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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第六章|手を離す強さ

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第ニ話|任せるという選択

朝の光は、すでに高くなっている。


長い廊下の窓から差し込む光が、床に細く伸びている。


人の行き交う気配も、少しずつ増えていた。


「……」


アリシアは、執務室の扉の前で足を止める。


いつもと同じ場所。

同じ時間。


「……」


中には、もう人がいる。


書類をめくる音。

低く交わされる声。

小さく重なり合う気配。


「……」


手をかける。


その前に、ほんの一瞬だけ視線を落とす。


「……」


今までは、扉を開けた瞬間から、全てを引き取っていた。


判断も、責任も、流れも。


「……」


だが、今日は違う。


「……」


静かに扉を開ける。


「おはようございます」


一斉に、声が上がる。

少しだけ緊張を含んで。


「おはよう」


短く返す。

それだけで、場が整う。


「……」


机へ向かう。


視線を落とす。

書類が揃っている。

並びは整っている。


だが——

わずかな乱れが残る。


「……」


一枚、手に取る。

紙の感触が指に伝わる。


目を通す。

内容はすぐに入る。

問題点も、見える。


「……」


ほんの一瞬、指が止まる。


ここで直せば、早い。

迷いなく整えられる。


「……」


だが、そのまま顔を上げる。


「これ」


静かに言う。


「誰が見たの?」


「私が」


一人が答える。

声が、少しだけ固い。


「……」


視線を向ける。


逸らさせないように、相手の目を見る。


「どう判断した?」


「……え」


言葉が詰まる。

指先が、わずかに動く。


「……」


急かさず、待つ。


「……問題ないと」


小さく。


「そう思いました」


「……」


頷く。

否定しない。


「……じゃあ、そのまま進めて」


「……」


空気が、わずかに止まる。


誰かが息を飲む気配。


「……よろしいのですか?」


戸惑いが混じる。


「ええ」


迷わず返す。


「あなたの判断で」


「……」


その言葉が、重さを持って

静かに落ちる。


「……はい」


もう一度、小さく頷く。

今度は、はっきりと。


「……」


さっきよりも、ゆっくりと

手が動く。


確認するように、一行ずつ。


「……」


それを見届ける。


手は出さない。

視線だけで追う。


「……」


視線を外す。

他の書類へ。


「……」


今までは、ここで細かく直していた。


手を入れて、整えて。


「……」


だが、しない。


「……」


そのまま、任せると決めた。


「……」


「お嬢様」


少しだけ慎重に、別の声がかかる。


「この件ですが」


「……」


顔を上げる。


「どう思う?」


すぐに、問い返す。


「……」


一瞬の沈黙。

視線が泳ぐ。


「……優先度は低いかと」


少し迷いながら、答えが出る。


「理由は?」


「……他の案件に比べて影響が小さいためです」


「……」


一度だけ、頷く。


「いいわ」


短く。


「それで進めて」


「……はい」


今度は、少し早い返事。


「……」


目に見えない形で、空気が変わる。


「……」


人の動きが揃い始める。

小さなズレが減る。


「……」


完璧ではない。


判断も、まだ揺れる。

手も、止まりかける。


「……」


だが——

止まらない。


「……」


確かに、流れている。


「……」


それでいいと、思う。


「……」


胸の奥で、何かがほどける。

強くはない。


「……」


だが、確かに一人で抱えていた時とは違う。


重さは、変わらないはずなのに、形が違う。


「……」


潰れない。


「……」


小さく、息を吐く。

肩の力が、わずかに抜ける。


「……」


「……ありがとう」


ほとんど独り言のように、

小さく呟く。


「……」


それでも、何人かが顔を上げる。

ほんの一瞬だけ。


「……」


何もなかったように、すぐに視線を戻す。


「……」


だが、その空気は確かに残る。


「……」


今度は、一人ではない形で

進んでいる。





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