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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第七章|残された側

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第四話|急変

夕方の空気は、重かった。


雨が降りそうで、降らない。

窓の外には、低い雲が広がっている。


「……」


事務所の中は慌ただしかった。


電話。

確認。

現場からの報告。


短い言葉が絶えず飛び交っている。


「……」


若い方は、机に向かっている。


手は止まっていない。


書類を確認し、現場へ返し、流れを整える。


「……」


前より、時間はかかっている。


それでも、戻りは減った。

空気も荒れにくくなった。


「……」


「これ、先に確認お願いします」


「わかりました」


「……」


短いやり取りが続く。


以前とは違う。

勢いだけでは、もう動いていなかった。


「……」


その時、机の上の携帯が震える。


「……」


視線を落とす。


表示された名前を見た瞬間、年上の女性の表情が変わる。


「……」


すぐに取る。


「はい」


声は落ち着いている。


だが、指先にわずかに力が入る。


「……」


向こうの声が続く。

短く、事務的に。


「……」


その瞬間、空気が止まる。


「……わかりました」


静かに返す。


「すぐ向かいます」


「……」


通話が切れる。


「……」


若い方が顔を上げる。


「……何か?」


「……急変したって」


短く返る。


「……」


言葉が、重く落ちる。


「……」


若い方の呼吸が、一瞬止まる。


「……」


頭の中が、白くなる。


「……」


年上は、もう立ち上がっている。


バッグを取る。

迷いがない。


「……」


「行ってくる!」


短く言う。


「……」


若い方も、立ち上がりかける。


だが、その瞬間。

電話が鳴る。


別の机でも、現場からの声が重なる。


「……」


空気が、一気に張る。


「……」


若い方の手が止まる。

今すぐ、病院へ行きたい。

でも――。


「……」


視線が、事務所を見回す。

まだ、不安定なまま動いている。


「……」


年上が、その視線を見る。


「……ここ、お願い!」


静かに言う。


「……」


若い方の喉が動く。


「……」


逃げたい。

正直、そう思う。


怖い。

もし、間に合わなかったら。


「……」


胸が、苦しくなる。


「……」


だが、ふと浮かぶ。


——戻って来る場所は、残す。


「……」


小さく、息を吸う。


「……わかりました」


声は、少し震えていた。

それでも、逃げなかった。


「……」


年上が、小さく頷く。


「お願い」


それだけ残して、急いで出ていく。

扉が閉まる。


「……」


一瞬だけ、静かになる。


「……」


次の瞬間、電話が鳴る。

現場の声が重なる。


「確認お願いします!」


「この件どうしますか!」


「……」


若い方は、立ったまま息を飲む。


怖い。

まだ、自信なんてない。


「……」


でも、止めるわけにはいかなかった。


「……」


机へ戻る。

椅子を引く音が、小さく響く。


「……」


受話器を取る。


「……はい」


声を出す。


「順番に確認します」


「落ち着いて説明してください」


「……」


自分でも、不思議だった。


その言葉が、自然に出たことが。


「……」


前なら、もっと強く返していた。

急がせていた。


「……」


でも、今は違う。


「……」


繋がなければ、意味がない。


「……」


胸の奥で、あの言葉が重なる。


「……」


手を動かす。

確認する。

流れを整える。


一つずつ。


「……」


事務所は、まだ不安定だった。

完璧ではない。


「……」


それでも、止まってはいない。


「……」


若い方は、唇を強く結ぶ。


「……」


帰ってきてください。

心の中で、強く思う。


「……」


だから、それまで。

ここは、止めない。


「……」


電話の音が、また響く。

若い方は、顔を上げた。

逃げずに。


今度は——

支える側として。

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