17. 新たな稽古相手
翌日。
公爵家の訓練場。
護衛騎士たちに混ざって私とレアーナは剣の訓練をしている。
周囲の騎士たちは必死に訓練をしている……と見せかけて、チラチラとコチラを伺っているのが視線でバレバレだった。
コイツら、ちゃんと訓練しろよな。
なんて思いつつも、目の前で一生懸命俺の剣を受け止めるレアーナに詰め寄った。
「ほらほれ、そんなへっぴり腰じゃ剣なんか受け止めきれねぇぞ」
体は狙わない。
ひたすらレアーナの持つ木剣の腹を叩いて、彼女の剣の軸を揺さぶる。
右、左、右、左。
振り子みたいに規則的なリズムでカンカンと木剣同士がぶつかる音が響いた。
「ちょっ! 待って! あぁ!」
レアーナの手から木剣が離れ、くるくると宙を舞って池に落ちた。
「また落としやがったな? 早く拾って来いレイーヌ」
「誰が犬よ!」
文句を言いながらパタパタ掛けて木剣を拾う。
しかし俺の剣の衝撃を受け続けた彼女の手には既に力が入らないのか、拾おうとした木剣をポトリと取り落としていた。
「今日はもうやめとくかー?」
「う、うるさい! 絶対に一度くらい剣を当ててやるんだから! ちょっと待ってなさい!」
「お〜、その粋だ。頑張れ頑張れ」
「もーーー! バカにしてぇ!」
顔を赤くしてレアーナが怒るのを見て、俺はワハハと笑う。
「お、大人気ねぇ……」
どこかから護衛騎士のひとりがそんな言葉を漏らしていた。
「あ?」
「ひぃ! す、すみません!」
「見てないで訓練頑張れよー」
「「「は、はい!」」」
しっかり牽制すると差筋を引っ張られたみたいにピーンッと伸ばして謝る正直者たちを見つけた。
素直な奴らだ。
俺なら知らんぷりして素知らぬ顔で訓練を続けてる。
にしても、何が大人げないだ。
これまで何も言わず俺とエルガーの訓練を見ていたくせに。
それを言うならエルガーに言えよ。
「さぁ! もう一回よ!」
レアーナが木剣を構え直し、俺に挑みかかる。
しかしやはりレアーナは俺から一本も取ることなく、やがて体力尽きて地に転がることになった——。
ゼェゼェと荒く息を吐くレアーナの前に座る。
「やっぱ剣はお前に合わねぇかぁ」
「ふ、ふざけないで……。どう考えても、アナタが強すぎるだけ、よ……」
それも否定はしない。
俺は些か強くなりすぎた。
それは自覚済みだ。
エルガーとの剣の訓練が楽しすぎた故に、俺は自重というものをせずに伸び伸びと剣の腕を伸ばした。
そしてエルガーも遠慮というものを忘れて俺を叩き潰す勢いで剣の稽古をしたものだから、俺は既に並の剣士相手じゃ相手にならない剣気を手に入れていた。
だからこそ、エルガーが指南役を引退した今、俺の訓練相手が居ないという深刻な問題が発生しているわけだ。
そんな中に現れたのが、超新星レアーナちゃんだ。
以前より彼女の身のこなしに目を付けていた俺は、彼女に剣を教えて、自ら稽古相手を作ることにした。
本人も何か仕事が欲しいとか言ってたし、丁度良かったというのもある。
そんなわけで本日より俺のレアーナ育成計画が始まったわけだが、早速計画打ち切りの危機に瀕している。
「変態のくせに、こんなに強いなんて……。変態のくせに」
なんで二回言った?
そんなに大事なことだったか?
「せっかくお前が欲しがってた仕事をくれてやったのに、酷い言い草だな」
「……ぐぅ。アタシ、結構武術には自身あったのに……」
そんなことをボヤくレアーナだが、実際のところ弱いわけではないと思う。
あくまでも正面きっての剣術勝負になると俺に分があるというだけ。
やり方を変えればまだ訓練のやりようはある。
たぶん。
「剣じゃなくてやっぱナイフとかの方がお前は合ってるな」
「アナタが異常なだけで、剣だってそれなりに使えるわよ! 先生には大したもんだってよく褒められてたんだから」
「ほ〜ん? 先生ねぇ? 自称スラム街の孤児さんが?」
ふひゅ〜っと音のなってない口笛を吹いて誤魔化すレアーナ。
誤魔化す割に本気で隠す気もなさそうなのがよく分からない。
一時的に身を潜められる場所があれば、それだけでいいということなのか。
あるいはバカなだけか。
なんにしても、もう諦めてゲロッちまえよな。
明らかに普通の孤児ではねぇんだよ、お前。
レアーナは頭はよく回る。
アドリブであの母を丸め込む話術もある。
しかも母を前にしたレアーナの礼儀作法は俺よりもできているんじゃないかとすら思ったほどだ。
「レアーナ、お前が何のつもりでウチに入り浸ってるのか知らねぇが、あんまりウチに迷惑かけるようなら足を舐める程度じゃすまさんぞ」
「な、何をする気よ?」
「裸にエプロンをつけて屋敷中の家事をさせる」
レアーナはわなわなと震え上がり恐れをなしている。
「こ、この変態……女の子にそんなことさせていいわけないでしょ!」
「いや、たぶん男相手でもダメだぞ」
「わかってるならやらせるな!」
「お前が悪さしなければ良いだけだろ。それとも、何か企ててるのか?」
「な、何もないわよ」
ジロリと目を合わせると、レアーナは目を逸らさないまでも身を竦ませた。
「ふんっ……。ま、こっちはこっちでお前を利用してもらう。せいぜい役に立て」
「偉そうな言い方ね」
「ああ。俺は、公爵令嬢様だからな。……さて、元気があるならもういっちょ行っとくか?」
「ええ。次こそ当ててやるわ」
身軽に跳ね起きたレアーナが剣を構える。
見た目によらず気合のある奴だ。
これは、鍛え甲斐があるかもな。




