24. スペシャルゲスト
壇上で、会場に集まる俺たち客を見渡すポートマン。
なんか、いつもと客の様子が違うぞ?
そして、ポートマンは遅れて気づく。
多くの人間が視線を向ける先——俺という特異点に。
「なっっ!? アナタは……っ!」
ついうっかり俺の名を口にしそうになるポートマンは、慌てたように自分の口元に手をやる。
この場所で客の実名を不用意に呼ぶことは許されないのだろう。
それも、裏社会の大御所という地位にある人間が、下手に取り乱すわけにもいくまい。
それこそメンツに関わるというものだ。
「どうした? オーナー殿、俺は、今日のイベントを楽しみにここへ来たんだ。早く話の続きを聞かせてくれよ」
俺は椅子にふんぞり返ってそれだけ伝える。
足を組んで、ひじ掛けに頬杖を突く。
これぞ俺が思い描いていた理想の悪役ポーズ。
「バッ、バカな! 今日はお得意様だけを集めた秘密のイベントのはずだ! なぜ初めてここに来たアナタが、このパーティーの存在を知っているのです!?」
「ダールトンに聞いたから」
「ダァ!?」
口をあんぐり開ける姿が面白くてつい笑ってしまった。
いかんなぁ。
もうちょっと緊張感ある舞台にしたいのに。
何せ、ここは俺という悪党が裏社会で大々的に活動する初舞台なのだから。
「ダールトンが今日この場所に特別な奴隷を用意した話は通っているだろ? あれの指示元は俺だ。黒髪黒目、この国ではなかなか珍しい少女を用意したんだがなぁ。お前の方で確認はしてないのか?」
「そ、その奴隷ならたしかに……。クッ……ダールトンめ、相手が相手とはいえ、いきなりこの場所の情報を漏らすとはな。あの男、場合によっては組織から消されかねんぞ……っ!」
苛立たし気に呟くポートマンだが、
その声音はすぐに切り替わる。
「し、失礼しました、御令嬢。しかし感心しませんね。そのように素顔を晒してこの場所に来るとは……。アナタをここへ招待したダールトンと、それから父君からは何も言われていないのですか? ……というか、父君は何処に?」
この場所に公爵令嬢がいるなら、
その親である公爵がいると思うのが当然だ。
さっきも同じような反応をする客たちを見た。
まさかこんな物騒な所に少女ひとりで遊びに来るわけない。
そう思っているんだろうが、残念でした。
ひとりだよ~ん。
まぁせっかくだから、ちゃんと彼らの疑問に答えてやるとしよう。
「ダールトンのアホは何も言ってくれなかったし、俺の父はここにいない。今日はひとりでここへ来た。俺は前々から奴隷の裏市に関心があってなぁ。この機会を楽しみにしていたんだよ」
「は……? ひとり?」
「そうだが? 何か問題があるか?」
仮面をしているポートマンの表情はわからないが、彼が混乱の極みにあることは容易に想像できた。
こんなガキがひとりで裏市に?
本当ならダールトンは何を考えて情報を明かした?
王都の貴族はダールトンと俺の関係なんて知らない。
ダールトンが懇意にしているのは、
あくまでも公爵である父であって、
娘である俺とは何か関わりがあるだなんて思いもしないはずだ。
奴隷売買の税率を動かしたのも、
ダールトンに首輪をつけたのも、
全部、俺がひとりでやったことだ。
でも、この場の誰もそんなことは知り得ない。
「……いったい、何がどうなっている?」
ポートマンは完全に自分のペースを見失っていた。
ただ俺という存在に翻弄されるだけの道化と化している。
ああ、いいね。
この感じ。
他人をビビらせるのは気持ちが良い。
でも、まだまだ。
今夜はここからがお楽しみだ。
「さあ、もういいだろオーナー。他の客も待ってる。さっさとオークションを始めてくれよ。俺も裏市のスペシャルな奴隷ってのが見てみたいんだ」
まだまだ俺に聞きたいことは山積みだろう。
それでも、流石はプロ。
一度だけ「ゴホン」と咳払いをして、
ポートマンはすぐに居住まいを正した。
「大変失礼いたしました……。レディ、許可をいただけるならオークションの後に少々お時間をいただいても?」
「かまわんとも。むしろ、こちらから願い出たいところだ。お前には聞きたいことがあったしな」
「それはそれは……。では、そのお話はまた後ほど」
恭しく頭を下げる。
そして、顔を上げたポートマンは声を張り上げた。
まだ俺たちのやり取りを見て、どんな反応をすればいいのかわからないという様子の客たちへ向けて——。
「大変長らくお待たせいたしました! それでは、これより本日のスペシャルイベント! ロイヤリティ・オークションを開始します!」
まだ混乱から立ち直れない客たちは互いに顔を見合わせて固まっている。
俺は、その空気を壊すように、ポートマンへ大きな拍手を送ってやった。
彼は俺の意図を察したようで、再び大仰な仕草で礼をする。
それを見て、ようやく客たちも追従して拍手をした。
「それでは、まずは本日の最初の奴隷の紹介を! 出身は東の小国。隻腕ながら、その剣技は王国騎士など並ぶべくもない達人の領域。無名にして最強の剣豪、その名をシグルス!」
そして、舞台袖からゆっくりと一人の男がやって来る。
手枷も何も付けず、自分自身の足で。
「え? あ、あれっ?」
本日何度目かわからないポートマンの間抜けな声が会場に小さく響いた。




