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抱え込みすぎて壊れる前に消えた私が、別の世界でやり直したら  作者: 絵宮 芳緒
第五章|残されたものの形

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第一話|回り始めた現場

朝の空気は、まだ冷たい。


いつもと同じ時間。

いつもと同じ場所。


「……」


扉を開ける。

中は、すでに動いていた。


「おはようございます!」


明るい声が飛ぶ。

迷いがない。

速い。


「……おはよう」


年上の女性は、短く返す。

視線だけで全体を見る。

一度で、足りる。


「……」


机の上。

紙は並んでいる。

昨日より、揃っている。


「……」


若い方が動いている。

手は止まらない。

次を、次をと進めていく。


「これ、先に回していいですか?」


間を置かずに、聞く。


「……待って」


静かに止める。


強くはない。

だが、迷いはない。


「順番、決める」


短く、それだけ。


「……あ、はい」


一瞬だけ、手が止まる。

だが、すぐに動く。


「……」


間違いなく、速い。


「……」


だが——

視線が、少しだけ止まる。


紙の端。

揃いきっていない列。


「……」


前なら、ここで一度止めていた事に気づく。


「……」


今は、速さのままに流れている。


「……」


一度、電話が鳴る。

間を置かずに、もう一度。


「はい!」


明るく、若い方が取る。


「大丈夫です、進めてます!」


迷いなく返す。


「はい、勉強になります!」


すぐに続ける。


「……」


軽い。


そう感じた瞬間——

言葉が、引っかかる。


「……」


——ちゃんと見てる?


——その順番でいいの?


「……」


思い出す。

あの声で、何度も言われた言葉。


「……」


小さく、息を吐く。


「……」


「一回、止めて」


静かに言う。


「え?」


若い方が顔を上げる。


「全部じゃなくていい」


続ける。


「流れてる分だけ」


机に手をつく。


「ここから、順番引き直す」


「……」


若い方が、少しだけ黙る。


「……はい」


今度は、少しだけ間を置いて返す。


「……」


紙に手を伸ばす。

一枚ずつ、位置を整える。


優先。

担当。

戻り。


線を引く。


「……」


前は、見ているだけだった。


「……」


今は、違う。

自分で決める。


「……」


電話が、また鳴る。

今度は、自分が取る。


「……はい」


声を整える。


「状況、共有させてください」


先に言う。


「……」


向こうの声が、一瞬止まる。


「現在、整理をかけています」


はっきりと。


「このあと順次流します」


「……」


自分で、迷いなく言っている。


「……少しお時間をください」


それだけ伝えて、切る。


「……」


静かになる。

さっきとは違う静けさ。


「……」


机を見る。

紙はまだある。


だが、流れが見える。


「……」


若い方も、手を止めている。

初めて、待っている。


「……」


小さく、息を吐く。


「……やるよ」


それだけ言う。


「……はい」


少しだけ、落ち着いた声で

返事が来る。


「……」


動き出す。

今度は、揃えてから。


「……」


確かに、回り始めている。


「……」


だが——

ふと、思う。


「……」


前は、もう少し静かだった気がする。


「……」


その理由を、まだ言葉にできないまま。

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