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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第六章|手を離す強さ

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第一話|戻る場所、進む場所

朝の光が、やわらかく差し込んでいる。


カーテンの隙間から、細い線のように。


静かな部屋の中で、その光だけがゆっくりと動いている。


「……」


まぶたが、わずかに持ち上がる。


視界に入るのは、見慣れた天井。

公爵邸の、自室。


「……」


息をひとつ、吐く。


胸の奥に、何かが残っている。

形のない感覚。


「……」


夢を見ていた気がする。

はっきりとは思い出せない。


だが、消えてはいない。


「……」


言葉。

声。


遠くで、誰かが話していたような。


「……」


“戻れる場所は、残す”


「……」


小さく、瞬きをする。


まぶたの裏に残っていたものが、ゆっくりと薄れていく。


「……」


夢だと、わかっている。


それでも、妙に、現実のように残っている。


「……」


体を起こす。

シーツが擦れる音が、小さく響く。


静かな部屋に、その音だけが広がる。


「……」


手を、膝の上に置く。

少しだけ、力が入る。


それから、抜く。


「……」


窓の外を見る。

庭は、いつも通り整っている。


朝の空気は澄んでいて、風も穏やかだ。


「……」


何も、変わらない。


「……」


だが——

自分は、同じではない。


「……」


昨日までなら、すぐに考えていた。


何を片付けるか。

どこから手をつけるか。

どこに問題があるか。


「……」


無意識に頭の中で、順番を組み立てるように。


「……」


今は、少しだけ違う。


「……」


息をひとつ吐く。

肩の力が、わずかに抜ける。


「……」


全部を抱える必要はない。

その考えが、自然に浮かぶ。


「……」


当たり前のことのようで、今までできていなかったこと。


「……」


「お嬢様」


控えめな声が、扉の外から届く。


「お目覚めでしょうか」


「……ええ」


短く返す。

声は落ち着いている。


「入っていいわ」


「失礼いたします」


扉が開く。


「……」


いつも通りに、ミアが入ってくる。


背筋を伸ばし、静かな動きで。


「……」


その姿を見る。


「……」


これまでと、同じ光景。


だが、見え方が少しだけ違う。


「……」


「ミア」


名前を呼ぶ。


「はい」


すぐに返る。


「……」


一瞬だけ、ほんのわずかに

言葉を選ぶ。


「……少し、頼んでもいい?」


「……」


ミアの動きが止まる。

驚いたわけではない。


だが、一拍だけ間が空く。


「……もちろんです」


迷いなく、すぐに返る。


「……」


その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる。


「……」


「ありがとう」


小さく言う。


「……」


ミアが、わずかに頭を下げる。

それだけのやり取り。


だが——

そこに、確かな変化がある。


「……」


窓の外へ、視線を戻す。


朝の光が、少し強くなっている。

庭の影も、短くなり始めている。


「……」


進む。

同じ場所で、同じように。


「……」


だが、もう一人ではない形で。

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