える彼の腕が、ただの移動手段以上の熱を帯びている気がしてならない。

「ヒカリ、しっかりと捕まっていろ。……振り落とされたら、私の心臓が持たない」

「は、はい……!」

 彼の胸に背中を預け、猛スピードで草原を駆け抜ける。

 冷たい風が頬をかすめるけれど、彼に抱きしめられているせいで、体温はむしろ上昇するばかりだ。領地の復興視察というより、完全に『仲睦まじい夫婦の避暑地旅行』の雰囲気である。

 村に到着すると、村人たちは領主様の突然の訪問に目を丸くした。

「……これが、お前たちが必死に耕している農地か」

 アレクセイ様が厳しい目で大地を見つめる。地面はカチカチに硬く、肥料もろくに入っていないため、作物はどれも貧弱だ。

「よし、ここからが私の仕事です!」

 私は皆を下がらせ、広大な農地の中心で【善行通販システム】を起動した。

 ポイントは依然として百万以上ある。この投資は、領地全体の未来を左右する。

【魔法の地力回復肥料・1トンパック×50:200,000P】

【魔導・自動灌漑システム(地中の水分を自動調整する魔法具)一式:300,000P】

【耐寒性・超高栄養価の冬小麦の種子・100kg:50,000P】

 合計55万ポイントの投資。

 瞬間、天からまばゆい光が降り注ぎ、農地にパラパラと真っ白な粒子が降り積もった。さらに、地面のあちこちから青い魔法陣が浮かび上がり、地中深くから豊かな地下水が湧き出してくる。

「な、なんだこれは……っ! 土が……土が黒々と蘇っていく!」

 村の長老が、驚きのあまり地面に手を突っ込んで声を上げた。

「これが新しい肥料です。地中の微生物を活性化させ、植物の成長を何倍にも早めます。そしてこの地下に埋め込んだ道具(灌漑システム)が、常に最適な水分を補給します」

 私が説明する間にも、地面からは芽吹いたばかりの小麦が、まるで早送りを見ているかのようにぐんぐんと背を伸ばしていく。

 わずか一時間で、荒れ果てていた大地が、黄金色に輝く豊かな小麦畑へと姿を変えていた。

「「「お、おおおおおおおおっ!!」」」

 村人たちが歓喜の声を上げる。

「これなら、今年の冬を越すどころか、王都に輸出できるほどの収穫が見込めるぞ!」

 アレクセイ様は、黄金色に波打つ小麦畑を見つめ、驚きよりも深い尊敬の眼差しで私を振り返った。

「ヒカリ……君は一体、どこまで私を驚かせれば気が済むんだ。土地の歴史を塗り替えるような魔法を、こんなに簡単に……」

「えへへ、事務員としてのスキルを応用しただけですよ。土地の生産性を最大化するのも、業務改革の一環ですから!」

 私は胸を張った。……農業改革を『業務改革』と呼ぶあたり、私の社畜根性もいよいよ末期かもしれない。

 ***

 帰りの道中。

 黄金色の夕日を背に、私たちは再び馬の背に揺られていた。

「ヒカリ。君のおかげで、この領地は救われた。農民たちも、君に心から感謝している。……私個人としても、言葉では言い表せないほど君に感謝しているよ」

 アレクセイ様が足を止め、広い草原の中で私を振り返った。

 その顔は、いつもの厳しい領主の表情ではなく、一人の男としてのひたむきな情熱に満ちている。

「君は、我が領地の『筆頭政務補佐官』だ。だが……もし、君がその職を辞して、私の『隣』に一生留まってくれると言ったら……私は、君を絶対に手放さない」

 心臓がドクンと大きく跳ねた。

 これは、プロポーズ? それとも、最高の待遇を提示した上での引き抜き工作?

 私の鈍感な社畜センサーは、またしても「最高の福利厚生(生涯保証)」という解釈でパニックを回避しようとしていた。

「あ、あの……! 私、今の仕事が大好きですから! 一生、いえ、引退するその時まで、アレクセイ様の右腕として働かせてください!」

 私が精一杯の敬礼(ビジネス的な意味での忠誠)を返すと、アレクセイ様はふっと声を上げて笑った。

「そうか。……一生、か。その言葉、一生忘れないからな」

 彼の手が私の頬に触れる。その手はとても温かく、そして力強かった。

 帰路の道中、彼がずっと私の腰を支えていてくれたことに、私が気づくのはまだもう少し先のことになる。

 農業改革の成功、そして公爵様との距離感の急接近。

 私の『ホワイトな執務生活』は、領地の豊かさと共に、いよいよ甘く、そして誰にも邪魔できない場所へと進んでいくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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