第三話|崩しに来るもの
昼の光は、強くなっている。
朝の静けさは、もうない。
屋敷の中も、はっきりと動いていた。
「……」
執務室の空気は、落ち着いている。
紙の流れは途切れず、声も低く揃っている。
「……」
整っている。
まだ完全ではないが、崩れてはいない。
「……」
アリシアは、視線を落とす。
書類を一枚、確認する。
判断は、任せたものだ。
「……」
内容を追う。
一瞬で理解する。
わずかな修正点も見える。
「……」
指が動きかける。
止まる。
「……」
そのまま、閉じる。
「問題ないわ」
短く言う。
「……」
相手が、気づかれない程度に小さく息を吐く。
「……」
その時、足音が少しだけ強く近づく。
廊下から、迷いのない速さで。
「……」
ノックが短く、はっきりとされる。
「入って」
「失礼いたします」
扉が開く。
「……」
入ってきたのは、伝令役の一人。
表情は整っている。
だが——
わずかに緊張がある。
「報告がございます」
「……言って」
「北の領地にて……」
「納入の遅延が発生しております」
「……」
ほんの一瞬、空気が止まる。
「……続けて」
「加えて」
言葉を選ぶように。
「契約先より、見直しの打診が入っております」
「……」
静けさが、重くなる。
「……理由は?」
「管理体制への不信とのことです」
「……」
その言葉が、はっきりと落ちる。
「……」
部屋の中の視線が、わずかに動く。
互いにではなく、書類へ。
手元へ。
「……」
アリシアは、動かない。
「……どの範囲まで影響が出ている?」
「現時点では一部ですが」
「拡大の可能性がございます」
「……」
一度だけ、頷く。
「……」
誰に振るかも、どこまで介入するかも、すぐに判断はできる。
「……」
だが——
「……」
「この件」
視線を上げる。
「誰が見てる?」
「……」
数人の視線が、揺れる。
「……私が」
一人が名乗る。
さっきの書類を出した者だ。
「……」
逃げないように、その顔を見る。
「現状の整理は?」
「……遅延の原因は輸送経路の混乱で」
言葉を選びながら。
「代替手段は検討中です」
「……」
「契約先への対応は?」
「……まだ」
一瞬、詰まる。
「これからです」
「……」
静かに、息を吐く。
「……」
ここで、自分が入れば確実に早い。
まとめて、処理できる。
「……」
だが。
「……」
「あなたがやって」
はっきりと言う。
「……」
空気が、わずかに揺れる。
「契約先との対応も含めて」
続ける。
「任せる」
「……」
息を飲む気配。
「……よろしいのですか」
「ええ」
迷いなく返す。
「判断も含めて」
「……」
言葉が、重く落ちる。
「……はい」
少し遅れてだが、逃げずに返る。
「……」
手が動く。
さっきよりも、明確に書類をまとめる。
「……」
その様子を、見る。
手は出さない。
だが、目は離さない。
「……」
部屋の空気が、変わる。
張り詰める。
だが、崩れない。
「……」
外からの圧が、はっきりと
かかっている。
「……」
それでも、流れは止まらない。
「……」
アリシアは、机の上へ視線を落とす。
「……」
試されている。
そう、理解する。
「……」
自分ではなく、この“形”が。
「……」
小さく、息を吐く。
「……」
崩させない。
それだけを、決める。
「……」
部屋は、再び動き出していた。
外圧を受けたまま、止まらずに。




