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TS令嬢、悪役ムーブで人生を謳歌したい  作者: 真嶋 青
第二章

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13. ニート

 あのあと、俺はフールーと話した通りにテキトウな芝居を打った。

 

 まず、早朝に屋敷の俺の部屋の窓ガラスを()()()叩き割る。

 それから話を通してあるシルヴィアに、

 『痩身の男が屋敷へ襲撃に来た』という嘘の報告を屋敷の護衛たちに吹聴させた。

 痩身の男と言うのはフールーのことだ。

 彼の特徴をそれっぽく(あくまでそれっぽく)伝えて貰い、組織への依頼通り彼が公爵家に危害を加えることに成功した風を装う。

 

 実際のところフールーがその時間に何をしているのかは知らない。

 一仕事終えて何処かの拠点で仮眠でも取っていたやもしれん。


 あとはガラスを割るついでに軽く傷つけた手に、大袈裟なくらい包帯を巻いて王都からカースナー領に戻るまでの残り数日を過ごすだけだ。

 父と護衛たちは襲撃に気づくことができず、顔色を青くして騒然としていたが……まあ、必要経費みたいなものだ。


 アリスター侯爵家から差し向けられるはずだった攻撃を、実質無傷で(しの)いだと思えば父たちの心労は安いもんだろう。

 牢に捕えてある少女の件と立て続いてしまい、父たちは屋敷の警戒態勢を見直す必要があると躍起になっていた。

 今後また王宮の派閥争いに巻き込まれることを考えれば、それも悪くない影響だろう。

 ノーリスクで騎士たちに危機感を持たせ、状況改善に努める良いきっかけになったとも言える。

 

 はてさて、我が組織への成功報酬は如何ほどのものか。

 フールーからの報告が楽しみだな。

 相手は侯爵様だ、それなりの額を期待したい。


 そんでもって、今後ともよろしくってなもんだ。

 組織への資金提供に加え、我が家の非常事態訓練にまで貢献いただいた侯爵様には足を向けて眠れん。


「随分と機嫌良さそうね。公爵令嬢さん」

「ああ、今朝ちょっと面白いことがあってな」

「ここまで大騒ぎが聞こえて居たわよ。全然面白そうではなかったけど」

 

 俺の斜め後方で護衛騎士が頷きまくっている気配を感じる。


「王都に来てからどうも張り合いのない時間を過ごしていたからな。お前のことといい、少し気が引き締まる良い機会になったよ」

「あら、じゃあ良い機会を作ったアタシにお礼をしてくれてもいいんじゃない?」

「どんだけ神経図太いんだよお前」


 もう本当に、凄いよ。

 尊敬するわ。

 俺も今後の悪役ムーブにおいて、このふてぶてしさは見習っていかなければならないかもしれない。


「それで、今日はアタシになんの用なの? アタシの組織の話が聞きたい? それともアタシが何者か知りたい? まあ聞かれても答えないけど。でもご飯を貰えるなら答えてあげないこともないんだからね?」


 こんなに心躍らないツンデレに遭遇したのは初めてだ。

 そもそも現実にツンデレなんていう天然記念物と相まみえること自体が稀有な事例だって言うのに。


 人間とは数日の牢屋暮らしでここまで堕落できてしまうのか……。


 少女は今もベッドにゴロ寝して仰向けになったまま首だけで俺の方を向いている。

 怠惰の極み。

 囚人ライフをこれでもかと満喫してやがる。

 肝が据わっていると言えば聞こえはいいが、捕えた側からすればタチが悪い。

 

「まあいいか……。なぁお嬢さん、お前に朗報をくれてやる」

「あら、何? もしかして今日のご飯にはケーキでも付くの?」

「飯の話じゃねぇよ。……釈放だ」

「……え?」

「おめでと~。君は今日から自由の身だよ。あとはどこぞで野垂れ死のうが逃亡生活送ろうが好きにしなさい」


 そういって、護衛に合図を送ると、彼は渋い顔をして牢のカギを開けた。


「ちょっと!? 本気? アタシのことを放り出すの?!」

「なんで嫌そうなんだよ。喜べよ」

「アタシの今日のご飯はどうなるのよ!?」

「知るかボケッ! 自分で探せ!」

「じゃあ寝床は!?」

「それも知らん!」

「この国に来てからこんな上等なベッドで眠れたことないのよ! アタシの快適なプライベートルームを奪わないで!」


 手を引っ張って少女をベッドから引きずり下ろす。

 そのまま牢から引っ張り出そうとしたら、あろうことか彼女は足でベッドにしがみついた。

 

「猿かテメェは!」

「うきーっ! アタシはここに暮らすの! お願い捨てないで!」


 なんという執念。

 恐るべき恥知らず。

 

 これが真っ当な道から足を踏み外した者の成れの果てだとでも言うのか……。


「お前なぁ……。こっちはもう聞きたいことも聞いて用はないんだよ。ってか、もうすぐ俺は王都から自分の領地に帰るし、どの道この屋敷に人は残らないから、毎日お前の世話をする人間もいなくなる。お前、餓死することになるぞ」

「ガーン……」


 ガーンって。

 マジで口に出して言う奴、初めて見たぞ。


「わかったなら諦めて牢屋から出なさい。良い子だから」

「ママァ……」


 誰がママじゃい。

 

 護衛騎士も居た堪れない顔で少女を見ている。

 なんでだろうか、俺が悪いことをしている気持ちになって来た。


 少女はまだ俺をつぶらな瞳で見ている。


 いや、だから……もう好きにどっか行けよ…………。

 

「……お願い」

「…………わかったよ。とりあえずもう少し居て良いから」

 

 もういいよ。

 なんか疲れた……。


 こうして、俺はひとりのニートを抱え込むことになった。

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