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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第一章|壊れる前に消えた私

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第七話|止めていた場所

「……これは」


手にした紙の重みが、他と違う。


現場で止まっていたものではない。


もっと——外側だ。


「……」


視線を落とす。


記載された内容は、単独では動かない。


複数の部署を跨いでいる。


許可がいる。


確認がいる。


判断がいる。


一つでも欠ければ——止まる。


「……」


ゆっくりと、顔を上げる。


アルノーを見る。


「これは」


一拍。


「どこまで広がっているの」


「……」


返答がない。


すぐには。


その間が——すべてだった。


「……複数案件に連動しています」


低く、落ちる。


言葉は選ばれている。


だが、隠してはいない。


「領地内だけではありません」


「……」


やはり、そうか。


「……」


アリシアは、紙にもう一度目を落とす。


線が、繋がる。


点ではない。


面で止まっている。


「……」


息を、静かに吐く。


「……」


アルノーを見る。


わずかな沈黙。


そのまま——


口を開く。


「……そう」


短く、落とす。


「把握していて、止めていたのね」


視線を外さないまま、続ける。


「……」


周囲の空気が、わずかに張る。


手が止まる気配。


「理由は、わかるわ」


淡々と。


「触れれば、同じように止まるから」


「……」


アルノーは否定しない。


それで、十分だった。


「だから放置した」


一拍。


「結果、現場まで止まった」


「……」


逃げ場はない。


だが、責める声ではない。


「判断が止まると、全部が止まるわ」


静かに、言い切る。


「現場じゃなくて——」


ほんのわずかに間を置く。


「あなたのところで」


「……」


空気が、落ちる。


だが、崩れない。


「……次は、止めないで」


それだけ。


それ以上は、言わない。


「……」


アルノーが、わずかに息を吐く。


「……承知しました」


短く、返る。


だが——先ほどとは違う。


言葉の奥に、重みがある。


「……」


アリシアは、頷かない。


ただ、次へ。


「この案件」


紙を軽く持ち上げる。


「分解する」


短く、告げる。


「……分解、ですか」


アルノーが、わずかに目を細める。


「一つの案件として扱うから止まるの」


静かに続ける。


「工程ごとに切り分ける」


「動かせるところから動かす」


「……」


アルノーの視線が、紙へ落ちる。


理解している。


「承認待ちの部分は、そのまま保留」


「現場で完結する部分だけ、先に回す」


「……」


一拍。


「それなら——動きます」


低く、落ちる。


「ええ」


短く、返す。


「止める理由は、そこにはない」


「……」


アルノーが、紙を受け取る。


指が、わずかに強くなる。


「——分解する」


振り返る。


声が落ちる。


「案件を工程ごとに切り分ける」


「動かせる部分から先に流す」


「承認待ちは切り離せ」


指示が、通る。


迷いがない。


「……」


周囲の動きが、変わる。


紙が分けられる。


束が、細くなる。


止まっていたものが、ほどけていく。


「……」


アリシアは、それを見る。


大きな塊が崩れ、小さく分かれていく。


動ける形に。


「……」


息を吐く。


ほんのわずかに。


「……」


だが。


終わりではない。


「……」


机の上。


同じ質の紙が、まだ残っている。


一枚ではない。


複数。


「……」


視線を上げる。


アルノーへ。


「まだあるわね」


確認ではない。


「……あります」


即答だった。


「……」


頷く。


「全部、同じように処理する」


短く、告げる。


「止めないで」


「……承知しました」


今度は、迷いがない。


「……」


アリシアは、紙を置く。


次へ。


また次へ。


流れは、続く。


止まらない。


「……」


その中で。


一つだけ、違和感が残る。


「……?」


視線が止まる。


別の書類。


これは——


さらに外側。


「……」


指先が触れる。


開く。


「……」


言葉が、出ない。


内容が、違う。


領地だけではない。


「……」


ゆっくりと、顔を上げる。


視線が、アルノーに向く。


「……これ」


短く、示す。


「どこまで上がっているの」


「……」


今度の沈黙は、さらに長い。


その分だけ——


深い。


「……王都です」


低く、落ちる。


「中央に、関係しています」


「……」


空気が、変わる。


現場の問題ではない。


領地の問題でもない。


「……」


アリシアは、静かに息を吐く。


「……そう」


それだけ。


驚きは、見せない。


「……」


視線を落とす。


紙の上の文字。


その先を、読むように。


「……」


やることは、変わらない。


ただ——


範囲が広がっただけだ。


「……」


顔を上げる。


「続けるわ」


短く、告げる。


「止めない」


「……はい」


返る声は、揃っている。


「……」


アリシアは、再び手を伸ばす。


紙に触れる。


動かす。


流す。


「……」


現場は、回っている。


だが——


問題は、まだ終わらない。


むしろ。


ここからが、本番だった。

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