16. 変態
「ほれ、舐めれ」
椅子に座ったまま足を放り出すように少女の前にぶらぶらさせる。
「ほ、本気?」
「冗談を言っていると思うか?」
椅子の前に正座するレアーナは、心底嫌そうな顔で俺の顔と足を見比べる。
「お前が言ったんだろうが、暇だから何か仕事がしたいって」
公爵領に戻って数日。
どういった心境の変化か、離れで生活するレアーナのもとに顔を出すと彼女から提案があった。
毎日することがなくて暇になってきたから何か仕事がしたい。
いつもグータラしてばかりで、いい加減に何か一つくらい役に立てと文句を言ってやろうと思っていたのだが、そんな俺の気持ちを察してか、先回りするような言葉だった。
とはいえ、いざ何か仕事をくれと言われても、レアーナに頼むことなんてない。
屋敷のことは公爵家の優秀な使用人たちで事足りるから、むしろレアーナに手出しされても無駄な仕事が増えるだけのような気がした。
なら俺の身の回りのことを何か。
そう思えば、今度はシルヴィアが怒りだす。
「ベルベット様、こんなちんちくりんに私の仕事の邪魔をさせないでください」
口をへの字に曲げてわかりやすく不貞腐れていた。
シルヴィアさん、ちょっと大人げないですよ?
そんな風にも思ったが、
まあ、火に油を注ぐ気はない。
色々考えた結果、俺がレアーナに任せられる仕事は、俺の愉悦に付き合ってもらう事だけだった。
「だからって、足を舐めさせるとかどういう頭しているの? こんなの、仕事とも言えないじゃない!」
「いやいや、これも立派な仕事の内だ。少なくとも我がカースナー公爵家では伝統的な仕事とされている」
知らんけど。
「そんな伝統さっさと廃れてしまえ!」
ぷりぷり怒るレアーナを見て俺は口角を上げた。
これだよ、これ。
やっぱり足を舐めるって屈辱的なことだもんな。
いつだったかシルヴィアにやらせたときの反応がおかしすぎただけだ。
「ほーれ。俺を満足させないと、明日には野山に捨てちゃうかもれないぞ~」
いよいよ顔に足を押し付けてやるとレアーナの顔が俺を軽蔑するように険しく歪んだ。
「このクズ! 人の弱みを握って、こんなことをして何が楽しいのよ!」
「あ~~~それそれ。もっと、もっと言って!」
「うっ……。アナタって、もしかして変態ってやつ? 罵られて興奮するなんて……」
いいよ~~、もっとだよ~。
「俺は罵られても一向に構わん。むしろ気持ちよくなるだけだ」
「ちょっ、公爵家の令嬢のくせに、なんて品のない……。やめてよっ! ていうか、アナタ、パンツ丸見えなんだけど!」
「気にするな。パンツなんて見られても減るもんじゃない」
「品位が落ちるわよ!」
ほう。
それらしいことを言うもんだ。
このニート、たまにそれっぽいこと言うんだよ。
もしかして、実は良いところの娘なのか?
「レアーナ、止めて欲しかったら俺の質問に答えろ」
「何よ?」
「お前の本名と出生を教えなさい」
「ほ、本名って? アタシはレイーナですけど?」
お前どんだけ適当だよ。
「お前がその気なら仕方ない。今日からお前は毎日俺の足を舐めろ。この屋敷でお前にできる仕事はそれだけだ」
「絶対他にもできることあるわよ! アタシのこと舐め過ぎよ!」
「違うぞレアーナ。舐めるのはお前の仕事だ。指の一本一本、隙間の隅々まで舐めなさい」
「そういうことじゃな~~~い!」
俺に飛び掛かって来るレアーナをひょいと捕まえて組み伏せるようとする。
思ったより身のこなしが良くてスルリと抜け出された。
そういえばコイツ、結構動けるんだったな。
「ふふん! 最近はご飯もいっぱい食べて体の調子も良いんだから。前みたいにアタシに勝てると思わないこと、ね?」
したり顔で喋っている隙に急接近。
古武術をもとに改良した極短距離用の歩法を駆使して不意打ち気味にレアーナをひっ捕えた。
そのまま押し倒してマウンティング。
「ちょっと卑怯よ!」
「知るか。先に仕掛けておいて油断する方が悪い」
さすがにエルガーほどの反応速度はないか。
でも、鍛えたらいい感じの練習相手になるかもなぁ。
なんて思いながらレアーナの頬に足をうりうり押し付けて遊んでいたら、思わぬところから怒声が上がった。
「いい加減にしてください! ベルベット様、それは私への当てつけか何かですか!?」
「? あの? シルヴィアさん?」
扉の前に控えていたシルヴィアが涙目で抗議を始めた。
「ベルベット様の足を舐めるのは私が待ち望んでいた仕事です! それを、そんなぽっと出の娘に……! これはこの上ない屈辱です!」
「えぇ……」
お前の屈辱ポイント絶対にズレてるよ。
「こ、この主従、狂ってるわ……」
レアーナさんもドン引きである。
あの、俺のことを巻き込まないでください。
「落ち着けシルヴィア。この世に足を舐める仕事なんてものは存在しない」
「アナタさっき、これは公爵家の伝統的な仕事だとか言っていたじゃない」
「うるさいぞ小娘」
俺がそう吐き捨てると、レアーナはギャースギャースと顔を真っ赤にして暴れたが、俺の太ももでガッチリ押さえ込まれているせいで身動きが取れない。
シルヴィアはというと、涙目で肩を震わせながらも、じっとこちらを見つめている。
「ベルベット様……私、ずっと待っていたんです。あの時、初めておみ足を拝ませていただいた日から……毎日、夢に見るほど……」
レアーナが「ひっ……」と小さく悲鳴を上げる。
「この人、本気でヤバい……」
「その言葉には同意するが、今はちょっと黙ってろ」
俺はレアーナの顔に足の裏をぺったりと押し付けた。
温かくて柔らかい頰が、足の感触に沈む。
「んぐっ……!」
「ああ、ズルい!」
レアーナを足蹴にし、シルヴィアを説得する。
おかしくなってしまった状況に内心で頭を抱えながら、俺はどうにかそんな一幕を切り抜けるのであった。
「……この、変態公爵令嬢」
最後にレアーナからそんな不名誉な渾名を付けられてしまったが、まあ、それもまた一興ということで……。




