18. 魔眼考察
「オッサン、もっと仲間いねぇのかよ?」
「い、いない……いません!」
「ホントかなぁ? 俺、噓を吐かれるのが一番嫌いなんだよ。あとから仲間が来て俺に奇襲を仕掛けるとかあったら——」
「し、しんじでぐれよぉ……う、ぐぅっ……」
いい歳のオジサンがガチ泣きしている。
そんなに怖がることないだろうに。
まだちょっと足を刺しただけだ。
「なんだよ、これまでお前だって散々弱い者虐めして愉しんでたんだろ? もっとシャキッとせんかい! おん?」
ぺチンと軽く頬を叩く。
「すみませんでした! もう悪いことしません! 改心して真っ当な人間になります! だから……」
「改心だぁ? 俺の目を見てもう一回言ってみろや?」
付け直していた眼帯をペロッと捲って至近距離で目を合わせる。
「ヒュッ」
ガタガタ小刻みに全身を震わせ、顔を青白くさせた。
やがて口から、コッ、とかカッとか息を詰まらせる音を漏らして動かなくなっていく。
どうやらさっきよりも魔眼の効果が強くなっているらしい。
右目を閉じて眼帯を付け直す。
「ゴフッ……ハァハァ……」
それから傷顔の男はギャン泣きして会話ができなくなった。
シルヴィアと俺をこの農村地帯まで運んだ御者は、この辺りで活動していた盗賊団(?)の仲間だったらしい。
大きな組織ではなく、数人で構成される小さなグループ。
盗賊団なんて大したものではなく、烏合の衆と呼んだ方が正しいかもしれない。
御者があっさりとシルヴィアとの約束を破って、彼女の存在を仲間にチクった結果、彼らは雁首揃えて機嫌の悪い俺のもとまでピクニックにやってきてしまったわけだ。
団体さん、いらっしゃ~い。
彼らには俺の憂さ晴らしのついでに〘鎖の魔眼〙の効力を試す実験体になってもらった。
運が悪かったな。
不運の星の下に生まれた自分自身を呪ってくれ。
そんなわけで、
どの程度の距離まで効力があるのか、
一度に何人まで縛ることができるのか、
エリガド爺さんから聞いた話だけではわからなかったことを試した。
まず、わかったこととして、
相手が遠くなるほどに魔眼の効きは悪くなる。
そもそもこの魔眼によって縛ることができる対象は、『魔眼の発動者(つまり俺)に魅了されている相手』であるらしいので、距離が近くて俺に意識を割くリソースが高いほど術中にハマりやすいという話なのかもしれない。
ちなみに『魅了されている』という条件なのだが、かなり抽象的で俺自身も判断基準に困っている。
とりあえず、俺に対して明確に好意を持っている必要はないのだと思う。
でなければ初対面の破落戸たちが俺の力で動けなくなった理由が説明付かない。
欲望、色情、恐怖、怒り。
俺に対して何かしらの感情を抱いた時点で効果対象。
さらに強い思いを抱くほど、効力が上がる。
我ながら、なんと厄介な力だ。
自分で言うのもなんだが、今世の俺は可愛い。
成長したら恐ろしく美人になるだろう。
それは見目の良い両親からして約束された未来だ。
そういう意味でも、能力との相性が驚異的に高い。
「魔眼の効力を上げるために、今後は女磨きに力を入れてもいいかもしれないなぁ。乳がデカくなれば男どもは簡単に食いつくだろ」
俺も男だったからわかる。
男はおっぱいの魅力から逃れることはできない。
なんなら女になった今でもシルヴィアの乳に自然と目が行っていることが多い。
人間というのは遺伝子レベルでおっぱいに吸い寄せられる何かを持っているのだろう。
知らんけど。
「今後は豊乳育成に励むか……。どうやったら育つのか知らないけど」
何だっけ?
イソフラボン?
豆を食えばいいのか?
あとで母やシルヴィアに何を食って育ったのか聞いてみるのも悪くないな。
偉大なる先人の知恵を賜るとしよう。
閑話休題。
鎖の魔眼の効力だが、人数はとりあえず3人くらいまで同時に縛り付けることができた。
ただし、俺が対象の姿をしっかり認識できていないと効果が薄くなる。
おそらく、
『視界に写っているけど、ちゃんとは見ていない』
みたいな状態だと、魔眼の効きは薄い。
高い所から百人とか大勢を見下ろしても、あまり効果はないだろう。
ちょっと体を動かしづらいと感じさせることはできるかもしれないが。
「まあ、今日のところはこんなもんか」
予想外の襲撃ではあったが、思わぬ収穫もあって大変満足。
良い運動をして、モヤッていた頭もすっきりした。
「さて、シルヴィア。そろそろこの場所からずらかるぞ」
後ろへ振りむくと、木陰から湿度の高いジトッとした目で俺を見るシルヴィアがいる。
しばらく前から俺に声を掛けるでもなく半径五メートル圏内くらいをウロウロしていた。
「…………」
返事はない。
ただのストーカーのようだ。
これ以上、俺から離れる気も、近づく気もない。
そんな意思を強く感じる。
「はぁ……。いつまでも不貞腐れやがって……」
しかし、これからどうしようかな。
遠くに見える人家の方に行って家に泊めてもらうことも考えたけど、散々返り血を浴びて汚れた俺の姿を見たら絶対騒ぎになる。
あわやこのまま野宿になるかと考えていたところで、
「お願いします神様、ボクを、ボクをたちけてぇ……」
俺の足に縋りつくオッサン。
もうプライドも何もあったもんじゃないのだろう。
スーパーでママにお菓子をおねだりする子供みたいになっている。
ピーピー泣いてる声が煩わしい。
うるさいから殺してしまうかと思ったところで、俺のパーフェクトブレインが閃いた。
「なぁ、オッサン? お前、アジトとか持ってないの?」
「はぇ……?」
そして俺は、本日のお宿を決めるのだった。




