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TS令嬢、悪役ムーブで人生を謳歌したい  作者: 真嶋 青
第二章

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04. きな臭い噂

 早朝。

 日が昇り始めて、空が若干赤みがってきた頃に俺は屋敷へ戻った。

 

 正面口から入ると、もう朝食の準備だので働きだしている使用人に見つかってしまうかもしれない。

 深夜に屋敷を抜け出したことを知られると色々面倒だ。

 何をしていたか聞かれても何も答えることができない。

 俺の外出には、(やま)しいことしかしてないのだから。

 

 抜き足、差し足、忍び足。

 そんな感じで誰にも見つかることなく窓から自室に戻ったわけだが——。


「あらあら。おはようございます、ベルベット様。お早いお戻りですね? それとも、遅いお戻りですかぁ?」


 三日月みたいなパックリと裂けた口で笑うシルヴィアが俺を待ち構えていた。

 

「あ、ああ。おはようシルヴィア」


 コイツめ……今日は一段と早いじゃないか。


「な、なんだよ、その顔は? 良いだろ、ちょっと散歩行くくらい」

「ベルベット様は公爵令嬢なのですから、外に出るなら護衛をつけてください。というか、私を連れて行ってください」


 灰の谷に行くから付いてきて欲しい。

 そう言っても却下されるに決まってる。

 

 それに、あの無駄に成長した無駄に立派な無駄な組織を人に知られるのはまずい。

 

 ただまあ、シルヴィアは組織の存在をもう把握しているんだけど。

 でも、だからってシルヴィアをあんな場所へ同行させるわけにいかない。


 目を離した隙に裏路地に引っ張り込まれて服をひん剥かれるに決まっとる。

 

 許しませんよ!

 そんなけしからんことは!

 

 他人にひん剥かせるくらいなら、

 俺がひん剥く!


「もう……またエッチな目で胸を見て……。ダメですよ。今は真面目な話をしているんですから」

「ちちちち、違うわい! おっぱいなんて見てないやい!」


 めっちゃ見てました、すみません。

 

「はぁ……ベルベット様の気配が屋敷から消えたので、気になって部屋に様子を見に来たんです。案の定、もぬけの殻でした」

「俺の気配って……どこでそんな特殊スキル身に着けたんだお前?」

「幾星霜の長きに渡る激しい修行の末、いつでもどこでもベルベット様の存在を探知する第六感を手に入れました」


 なんか変な言い回しするようになったなコイツ。

 誰に似たんですか?

 良くないですよ?

 真面目な話の途中に、

 そういうフザケた喋り方は。


 まあ、それは置いといて。

  

「んなもん要らねぇよ! その第なんたら感とか言うのは、外に捨てて来なさい」

「無理です。私の(しん)の臓に埋め込まれているので、外すと死んでしまいます」


 厄介なものをお持ちなことだ。


「それで? どこへ行っていたんです?」

「だから、ちょっと散歩、みたいな」

「そんな小汚いボロ布を纏ってですか?」

「あまりに激しい散歩でな。途中で擦り切れた」

「なるほど。灰の谷へ……」

「バカなっ!? 結論に到達するのが早すぎる!」


 言葉の裏を読むとかいうレベルじゃないだろ!

 それも第六感か?

 もう思考盗聴のレベルじゃん。

 

 あらやだ、アタシ、頭にアルミホイル巻かなきゃ!


「テキトウにかまをかけるつもりだったんですけど、まさかドンピシャで当たってしまうなんて……」


 シルヴィアは俺と同じくらい驚いた顔で動揺していた。


 あ、あぅ……。

 

「ギルドの会合ですね?」

「……うん」


 もう誤魔化すの無理。

 素直に話すしかないわ。


「わざわざ夜にあんな危険な場所まで出向く必要ありませんのに。買い出しにプラハへ行くとき、私がダールトンさんから報告書を受け取れば良いだけですよ」

「えぇ。でも、お前とダールトンを会わせるのは……なんかじゃない?」

「なんかってなんです? 今さら気にしませんよ。今のダールトンさんはベルベット様の忠実な下僕です。私からすれば、ただの同僚ですよ」

「……そうなの?」


 でも過去の確執ってそんな簡単に割り切れなくない?

 やっぱりちょっと心配なわけだよ。


「ベルベット様、私はもう大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます」


 優しく微笑んでシルヴィアが言った。

 

 本当に思考盗聴していないだろうな?

 

 にしても、シルヴィアは強くなった。

 身体能力の話ではなく、メンタルの話。

 メンタルの強靭さで言えば、

 もはや俺よりもしっかりしていそうだ。

 

 昔はメンヘラで大変だったのに。

 ヘラりすぎて俺を誘拐しちゃうくらい。


 誘拐といえば、あの時の傷は俺もシルヴィアもすっかり癒えた。


 俺は顔に、

 シルヴィアは背中に、

 それぞれ消えない傷痕が残ってしまったけれど。


 それでも、シルヴィアなどは一生自分の足で歩けなくなってもおかしくなかったのだから、運が良かったという言う他ない。

 今も彼女は背筋をピンッと伸ばした綺麗な立ち姿で、自分の両足で立てている。

 

「ところで、今日の会合ではどういった内容の報告が?」


 シルヴィアが途端に真面目な使用人の顔になる。


「なんか、王宮内できな臭い噂があるらしい」

「きな臭い噂、ですか?」

「ああ。なんでも、第二王子派の連中がウチに牽制を掛けようとしてるんだとよ。いよいよ王位継承権の派閥争いに巻き込まれそうってわけだ」


 王族と貴族の勢力争い。

 第一王子の婚約者として正式発表はまだだが、何度か俺とラインが接触した事実をどこからか仕入れたようだ。


「なるほど……それは、面倒なことになりそうですね」

「早速、明後日のお披露目会で何か接触があるはずだ」

「承知しました。私もそれなりに準備をしておきます」

「あんまり張り切るなよ? お前はまだ喧嘩弱いんだから」


 彼女はプクッと頬を膨らませる。


「ベルベット様と比べたらそりゃあまだまだですけど、私だって頑張ってるんですからね?」

「ハイハイ。わかってるよ。いつもご苦労さん」


 軽くあしらうとシルヴィアはムッツリとした顔になるのだった。

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