第五話|選ばれていなかった側
「ソフィ」
短く、父に呼ばれる。
「……はい」
すぐに返す。
少しだけ、背筋が伸びる。
「来なさい」
それだけ。
「……」
父の執務室へ入る。
扉を閉める。
音が、やけに大きく響く。
「……」
父が机の前で、立っている。
座ってはいない。
「……」
それだけで、空気が変わる。
「……今回の件だが」
低く、落ちる。
「……」
ソフィは、小さく頷く。
「……」
「お前は、どう理解している?」
問われる。
「……」
一瞬だけ、迷う。
だが。
「……アリシア嬢とバルド様の婚約は解消され」
言葉を選ぶ。
「その後のことが、決まるのかと」
わずかに、期待を残したまま。
「……」
短く、沈黙が落ちる。
「……」
父は、迷わない。
「ならん」
即座に、それだけ。
「……」
思考が、止まる。
「……」
理解が、遅れる。
「……どうして」
小さく、出る。
「……」
「今回の件は、すでに整理されている」
淡々と。
「……」
「お前が入る余地はない」
「……」
その一言で、何かが崩れる。
静かに、確実に。
「……」
息が、うまく吸えない。
「……」
「だが……」
「……」
「家同士の関係は続く」
「……」
視線が、わずかに上がる。
「……」
「それ以上ではない」
短く、続く。
「……」
意味は、はっきりしている。
「……」
ソフィの指が、わずかに動く。
見えないところで、握る。
「……」
「……では」
言葉が見つからないまま、探す。
「……私は」
「……」
父は、わずかに視線を落とす。
一度だけ、それから。
「お前が望む場所ではない」
静かに、告げる。
「だが」
続ける。
「家として用意された場所はある」
「……」
逃げ場はない。
「そこに入れ」
それだけ。
「……」
言葉が冷たく、確実に落ちる。
「……」
選ばれたわけではない。
「……」
ただ、置かれるだけだ。
「……」
喉が、動く。
何も出ない。
「……」
今までのものが、音もなく消えていく。
「……」
「下がれ」
短く言われる。
「……」
それで終わりだ。
「……」
形だけ、頭を下げる。
「……」
部屋を出る。
扉が閉まる。
今度は、音が小さい。
「……」
廊に出る。
静かだ。
何も変わっていないはずなのに。
「……」
一瞬だけ、足が止まる。
「……」
——選ばれたと思っていた。
「……」
あの時、あの場所で。
「……」
違った。
「……」
ただ、そこにいただけだった。
「……」
息を吸う。
浅い。
「……」
「……え?」
小さくそれだけ。




