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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第十章|選ぶ場所

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第一話|聞こえた声

朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。


窓の外では、小鳥の声が聞こえる。

穏やかな朝だった。


それなのに、アリシアは、ほとんど眠れなかった。


「……」


寝台の上で、静かに目を開ける。


胸の奥が落ち着かない。

理由はわからない。


けれど、ここ数日ずっとそんな感覚が続いていた。


まるで、どこか遠くから呼ばれているみたいに。


「おはようございます」


侍女が部屋へ入ってくる。


いつもと同じ朝。

いつもと同じ挨拶。


それなのに、アリシアは少しだけ返事が遅れた。


「……おはよう」


自分の声が、どこか遠く感じる。




午前中。

書類へ目を通していても集中できなかった。


文字を追っているはずなのに、ふと気付けば違うことを考えている。


窓の外。

風に揺れる木々。

遠くの空。


「……」


胸の奥が、小さく疼く。

大切な何かを忘れている気がする。




午後。

ルシアンが執務室を訪れた。


「顔色が悪いな」


開口一番だった。


「そんなことないわ」


反射的に答える。


すると、ルシアンの眉がわずかに寄る。


「その返事も聞き飽きた」


「……」


思わず苦笑する。

以前なら、照れて終わったはずなのに今日は違った。


その言葉が、妙に胸へ引っかかった。


聞いたことがある。

そんな気がした。



『大丈夫です』

『平気です』

『そんなことないです』


誰かに、何度も言っていた。


何度もーー


「アリシア?」


ルシアンの声で我に返る。


「……ごめんなさい」


「何を考えていた?」


「わからないの」


小さく首を振る。


「最近、変なの」



何かを考えるように、ルシアンは黙った。


けれど、すぐには何も聞かなかった。



窓の外で風が揺れる。

静かな時間が流れる。



その時だった。

『ちゃんとお昼食べました?』



「……っ!」


アリシアが顔を上げる。

思わず立ち上がりそうになる。




「どうした?」

ルシアンの声。


「今……」

確かに、はっきりと誰かの声が聞こえた。




『ちゃんとお昼食べました?』


聞き間違いじゃない。




でも、誰の声なのかわからない。

胸だけが苦しい。




「誰かが……」


掠れた声が漏れる。


「誰かが呼んだ気がしたの」


部屋の中は静かだった。


侍女もいない。

扉も閉まっている。



それなのに、確かに聞こえた。


ルシアンは何も言わない。


ただ、静かにアリシアを見つめていた。



その瞳の奥に、一瞬だけ影が落ちる。


まるで、恐れていたものが近付いてきたことを悟ったように。


「……」

アリシアは窓の外を見る。


遠くの空。

流れる雲。

揺れる木々。



胸の奥が、小さく震える。


懐かしい。

なのに、思い出せない。


何を?

誰を?

懐かしいと思ったのかさえ、わからなかった。

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