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TS令嬢、悪役ムーブで人生を謳歌したい  作者: 真嶋 青
第二章

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27. 自然体

「さて、ちょび髭。お前の所属は祀ろわぬ教会(アンチ・テーゼ)で合ってるか?」


 俺の言葉を受けてマリオの目が僅かに揺れた。


「お嬢さん、この裏社会でその組織の名は口にするべきではない」

「裏社会でこそ幅を利かせてる組織だろ? っていうか、表じゃそれこそ知ってる奴いねぇよ」

「だからこそですよ。アナタのような表の人間が不用意に関わりを持つべきものじゃない」

「そういうことなら心配無用だ。俺はこのオークションをぶち壊して、祀ろわぬ教会の構成員をポートマンに呼び出させる目的でここへ来た」


 そもそもポートマンが祀ろわぬ教会と関わっているのかも俺は把握していなかったが、ダールトン曰く、この王都の裏で商売をする上で祀ろわぬ教会と接点を持たないことは不可能という話だった。

 祀ろわぬ教会の現役メンバーであり、裏市に何度も出入りしているダールトンでさえも、ポートマンが同じ組織の人間かどうかはわからない。

 それでも、何某かの関係は間違いなくある。


 故に、俺にはポートマンがどこまで祀ろわぬ教会に首を突っ込んでいるのかを知る必要があった。


 ポートマンを俺の仲間に引き入れるか、排除するか。

 その行く末を決めるために。


「まあアレだ。とりあえず掛かってこいよマリオ。とりあえず、自己紹介を兼ねてこの場の人間に、ベルベット・カースナーって人間がどんなもんかを知らしめてやる必要がある」

「ハハハッ……御冗談を……」


 笑い声とは裏腹に、マリオの体重が僅かに前へ移動する。

 視線が俺の手足を素早くなぞり、間合いと逃げ道を計算しているのがわかった。

 手を抜いていたとはいえ、シグとやりあえる手練れだ。

 何か俺から感じるものがあるのだろう。


「シグ、そいつを寄こせ」


 シグが手に持つ鉄棒を指差す。

 俺の要求を受けて、彼は少し渋い顔をした。


「……殺してしまうつもりですか? 些か勿体ない人材ですが」

「お前じゃねぇんだから、興奮して力加減を間違えたりしねぇっての」

「ぬぅ……」


 投げて寄こされた鉄棒が空を切る。

 俺はそれを片手で無造作に受け止め、

 ただダラリと自然体で立つ。

 特別な構えは取らない。

 だが、その代わりに右目を開いた。


 視界の端で、マリオが小さく息を呑む。


 彼にはまだ俺の魔眼の効力が殆どない。

 ただ、何かを肌で感じ取っているのか、

 俺の目からサッと視線を逸らした。

 そんなことをしたところで意味はないのだが。


「いつでも来いよ。じゃねぇと、この鉄棒でそこのポートマンをぶっ叩くことになる」

「なっ、何をふざけたことを言っているのです! カースナー公爵令嬢! それに、この隻腕の男の暴挙はアナタの指示ですか!?」


 ポートマンは怒りのあまり額に血管を浮かべている。

 俺が「そうだ」と肯定してやったら、どんな行動をするのだろうか?


 やってみるか。


「全て、俺がやらせたことだが?」

「クソガキがぁぁぁぁぁ!!」


 すんげ~。

 血管がはちきれそうだ。


「落ち着いてください旦那様。他のお客様も見ているのですよ」

「もう知ったことか! これだけコケにされて黙っている方が沽券に関わる! マリオ、その生意気なガキを(なぶ)り殺せ!」

「やれやれ、むちゃくちゃですな」


 公爵令嬢相手に大した啖呵を切るもんだ。

 まあ、相手は現役の伯爵様だ。

 所詮、自分自身で爵位を得たわけでもないただ()()に、貴族のプライドを傷つけられれば激昂もするか。 

 コイツ、プライドめっちゃ高そうだし。


「良いのかポートマン? お前の暴言を俺が父に口添えすれば、確実に不興を買う事になるぞ?」

「バカが! たかだか公爵位程度でこの私を支配できると思っているのか? 表の爵位など、所詮はステータスのひとつに過ぎない! 真に力ある人間というのは、裏の世界であろうと輝く私のような者のことなのだ!」

「ぶほっ」


 堂々と言ってのけるポートマンの言葉に、思わず吹き出してしまった。

 不快そうに眉を顰めるポートマンに俺は隠すことない馬鹿にした態度で答えてやる。


「でもお前、雑魚じゃん」

「ざっ!? ………………もういい。やれ、マリオ。可能な限り凄惨に殺せ!」

「旦那様は何を言っているんです? そんなこと私にできるわけないでしょう」

「はぁ!?」

「これだから武術を嗜まない御仁は困る。この()()に、私が勝てるわけないでしょう」


 マリオは負傷した腕を垂らしたまま、片手を上げて降参のポーズを取る。

 どうやら彼は戦わずして俺の力量を悟ってしまったらしい。


 俺も意図して分かりやすいように構えていた。

 本格的に構えをとることなく、自然体で両腕を下ろす。

 ポートマンと会話をしている間、素人からすれば俺は隙だらけ状態に見えただろう。

 だが、俺はいつでもマリオの攻撃に応戦できるように意識を割いていた。


 呼吸の間隔。

 重心の位置。

 視線の動き。

 俺は、それら全てを読み切っていた。


 マリオも明確な敵意を持った俺に気を抜くわけがない。

 彼はずっと俺とポートマンの会話を聞きながら、隙を伺っていた。

 しかし、彼にはそんなもの見つけることはできなかったのだろう。

 当然だ、俺に不意打ちを仕掛けることなど、シグにもできない。

 できたのはエルガーだけだ。


 しかし、戦わずして敵の力量を計ることができるのも、やはり優秀な武人の証。


 今のところポートマンは要らないけど、やっぱマリオだけは引き取りたいなぁ。

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