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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第十一章|その先へ

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(異世界エンド)第一話|おかえり

異世界エンド

※こちらは異世界を選んだ場合の結末です。

白い光の中を歩いていた。


足元には何もない。

空もない。

地面もない。


それでも、不思議と怖くはなかった。


胸の奥が、温かかったからだ。




父の背中を思い出す。


何も言わず、それでもいつも家族を見ていた人。




母の笑顔を思い出す。


忙しい日も、疲れた日も、変わらず「おかえり」と言ってくれた人。




弟たちの笑い声を思い出す。


当たり前のように、続くと思っていた日常。



年上の「待ってたよ」という言葉。


若手の泣きそうな顔。




その、どれもが愛おしかった。

失いたくない、と思った。



けれど、失うことと、大切だったことは違う。



胸の奥に残っている。


忘れない。

だから、大丈夫だと思えた。


白い世界へ風が吹く。

柔らかな風だった。



その瞬間、景色が変わる。


草の匂いがした。

土の匂いもした。


遠くで、鳥の鳴き声が聞こえる。


空がある。

青い空だった。


どこまでも高く、広がる空。


胸が苦しくなるほどに、懐かしい。

視界の先で、緑が揺れている。


木々の葉が風に揺れ、陽射しを受けて輝いていた。


見慣れた景色だった。


何度も歩いた道。

何度も眺めた空。


何度も守りたいと、思った場所。


気付けば、涙が零れていた。


帰ってきたのだ。

この世界へ。


その実感が、遅れて胸へ押し寄せる。


そして、少し先に一人の男性が立っていた。


濃紺に近い黒髪が揺れる。

陽射しを受けてもなお夜の色を残した髪。

静かな瞳。



整った顔立ち。

静かな佇まい。


何度も夢に見て、会いたかった人。


ルシアンだった。


胸が大きく揺れる。


嬉しい。

苦しい。

泣きたい。

笑いたい。


色々な感情が、一度に溢れてくる。


ルシアンも、こちらを見ていた。


驚いているわけではない。

信じられないという顔でもない。


まるで、最初から分かっていたような顔だった。


その瞳を見た瞬間、アリシアはもう堪えきれなかった。


涙が頬を伝う。


ルシアンが、ゆっくりと歩き出す。

アリシアも歩みを進める。


一歩。

また、一歩。

距離が近付いていく。


どちらも走らない。


けれど、少しでも早く会いたいと思っていることだけは、分かった。


ようやく手が届く距離になった時、ルシアンがそっと手を伸ばした。


震える指先が、頬へ触れる。

まるで確かめるように。

本当にいるのか、確認するように。


温かい。

その温もりに、アリシアは目を閉じた。


ルシアンが、小さく息を吐く。

張り詰めていたものが、解けるように。


長い長い時間を終えた人の吐息だった。


そして、ようやくルシアンが微笑む。


「おかえり」


優しい声だった。


アリシアは、涙を拭うことも忘れたまま笑う。


胸がいっぱいで、言いたいことはたくさんあるのに。


出てきた言葉は、一つだけだった。


「……ただいま」


次の瞬間、ルシアンの腕がアリシアを包み込んだ。

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