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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第十章|選ぶ場所

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第三話|白い廊下

夢を見た。


どこまでも白い場所だった。

空なのか、床なのか、壁なのか。


それさえもわからない。


ただ、白い光だけが静かに広がっている。




「……」


アリシアはゆっくり辺りを見回した。


見覚えはない。

ないはずなのに、なぜか懐かしかった。




足を一歩踏み出す。


靴音は聞こえない。

けれど、確かに前へ進んでいる気がした。




「ここは……」


声を出してみる。


だが、返事はない。



驚くほど、そこは静かだった。



風もない。

鳥の声もない。

木々の揺れる音もない。


まるで世界から、音だけが消えてしまったみたいだった。




「……」


胸の奥がざわつく。

何かを思い出しそうになる。

でも、届かない。



その時だった。


遠くで、何かが聞こえた。




『……ちゃん』


「……え?」


振り返るが、そこには誰もいない。


けれど、確かに聞こえた。



『……ちゃん』


今度は少しだけ近くで、聞こえた。


知らない声。

そう思った。


なのに、胸の奥が痛いほど揺れる。



「誰……?」


思わず呟く。


返事はない。


ただ、白い光の向こうで、誰かが自分を探している気がした。


『……ちゃん』


また聞こえる。


優しい声だった。

懐かしい声だった。


どうして懐かしいのか、わからない。


けれど、何故か涙が出そうになる。



「……」


その時、ふいにあたりがクリアになって景色が揺れた。


白い世界の向こうに、一瞬だけ。


長い廊下が見えた気がした。


白い壁。

明るい光。

規則的な音。



「……?」


知らない場所。

でも、胸が苦しくなる。


なぜか、そこへ行かなければならない気がした。



『姉ちゃん』


今度ははっきり聞こえた。


「……っ」


アリシアの呼吸が止まる。


姉ちゃん。


その言葉を、自分は知っている。


何故、知っているのだろう

胸の奥で、何かが大きく揺れる。


けれど、その瞬間に誰かが手を握った気がした。



離したくないと願うような

温かい手。


大切なものへ触れるような、優しさに包まれている。


「……ルシアン?」


掠れた声が漏れる。


白い世界が、ゆっくり遠ざかっていく。


『姉ちゃん』


『アリシア』


二つの声が重なる。


その狭間で、アリシアは静かに目を開けた。



窓の外は、まだ夜明け前だった。


胸の鼓動だけが、妙に速かった。

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